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Technical Note

2011年7月号
トモシンセシスの技術と特徴

DMG−デジタルマンモグラフィの最新技術─HOLOGIC Selenia Dimensions

落合是紀
XR営業本部

日立では,乳房の画像診断に画期的な診断能の向上をもたらす,デジタルブレストトモシンセシス(乳房トモシンセシス)技術を搭載した乳房X線撮影装置「Selenia Dimensions」(HOLOGIC社製)の販売を開始した。
乳房トモシンセシスは,圧迫された乳房を短時間でスキャンし,複数の角度で静止画像を収集する三次元撮影技術である。収集した個々の画像は,一連の薄い高解像度断層像に再構成され,1画像ずつ,または連続的にシネモードで表示する。
再構成されたトモシンセシス断層像は,従来の二次元マンモグラフィ撮影における諸問題を減少,あるいは排除することができ,診断や検診精度の改善,再検査の減少,放射線科医の確信度向上,および,3Dでの病変位置の特定など多くの効果をもたらすと期待できる。

■トモシンセシスとは

従来のX線マンモグラフィは,2D画像のモダリティである。従来のマンモグラフィでは,関心病変の上下からのX線信号の散乱のため,関心病変を視覚化するのが往々にして困難なことがある。これは,フィルムカセッテまたはデジタル検出器上のX線信号が,その位置の上部の全組織における全X線吸収で決まるためである。
トモシンセシス1)〜5)は,組織の重なりを効果的に減少,または排除することができる3D撮影法である。図1に,乳房トモシンセシスを搭載したSelenia Dimensionsを示す。

図1 Selenia Dimensions (参考文献6)より引用)
図1 Selenia Dimensions (参考文献6)より引用)

■トモシンセシスの撮影

トモシンセシスの撮影においても,乳房は通常の方法で圧迫される。圧迫した乳房に対し,X線管を±7.5°,計15°回転させる。この間に,15回の低線量照射をほぼ1°ごとに行い,画像を収集する。これに要する撮影時間は約4秒と,非常に高速である。これは全撮影時間をできるだけ短くして,微小石灰化像やスピキュラ像の視認性を劣化させる受診者の動きを,できるだけ減らすことになり,大きな効果がある。
撮影に際しては,従来の2D撮影と同じく,CC,MLOをはじめあらゆるビューに対応できる。また,被ばく線量についても,Selenia Dimensionsでは平均的な乳房に対する2D撮影で1.2mGy,トモシンセシス撮影で1.4mGyと,ともに低い平均乳腺線量(AGD)での撮影が可能となっており,トモシンセシスと2DのAGDがほぼ同程度であることは特筆すべき点である。
撮影モードについては,2Dのみ,3D(トモシンセシス)のみ,3D+2Dの連続(コンボモード)の3種類から選択できる。コンボモードにおいては,まず約4秒の3D撮影が行われ,数秒の休止後2D撮影が行われる。この間約10秒であるが,圧迫は同じ状態に保持されるので,2Dと3Dの画像の比較読影が容易に行えるなどの利点がある。また,被検者や施行者にとっても,圧迫時間や撮影スイッチの保持時間が現状の2D撮影に比べ数秒延びるだけであり,負担はほとんどない。そのほか,撮影のスループットに対しても影響を無視でき,現状の能率を維持することが可能である。

■画像再構成と表示

Selenia Dimensionsでは,X線管を15°回転させる間に15回のX線照射を行う。これにより得られる15枚の角度の異なる画像から,FBP法で画像処理された再構成画像を得,撮影台に平行な断面の高解像度画像を計算し,高さを変えた画像を順次表示する。通常,これらの画像は1mmのスライス間隔で再構成される。
再構成されたトモシンセシス断層像は,同時に1枚または反復動画で見ることができる。元画像である投影像は,おのおのが低線量の2Dのマンモグラムであり,これらは必要に応じて従来どおり観察することができる。2つのモード間の高速切り換えができるソフトコピーワークステーションでは,各モードで撮影した病変部と他のモードで撮影した対応する病変部を素早く特定できる(図2)。

