GEヘルスケア・ジャパン

ホームの中のinNavi Suiteの中のGEヘルスケア・ジャパンの中のAdvanced Report の中のアミロイドイメージングの現状と展望

healthymagination series 2011
Advanced Report No.7

第51回日本核医学会学術総会,第31回日本核医学技術学会総会学術大会ランチョンセミナー3

アミロイドイメージングの現状と展望

石井 賢二
地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所附属診療所・神経画像研究チーム

石井 賢二 1985年京都大学医学部卒業。90年東京都老人総合研究所ポジトロン医学研究施設。97年米国立衛生研究所NINDS客員科学者を経て,2010年より現職。

第51回日本核医学会学術総会,第31回日本核医学技術学会総会学術大会が10月27日(木)〜29日(土)の3日間,つくば国際会議場(つくば市)にて開催された。28日に行われたGEヘルスケア・ジャパン共催のランチョンセミナー3では,東京都健康長寿医療センター研究所附属診療所所長の石井賢二氏と愛媛大学医学部放射線科教授の望月輝一氏が「healthymagination—分子イメージングの将来展望」をテーマに講演した。


最近の研究により,アルツハイマー病(Alzheimer's disease:AD)は実際に臨床症状が現れるかなり以前から,脳では病理学的な変化が起こっていることがわかってきた。また,アミロイドイメージングの登場により,アミロイドの蓄積のプロセスをつぶさに追跡可能となった。本講演では,アミロイドイメージングの現状と展望について述べる。

■ADの新しい診断基準

米国のNational Institute on Aging(NIA)とAlzheimer's Association(AA)が2011年4月,ADの臨床診断基準(NINCDS-ADRAD)を27年ぶりに改訂した1)〜3)。その最大のポイントは,バイオマーカーによる評価が含まれたことである。
アミロイド沈着を示すバイオマーカーとしてAβ(アミロイドβ)があるが,PETアミロイドイメージングによってAβの蓄積が検出されることが,AD診断の必要条件とされている。また,神経障害を示すバイオマーカーとしては,タウ(tau)のほか,MRIによる脳の萎縮の評価,FDG-PET imagingやSPECT perfusion imagingによる機能障害の評価などが盛り込まれており,これらを用いることで診断精度がより向上すると考えられる。

■アミロイドイメージングのトレーサー

2002年にUCLAによって開発された18F-FDDNPは,世界初のアミロイドイメージングの実用的なトレーサーである。その後,2004年にピッツバーグ大学のKlunkとMathisによって開発された11C-PiBが非常に優れた特性を有していることから,事実上の世界標準となった4)。わが国では東北大学を中心に,11C-BF227が使用されている。また,18Fを標識したFlorbetaben,Flutemetamol,Florbeapirの3薬剤について,第V相の治験が行われており,薬事承認される日も近いと思われる。
これらのトレーサーのうち,11C-PiBは,視覚的に非常に評価しやすい薬剤である。健常者の場合,白質を中心に集積し,皮質にはほとんど集積しないが,AD患者では白質のレベルを上回る集積が皮質に現れてくるため,違いが一目でわかる。

■アミロイドイメージング研究の現状 ─J-ADNI研究から

図1 PiB-PETの視覚的読影結果(J-ADNIデータより)
図1 PiB-PETの視覚的読影結果(J-ADNIデータより)

現在,米国(US)ではAD脳画像診断に関する大規模臨床研究“Alzheimer's Disease Neuroimaging Initiative(ADNI)”が行われ,オーストラリア(AIBL)やわが国(J-ADNI)でも,これと互換性を意図したプロトコールによる研究が行われている。J-ADNIでは,11C-PiBの集積度合いをNo uptake,Equivocal uptake,Prominent uptakeの3段階に分けて,PiB-PETの視覚的読影を行っている。
図1は,60歳以上の約100人を対象とした,J-ADNIの実際のデータである。健常者,軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI),ADのそれぞれについて,皮質におけるアミロイド蓄積の平均値(皮質平均値)を点で示している。興味深いのは,健常者にもアミロイドの蓄積が認められる一方,ADでもアミロイドが蓄積していない患者がいることである。また,以前からADのリスク遺伝子と言われていたアポリポタンパクE遺伝子のイプシロン4(ApoE ε4)が,アミロイド集積と密接な関係があることがわかってきた。さらに,11C-PiB集積量と髄液バイオマーカーAβ1-42の相関を見ると,PiB-PETでアミロイドの集積が認められる人は,ほぼ例外なくAβ1-42が低下していることがわかる。つまり,この2つの検査値は,同じ現象の違う側面を見ていると考えられる。

