ホームinNavi SuiteGEヘルスケア・ジャパンAdvanced Report Innova4100の最新IVR支援機能の使用経験と将来展望─マルチモダリティイメージングのIVRへの応用
healthymagination series 2011
Advanced Report No.2
第40回日本インターベンショナルラジオロジー学会総会ランチョンセミナー2
Innova4100の最新IVR支援機能の使用経験と将来展望
─マルチモダリティイメージングのIVRへの応用
村上卓道
近畿大学医学部放射線医学教室放射線診断学部門主任教授
1986年神戸大学医学部卒業。91年大阪大学医学部大学院博士課程修了。 93年大阪大学医学部助手。94年からピッツバーグ大学メディカルセンター放射線科客員講師。大阪大学大学院医学系研究科講師,助教授(放射線医学講座)などを経て,2006年から現職。 |
第40回日本インターベンショナルラジオロジー学会総会が5月19日(木)〜21日(土)の3日間,青森市文化会館およびホテル青森を会場に開催された。19日に行われたGEヘルスケア・ジャパン社共催のランチョンセミナー2では,近畿大学医学部放射線医学教室放射線診断学部門主任教授の村上卓道氏が,「Innova4100の最新IVR支援機能の使用経験と将来展望─マルチモダリティイメージングのIVRへの応用」と題して,Innova4100の最新技術や臨床使用経験について講演した。
当院では2008年にコーンビームCアームCT(以下,CBCT)機能を有するGE社製の血管撮影装置「Innova4100」を導入し,Interventional Radiology(IVR)治療にCBCT機能を役立ててきた。その後,さらなる機能向上に向けてGE社とリサーチを行い,その一部がアップグレードされた「Innova 4100IQ Pro」に搭載され,実臨床で有用性を発揮している。特に,マルチモダリティの画像をIVR治療に有効に利用できるようになったことで治療精度が向上した。本講演では,Innova 4100IQ Proの最新技術と臨床使用経験を中心に述べる。
■CBCTを用いた高精度な肝動脈塞栓術
わが国における肝動脈塞栓術(Transcatheter arterial chemoembolization:TACE)は,世界最高レベルであり,超選択的TACEが一般的となっている。近年は,Targeted TACEやUltraselective TACEと呼ばれる,よりピンポイントの治療が広く行われている。日本では特に,腫瘍の栄養血管にまでカテーテルを進めていくマイクロカテーテル技術が進んでいるが,その際に,IVR-CTシステムを用いてCTHA/CTAPが施行できれば非常に有用である。例えば, Targeted TACEを行う際に,実際の塞栓領域が正確に確認できれば,肝実質のダメージを最小限に抑えつつ,腫瘍を確実に治療することが可能となる。
しかし,当院の場合は,血管撮影室のスペースに余裕がなく,IVR-CTを設置することはできなかった。そこで2008年,CBCTが可能なInnova4100を導入し,TACEを開始した。
Innova4100は,Cアームがオフセット構造のため,頭部からから大腿部のあたりまでCBCT撮影が可能である。3D-CT angiograpy(CTA)モードで撮影して再構成したVolume rendering(VR)像やMIP像で全体的な血管の走行を確認したり,CTモードで撮影したCTAPやCTHAで腫瘍の血流状態を確認することもできる。そのため,従来は複数回繰り返す必要があった撮影と透視をCBCT撮影1回で代用できることが多くなり,治療の所要時間や被ばく線量,造影剤使用量が大幅に低減され,患者の負担軽減にもつながっている。
●症例提示:肝細胞がん
肝細胞がんのTACEにあたり,当院では,まずはじめにCBCT撮影を行って,CTHA画像やVR像,MIP像を再構成して,全体的な腫瘍濃染と血管の走行を確認する。slab MIPを少し厚めに再構成すれば,腫瘍の栄養血管が明瞭に観察できる場合が多い。さらに,腫瘍近傍のみのVR像やMIP像を再構成することで,細い分枝も描出できるため,腫瘍血管の見落としを回避できる。血管の屈曲が強い場合など,より詳細に観察したい場合は,ワークステーションの画面を分割して異なるslab厚のMIP像を複数表示し,すべての画像をリンクさせて観察することもできる。画面のある1点にマーカーを置けば,すべての画面で同じ解剖学的位置にマーカーが表示されるため,MIP像の厚みを変えながら観察する際にも,血管の特定がきわめて容易となる(図1)。
図1 症例提示:肝細胞がん
■最先端アプリケーションの有用性
ここまでは従来のCBCTでも可能だが,当院では2011年3月,Innova4100からInnova 4100IQ Proにアップグレードし,GE社とのリサーチによって開発された新しいアプリケーションが搭載されたので,その機能と有用性を紹介する。
●Multi Modality 3D Compare
“Multi Modality 3D Compare”では, 別の日に行ったCT検査やGd-EOB-DTPA造影MRI(以下,EOB-MRI)などのMRI検査の画像と,治療前後のCBCT画像(CTHA,VR,MIP像など)とを2面のモニタに分割して同時に表示することができる。すべての画像の位置情報をDICOMデータから取得しているため,あるモダリティの画像上で動かしたカーソル位置は全画像で連動し同一部位を指すため,病変部位の比較や解剖学的に血管等の特定が非常に容易である(図2)。
図2 Multi Modality 3D Compare
●Integrated Registration