図2  トモシンセシスの画像表示 (参考文献6)より引用)
図2 トモシンセシスの画像表示 (参考文献6)より引用)

■トモシンセシス臨床試験6)

HOLOGIC社は,トモシンセシスの性能を調査するため,複数の施設や読影医による試験を行った7)。試験の目的は,従来のデジタルマンモグラフィ(2D)に,乳房トモシンセシス(3D)を加えた場合の放射線科医によるがん検出率と検診の再検率を,2D画像のみを用いた場合と比較することである。試験では,女性1083人が両乳房の2D撮影と3D撮影を受けた。画像は,検診マンモグラフィと診断マンモグラフィから集められた。2D,3D撮影ともに,両乳房のCC画像とMLO画像からなっている。3D撮影は,HOLOGIC Seleniaのトモシンセシス・プロトタイプを用いて行われた。
ランダムに選ばれた316例の撮影データが,放射線科医12人により検討された。まず2D画像が評価され,次に,2D画像と3D画像を一緒に読影し評価した。読影者全員について,臨床評価結果をROC曲線に表し測定した結果,2D+3D画像による読影結果の方が,2D画像のみの読影結果に対し優れていた。
図3に,全読影者のROC曲線の平均から作成されたROC曲線を示す。読影者のROC曲線下の平均面積は,forced BI-RADS評価を用いて0.83から0.90と0.07増加し,0.0004のp値(有意確率)で高い有意性の増加を示している。2D画像に3D画像を組み合わせた読影では,2D画像のみの読影において,BI-RADSで4および5と評価されたがんの割合は66%から76%に改善され,BI-RADSで1〜3と評価された特異度は84%から89%に増加し,43%の平均再検率の減少が見られた。
この複数施設による試験で,放射線科医の読影成績は2D画像に3D画像を組み合わせて読影した場合,2D画像のみで読影した場合と比較して著しく改善された。

図3 全読影者の平均ROC曲線(参考文献6)より引用)
図3 全読影者の平均ROC曲線(参考文献6)より引用)

■臨床画像

図4に臨床画像6)を示す。いずれも従来の画像に比べ,トモシンセシスの断層像で対象が明瞭に描出されている。

図4 臨床画像(参考文献6)より引用)
図4 臨床画像(参考文献6)より引用)

乳房トモシンセシスでは,組織の重なりや構造ノイズに起因する問題を軽減,あるいは排除できる。また,診断精度の改善や再検査の減少,読影医の確信度向上など,多くの効果をもたらす画期的な撮影技術である。

●参考文献
1) Dobbins, J.T.V, Godfrey, D.J. : Digital x-ray tomosynthesis ; Current state of the art and clinical potential, Phys. Med. Biol., 48・19, R65〜106, 2003.
2) Newman, L. : Developing technologies for early detection of breast cancer ; A public workshop summary. Washington, D.C., Institute of Medicine and Commission on Life Sciences National Research Council, 2000.
3) Niklason, L.T., Christian, B.T., Niklason, L.E., et al. : Digital tomosynthesis in breast imaging. Radiology, 205・2, 399〜406, 1997.
4) afferty, E.A., Kopans, D.W., Wu, T., et al. : Will a Single View Do? Session SSM02-03 Breast(Digital Mammography), RSNA, 2004.
5) Smith, A.P., Ren, B., DeFreitas, K., et al. : Initial Experience with Selenia Full Field Digital Breast Tomosynthesis. In ; Proceedings of IWDM Durham North Caroline, June 2004, Ed. Etta Pisano.
6) 落合是紀, Smith, A. : 乳房トモシンセシス−マンモグラフィの性能向上. MEDIX, 54, 30〜36, 2011.
7) Rafferty, E.A., Niklason, L., Halpern, E., et al. : Assessing Radiologist Performance Using Combined Full-Field Digital Mammography and Breast Tomosynthesis Versus Full-Field Digital Mammography Alone ; Results of a Multi-Center, Multi-Reader Trial. Session SSE26-02, RSNA, 2007.

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