GEヘルスケア・ジャパン
Technical Note

2010年4月号
Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

MRI−肝臓MRIにおける最新技術

貝原 雄
MRセールス&マーケティング部

MRI装置の技術開発はハードウエア中心に変遷してきたが,近年はMRI特有の情報を生かした“アプリケーション”の開発が急速に進んでおり,その特長も多岐にわたっている。
特に肝臓領域に関しては,2008年以降新しい肝特異性造影剤Gd-EOB-DTPAが臨床現場へ広く普及し,MRI装置のアプリケーション開発においても最も注目されている領域の1つである。肝臓MRIにおいて,より高速で高分解能・高コントラストな撮像法が求められているのはもちろんであるが,一方で,各種の定量的なアプローチにも大きな期待が寄せられている。本稿では,アプリケーションを中心に肝臓MRIにおける最新技術をいくつか紹介する。

■ 肝臓領域の最新アプリケーション

1.LAVA-XV
3D FastSPGRシーケンスをベースとした全肝3Dダイナミック撮像法(LAVA)では,ダイナミック相では特に高時間分解能が,肝細胞造影相では512マトリックス,薄いスライスをベースとした高空間分解能が求められている。
LAVAの応用法である“LAVA-XV”では,パラレルイメージング法を従来のASSETとは異なるData-Driven方式のARCを採用している。ARCは,二次元パラレルイメージングでセルフキャリブレーション方式を採用しているため,従来法よりも撮像の高速化が可能なほか,キャリブレーション撮像時と本撮像時の呼吸停止の位置ズレによるアーチファクトを低減することが可能となり,特に,EOB肝細胞造影相撮像時の高分解能ボリュームイメージで有用な撮像法となる(図1)。


図1 LAVA-XVの特長
図1 LAVA-XVの特長

2.Star Map(T2Map)
“Star Map”は,マルチエコー収集の2D Segmented FastGRE法を用いて撮像した後,T2減衰の差をカラーマップ化(R2マップ)するアプリケーションであり,T2値が短縮している領域が相対的に赤く表示されている。このアプリケーションは,肝臓組織内の鉄沈着分布の評価を目的とし,本体コンソール上での視覚的評価と,ワークステーションによる鉄の定量測定が可能となっている(図2)。


図2 肝臓内の鉄沈着分布を表すR2*マップ
図2 肝臓内の鉄沈着分布を表すR2マップ
赤い領域は相対的にT2値が短縮しており,鉄沈着を表していると考えられる。

■ 水・脂肪分離技術:IDEAL&FLEX

1.IDEAL
Dixon法を利用した水・脂肪分離技術(脂肪抑制技術)は,1980年代半ばに提唱されたが,撮像時間や局所磁場不均一の影響を受けやすいという点で一般的な撮像法として広まることはなかった。
IDEAL1)は,スタンフォード大学(当時)のScott B. Reederらが2005年に報告した3-point Dixon法をベースとする新しい水・脂肪分離技術法であり,Region Growing法と逐次法を用いてピクセルごとの磁場不均一量を正確に計算(フィールドマップ)し補正することが,従来のDixon法による水・脂肪分離と大きく異なる点である(図3)。
フィールドマップを用いることで,従来のCHESS法や脂肪選択IR法と比較して大幅に脂肪抑制の精度が向上するため,ここ数年で国内学会においてもセッションとして取り上げられるほど注目を集めている技術である。2009年からの国内普及以降,特に局所磁場不均一の強い領域での脂肪抑制には第一選択の手法となり始めている。


図3 IDEALの技術概要
図3 IDEALの技術概要

2.LAVA-FLEX
“LAVA-FLEX”は,前述のLAVAによる高分解能3D撮像と,セルフキャリブレーション方式のパラレルイメージングであるARC,IDEALで開発された水・脂肪分離技術の3つを組み合わせた最新の肝臓用アプリケーションである。
高速撮像化のため2-point Dixon法が応用され,IDEALとほぼ同等の精度で息止め時間内での正確な水・脂肪分離が可能となるため,局所磁場不均一の強い肺野近傍の広範囲撮像においても均一な脂肪抑制画像が得られる(図4)。
また,LAVA-FLEXを使用すると,一度の息止め撮像でIn-Phase,Out-of-Phase,水画像(脂肪抑制画像),脂肪画像の4つの高分解能画像が同時に得られるため,特に,小さな臓器における微量な脂肪信号の検出に有効活用できると考えられる(図5)。


図4 脂肪抑制効果の違い
図4 脂肪抑制効果の違い
a:脂肪選択IR法。局所磁場不均一の影響で,脂肪抑制不良が生じる領域がある。
b:FLEX法。局所磁場不均一量を補正し,すべての領域で均一な脂肪抑制効果が得られる。


図5 LAVA-FLEXの4つの画像コントラスト:血管筋脂肪腫の症例
図5 LAVA-FLEXの4つの画像コントラスト:血管筋脂肪腫の症例

■ 肝臓の硬さの画像化

1.MRエラストグラフィ“MR-Touch”(W.I.P.)
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)などのびまん性肝疾患に対しては,MRIによる定量的な検査の研究が進められており,前述のStar Mapや水・脂肪分離技術を用いた脂肪や鉄沈着の定量測定は,その1つの手法として挙げられる。その一方で,肝臓の線維化の程度を非侵襲的に評価する手法として,最近ではMRエラストグラフィにも多くの注目が集まっている。
“MR-Touch”は,Active Driverと呼ばれる外部加振装置とPassive Driverと呼ばれる振動を人体に伝播させるためのデバイスを用いて,肝臓領域に対して振動を与えながらMRIで組織の弾性(elasticity)を測定するシステムであり,2009年に,米国ではFDA510kで認可されている最新の臨床アプリケーションである(ただし,国内薬事未承認)。
データ収集に用いられるパルスシーケンスはマルチフェイズのGRE法を応用し,スライス選択RFの印加からエコー収集を行う間にMotion-Sensitizing Gradient(MSG)と呼ばれる双極型の傾斜磁場を印加する点が特徴として挙げられる。このMSGを人体に与える振動周波数と同期させて印加することによって,肝臓内の振動の伝播をMRIでの位相変化量としてとらえ,結果として組織の硬さを定量化することが可能となっている(図6)。
メイヨークリニックが行った研究によると,健常者と線維化が進行している患者においてその硬さの値(Shear stiffness)に有意差がある2)と報告されており,わが国での早期臨床利用が期待される。


図6 MR-Touchによる肝臓の“硬さ”評価のワークフロー
図6 MR-Touchによる肝臓の“硬さ”評価のワークフロー

IDEALやFLEXをはじめとした正確な水・脂肪分離技術は,現在こそイメージングにのみ応用されているが,数年後には水,脂肪,鉄それぞれが定量測定できるレベルにまで進化すると考えられる。
近い将来,MRI検査は形態や機能の評価を担うだけでなく,脂肪測定や線維化の定量評価など,新たな臨床的価値を生み出す手段となりうるだろう。


●参考文献
1) Reeder, S.B., et al. : Magn. Reson. Med., 54・3, 2005.
2) Yin, M., Talwalkar, J.A., Glaser, K.J., et al. : Clin. Gastroenterol. Hepatol., 5・10, 2007.


【問い合わせ先】 MRセールス&マーケティング部  TEL 0120-202-021