フィリップスエレクトロニクスジャパン
Technical Note

2008年4月号
Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

PET/CT−OncologyのためのPET/CT―TOF

中嶋 恭彦
マーケティング本部核医学

本稿では,フィリップスPET/CTの腹部領域における技術到達点について報告する。

■ TOFを実現した次世代PET/CT「GEMINI TF」

フィリップスは,商用装置として世界初のTime of Flight(TOF)技術を搭載した次世代PET/CT「GEMINI TF」を開発した(図1)。
TOF技術は,検出器に到達した2対の消滅放射線の飛行時間差を計測し,発生点を特定しようとするもので(図2),1982年ごろにWashington University(SuperPET1),CEA LETI(TTV 01),University of Texasなどで研究開発が行われた。当時の装置は,(1) シンチレータとして用いたBaF2,CsFの511KeVに対する阻止能が比較的低く,十分にTOF効果が得られなかった,(2) エネルギー分解能が50%程度であった,(3) 空間分解能が12〜16mm程度であった,(4) 時間分解能の安定性が確保できなかった,などの理由により実用には至らなかった。

図1 GEMINI TF
図1 GEMINI TF
図2 TOF概念図
図2 TOF概念図

GEMINI TFは,PETにおいて大切な5つのコンポーネント(シンチレータ,検出器,光電子増倍管,電気回路,画像再構成法)を最適化することにより,時間分解能650ps(ピコ秒)を安定して確保することが可能になった(図3)。
核医学検査装置においては,得られる信号量が他のモダリティに比べて非常に低く,SNRの向上とともに空間分解能の向上は黎明期以来の命題である。80年代の装置は,ベースであるBGO使用PET装置のパフォーマンスにいかに近づけるかという点に重きを置いたが,次世代PETではベースである最新の装置をTOF技術により,いかに性能を飛躍させるかに重点を置いている(図4)。
TOF技術から得られる大きなメリットはSNRの向上である。Budingerらの理論1)によると,SNRの向上度は線源の大きさD(被検者の大きさ)と時間分解能Δxによって得ることができる〔式(1)〕。

 SNRincrease=(D/Δx)1/2……式(1)

例えば,腹部径40cmの被検者を時間分解能650psの装置で検査すると,式(1)より,(40cm/10cm)1/2=2となり,2倍のSNRが理論的に得られることになる。
信号源を体内に注射された放射線に求める核医学検査において,投与量を増やすことは被曝量を増やすことにつながり安易に選択できない。また,ノイズの増加は投与線量に対して線型ではないため,SNRの向上は容易ではない。最新の画像再構成法によって得られるSNRの向上度は60%までであるのに対し,TOFによる向上度は200%程度と飛躍的に向上する。

図3 GEMINI TFのハードウエア
図3 GEMINI TFのハードウエア

図4 TOFの昨今
図4 TOFの昨今

■ TOFを実現する最尤推定法

全身PET検査において腹部領域の検査は,減弱(吸収)によって相対的に信号量が少なくなり,散乱,偶発同時計数の増加によりノイズの増加が著しい部位である。画像再構成上,問題となるのは偽陽性像となる,いわゆる「ホットスポット」像である(図5)。
現在,最尤推定法の1つであるOSEM(ordered subset expectation maximization)法が主流である。OSEM法は少ないiterationでML-EM(maximum likehood expectation maximization)法とほぼ同じ画像を得ることができるため,現在主流の方法である。計算時間が比較的短いという特徴があるが,サブセットバランスが保たれない場合にはML solutionに収束しないという問題もある2)
また,近年のクリニカルPETにおいて,FDGを低投与量での短時間検査を行う場合が見受けられる。十分な計数を得られていない場合に,全身収集による異なるポジションでの異なるTrueカウント数を高周波成分として保存するOSレベルで計算を行う場合,特に,腹部領域で偽陽性となる発散状態や,これを避けるために高周波成分を極端に落とした条件でSNRのみを強調した画像が見られ,最適条件の設定が難しい部分である。
フィリップスでは,収束性により優れる3D-RAMLA(1回の投影ごとに画像の推定を更新する)法3)や3D-OSEM(RAMALA+吸収補正など補正項を統計計算ループに組み込む)法4)にフィルタを用いず,Blob(Kaiser-Bessel関数)を用いて画像再構成法を進化させてきたが(図6),いま遂に20年以上の時を経てTOF技術を組み込んだ装置を発売するに至った。
腹部領域における画像を示す(図7,8)。TOFによるSNRの向上により短時間撮影においても大きなノイズは見られない。

図5 肝臓におけるノイズ
図5 肝臓におけるノイズ
これは最尤推定法(統計学的画像再構成法)による計算が収束せず発散してしまった場合に見られ,投与量,収集時間,画像再構成条件などが最適化されていない場合によく見られる画像で,陽性集積との鑑別が必要になる。

図6 フィリップスPET/CTにおける画像の違い
図6 フィリップスPET/CTにおける画像の違い

図7 GEMINI TFの画像(Images Courtesy of Saint-Luc Hospital, Brussels)
図7 GEMINI TFの画像(Images Courtesy of Saint-Luc Hospital, Brussels)

図8 GEMINI TFの画像(Images Courtesy of University Hospitals, Cleveland)
図8 GEMINI TFの画像(Images Courtesy of University Hospitals, Cleveland)

TOF搭載のPET/CT装置は数年後続々と登場してくるであろう。
GEMINI TFの時間分解能は650psである。GEMINI TFの登場により,時間分解能競争がいま始まったと言える。


●参考文献
1) Budinger, T.F. : Time-of-flight positron emission tomography ; Status relative to conventional PET. J. Nucl. Med., 24・1, 73〜78, 1983.
2) 尾川浩一 : ECTにおける反復的画像再構成. 日本放射線技術学会雑誌. 56・7, 890〜894, 2000.
3) Browne, T., et al. : A row-action alternative to the EM algorithm for maximizing likelihoods in emission tomography. IEEE Trans. Med. Imaging, 15・5, 687〜699, 1996.
4) Kadrmas, D., et al. : LOR-OSEM ; Statistical PET reconstruction from raw line-of-response histograms. Physics in med. & Bio., 49・20, 4731〜4744, 2004.



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