■アミロイドイメージングの国際比較

US-ADNIとAIBLのアミロイドPET/MRIのデータについて,J-ADNIとどの程度互換性があるか検討してみた。
図2は,J-ADNI,ADNI,AIBLにおける,AD患者のアミロイドPETの平均画像である。それぞれ約20人のデータで,年齢に有意差はないが,日本人(アジア人)はアミロイドの蓄積量が欧米人より少ないという印象があった。しかし,ApoE ε4保有者の頻度は,AIBLでは非常に高く,J-ADNIでは低いことから,ApoE ε4のgene doseの影響を見ているに過ぎないことがわかる。
図3は,J-ADNI,ADNI,AIBLのアミロイドPETの平均画像をまとめたものだが,アミロイド蓄積陽性者のアミロイド集積量は,健常者,MCI,ADのいずれの群においてもApoE ε4のgene dose effectが認められた。さらに,ここから健常者のみのデータを抽出し,各年代におけるアミロイド陽性率をApoE ε4のgene dose別に見たところ,明らかな加齢変化とgene doseの影響が認められた。統計的な解析の結果,ApoE ε4を1つ有すると,アミロイドが約11.8年早く蓄積することがわかった。

図2 J-ADNI,ADNI,AIBLにおける,AD患者のアミロイドPETの平均画像
図2 J-ADNI,ADNI,AIBLにおける,
AD患者のアミロイドPETの平均画像
図3 J-ADNI,ADNI,AIBLのアミロイドPETの平均画像
図3 J-ADNI,ADNI,AIBLのアミロイドPETの平均画像

■アミロイドイメージングの意義

アミロイドイメージングの意義をまとめると以下の通りとなる。1つ目は,線維型Aβ沈着の検出であるが,その陽性所見の臨床的意味については,これからエビデンスを重ねていくことで詳細が明らかになると考えられる。ただし,MCIにおける陽性所見に関しては,1,2年という短期間のうちにADに移行する頻度が非常に高いことが,US-ADNIやJ-ADNIのデータで明らかになりつつある。一方,陰性所見については,Aβが沈着していなければ事実上はADを否定できるという意味で,他疾患との鑑別診断としての臨床的意義が明らかになっている。

●症例提示
図4は70歳,女性,図5は74歳,女性で,いずれも前頭側頭型認知症の一型に分類される進行性非流暢性失語症(progressive nonfluent aphasia)の臨床症状を呈した症例である。図4の症例はPiB-PETでアミロイドの蓄積を認めず,AD以外の疾患が背景になっていると考えられたが,図5の症例はアミロイド蓄積が認められ,ADが原因と考えられた。このように,アミロイドイメージングは,さまざまな病態の鑑別
診断に役立つと考えられる。

図4 AD以外の疾患を背景とした進行性非流暢性失語症(70歳,女性)のアミロイドイメージング
図4 AD以外の疾患を背景とした進行性非流暢性失語症
(70歳,女性)のアミロイドイメージング
図5 ADを背景とした進行性非流暢性失語症(74歳,女性)のアミロイドイメージング
図5 ADを背景とした進行性非流暢性失語症
(74歳,女性)のアミロイドイメージング

■まとめ

アミロイドイメージングの今後の方向性として,発症予測と将来的な発症予防,他の認知症などとの鑑別診断などへの臨床応用,18F標識診断薬の治験と普及という3つが考えられる。また,アミロイドだけでなく,タウやα-シヌクレインのイメージング技術の研究も進められており,将来的には画像にて観察可能になると期待している。さらに,アミロイドを軸として発症を早期予測するためのマーカーの探索が進められている。発見に至れば,いよいよ実用的な診断技術として,検診から予防に至るストラテジーが組めるようになると考えている。

●参考文献
1) McKhann, G.M., Knopman, D.S., Chertknow, H., et al.:The diagnosis of dementia due to Alzheimer's disease;Recommendations from the National Institute on Aging-Alzheimer's Association workgroups on diagnostic guidelines for Alzheimer's disease. Alzheimer's & dementia, 7, 263〜269,2011.
2) Albert, M.S., Dekosky, S.T., Dickson, D., et al.:The diagnosis of mild cognitive impairment due to Alzheimer's disease;Recommendations from the National Institute on Aging-Alzheimer's Association workgroups on diagnostic guidelines for Alzheimer's disease. Alzheimer's disease. Alzheimer's & dementia, 7, 270〜279, 2011.
3) Sperling, R.A., Aisen, P.S., Beckett, L.A., et al.:Toward defining the preclinical stages of Alzheimer's disease:Recommendations from the National Institute on Aging-Alzheimer's Association workgroups on diagnostic guidelines for Alzheimer's disease. Alzheimer's & dementia, 7, 280〜292, 2011.
4) Klunk, W.E., et al.:Imaging brain amyloid in Alzheimer's disease with Pittsburgh Compound-B. Ann. Neurol., 55, 306〜319, 2004.

Advaned Report一覧へ

▲ページトップへ