図3は,CTAPで等信号,CTHAでもわずかな低吸収で,はっきりと描出できなかったが,EOB-MRIの肝細胞相では著明な低信号結節として描出された肝細胞がん症例である。Multi Modality 3D Compareで,同一モニタにCBCT画像と並べて表示することによって,EOB-MRIで描出された病変を特定することができるが,さらに“Integrated Registration”機能により,EOB-MRI画像をCT画像や手技中のCBCT画像に非常に高精度にフュージョンすることができる(図3)。Auto Registration機能により,ワンクリックで異なる画像同士の自動位置合わせが可能であり,手技中にCBCT画像とEOB-MRI画像やCTA画像をフュージョンすることによって,IVR治療時の腫瘍の位置把握,目的血管の位置把握や比較も容易である。
図3 Integrated Registrationを用いた病変の同定
●FlightPlan for LiverとInnova Vision
前述のフュージョン機能を利用したInnova 4100IQ Pro の持つ最新の3Dロードマップ機能が“FlightPlan for Liver”(栄養血管検索サポート機能,以下,FPFL)と“Innova Vision”(3Dロードマップ)である。肝細胞がんにTACEを行う場合,前述のように栄養血管の同定が重要であるが,それをサポートするのが“FPFL”である。CBCTを撮影し,得られたボリューム画像のカテーテル先をモニタ上でワンクリックすると,連続する血管部分のみが骨と分離され,自動的に抽出される(図4右上)。腫瘍が複数ある場合は,FPFLにより得られた血管のVR像をCTやEOB-MRI画像と重ね合わせることで,腫瘍の同定が容易となる。次に,腫瘍濃染部を円カーソルで囲むと(図5下段),カテーテル先より腫瘍につながる血管,すなわち腫瘍の栄養血管のみがFPFLによってグリーンで表示される(図5右上)。つまり,TACEの必要な腫瘍血管を自動的に抽出してくれるわけである。この画像をInnova Visionにエクスポートすれば,3Dロードマップとして使用可能となる(図6)。オパシティの調整や画像の位置補正も容易にできる上,Innova Visionの3Dロードマップ画像は寝台やCアームの動きに追従するため,途中で寝台を動かしても再レジストレーションが不要である。また,ロードマップ画像の拡大表示や角度の変更も可能なほか,血管の奥行き方向の画像反転機能“Back View”が搭載されており,分枝を理解しやすいworking angleを簡単に見つけることもできる(図7)。さらに,透視を出さなくても,3Dロードマップ画像を見ながらworking angleの微調整や寝台位置のセンタリング等を行うこともできる。
FPFLとInnova Visionによるロードマップは非常に精度が高く,治療対象血管の同定が簡便に,正確に行えるため,経験の浅い医師でも,短い検査時間で,しかも少ない被ばく線量・造影剤量で,詰め残しのない,確実な治療が可能である(図8)。
図4 FlightPlanによる栄養血管の同定(step1) |
図5 FlightPlanによる栄養血管の同定(step2) |
図6 Innova Visionによる3Dロードマップ(step3) |
図7 FlightPlanの“Back View”を利用したworking angleの決定 |
図8 FlightPlanがもたらすワークフローの変化 |
●TrackVision
3Dロードマップによる穿刺手技ガイド機能“TrackVision”は,膿瘍ドレナージや経皮的椎体形成術(バーテブロプラスティ),骨腫瘍などの穿刺に使用することができる。Innova 3D画像(任意の断面のCBCT画像)をもとに,穿刺目標と刺入点を決定し,穿刺目標までの最適なラインを決めてしまえば,穿刺針の刺入角や奥行きの正確な位置決めが行われ,ガイドラインが自動で表示される(図9)。後はガイド表示に従ってまっすぐに針を進めるだけですみ,しかも,その様子はBull's Eye View(針の進行方向を真後ろから見た画像)やProgress View(針の進行方向を側面から見た画像)で表示可能である。穿刺の状況を確認するためにCアームを回転させても,3D画像が同期して回転し,針先を見失うこともないため(図10),安心して手技を行うことができる。
図11は,類骨骨腫の治療のため,ラジオ波焼灼術(RFA)を行ったが,CBCT下にピンポイントで穿刺可能であった。
図9 TrackVisionによる経皮的椎体形成術支援 |
図10 TrackVision画像はCアーム回転に連動 |
図11 類骨骨腫に対するCBCTガイド下ラジオ波焼灼術 |
近年,センサー技術が飛躍的に向上してきている。2010年の北米放射線学会(RSNA 2010)では,GE社が独占販売契約を締結したVeran社(米国)のニードルナビゲーションシステム“VERAN ig4”(日本国内薬事未承認)をブースに展示していた。針先内に0.35mmのEMセンサーが格納されており,装置が針の位置をダイレクトに検知して3D画像上にリアルタイムにトラッキングする技術であり(図12),すでに米国内でInnovaシステムと併用し使用している施設もある。トラッキング精度が高くなれば,CBCTを用いて針先を三次元方向から確認しながら穿刺を行うことも可能になる。すでに0.18mmのセンサーもあり,ガイドワイヤの先端に取り付けられたプロトタイプが開発されているという。こうしたセンサー技術によって,3D画像上にカテーテルの先端の位置が常に表示できるようになれば,術中の透視の回数を減らせる可能性がある。また,前述のFPFLと組み合わせれば,カテーテルが正しい方向に進んでいるかどうかを3D画像上で見ることもできる。さらに技術が進めば,遠隔地からカテーテル治療を行うことも可能になると考えられ,そうなれば,IVR医の少ない日本では非常にメリットが大きいと思われる。
図12 VERAN ig4(日本国内薬事未承認)
画像診断装置としてのCBCTはますます進化を続けており,断層画像や3D画像を用いた最新のアシスト機能は,IVRの大きな武器になると考えている。その点で,CBCTはMDCTや従来のDSAとは異なる,マルチモダリティ画像を統合して,IVR治療に還元する治療システムと言える。