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永久磁石タイプと超電導磁石タイプのMRI,実際どう違う?

2018-9-25


MRI装置は,オープン性の高い永久磁石タイプと高磁場強度の超電導磁石タイプの2つがあり,それぞれの特長を生かしてすみ分けがされています(図1)。
今回は,これらの違いについて,実際の臨床使用を中心に解説します。

図1 外観デザインの違い

図1 外観デザインの違い

 

永久磁石タイプと超電導磁石タイプの違い

1.磁場方向の「違い」(表1,図2)
永久磁石タイプは,磁束が磁石の上下方向に向かう垂直磁場となり,0.5mTラインは狭く,設置スペースが抑えられます。磁力を発生するために電力やヘリウムを必要としないため,ランニングコストも安く抑えられます。寝台は幅が広い上に左右に動かすことも可能なため,四肢などの撮像部位も磁場中心にセッティングすることが容易となります。
超電導磁石タイプは,磁束は水平方向に向かい,漏洩磁場は広がる傾向となります。機械室も必要となるため,広い設置スペースが必要であり,ランニングコストも多くかかります。寝台の幅は狭くなりますが,磁場が均一な範囲が広いため,無理に磁場中心にセッティングしなくても撮像可能です。
磁場の方向の違いは,受信コイルによる信号収集効率にも影響を与えます。受信コイルは静磁場方向に対して垂直に設置する必要がありますが,垂直磁場タイプではソレノイド型コイル,水平磁場ではサドル型やサーフェス型を複数組み合わせたフェイズドアレイコイルを用います。ソレノイド型は同じ大きさのサドル型に比べておよそ倍のSNRが得られ,コイルで囲んだ中心領域の感度が高くなりますが,被検者や目的部位の大きさに合わせたサイズのコイル選択が重要となります。
水平磁場ではフェイズドアレイコイルを用い,コイル表面の感度が一番高くなります。そのため,水平磁場方式では,中心感度を持ち上げる感度補正が必要となり,永久磁石タイプでは必要のない感度マップの撮像を行います。また,複数のコイルを組み合わせて使用できるため,パラレルイメージングが可能となります。

表1 永久磁石タイプと超電導磁石タイプの違い:磁場方向

表1 永久磁石タイプと超電導磁石タイプの違い:磁場方向

 

図2 磁場方向・コイル方式の違い

図2 磁場方向・コイル方式の違い

 

2.静磁場強度の「違い」(表2)
次に,静磁場強度の違いでどのような影響があるかを整理します。表2に示すように,静磁場強度によりさまざまな項目が影響を受けます。

表2 永久磁石タイプと超電導磁石タイプの違い:静磁場強度

表2 永久磁石タイプと超電導磁石タイプの違い:
静磁場強度

 

「違い」の影響

これら磁場方向と静磁場強度の違いが,実際のMRI撮像にどう影響するのか見ていきます。

1.撮像音(表3)
MRIの撮像時の「音」は,静磁場強度に比例して大きくなります。撮像音はシーケンスや撮像条件などにより変化しますが,静磁場強度の低い永久磁石タイプは,どの撮像でもおおよそ80dB以下となっています。静磁場強度の高い超電導磁石タイプでは,撮像音を小さくするため,各社ハードウエアやソフトウエアによって音を抑える開発も進んでいます。

表3 MRIスキャンの音レベル

表3 MRIスキャンの音レベル

 

2.撮像時間
MRIの撮像時間は,TR×積算回数×位相マトリックス÷エコーファクタ数で計算されますが,超電導磁石タイプは高いSNRにより積算回数を抑えられるとともに,パラレルイメージングの併用により,さらに撮像時間を短縮することが可能です。

3.脂肪抑制(図3)
CHESS法による脂肪抑制は,水と脂肪の共鳴周波数の違いを利用して,選択的に脂肪信号を抑制しますが,この共鳴周波数は静磁場強度と比例して差が大きくなります。静磁場強度が低いと水と脂肪の周波数が近いため,脂肪の周波数のみをねらってパルスを打つことが難しくなります。そこで,STIRやDIXON法を用いることで安定した脂肪抑制が可能になります。静磁場強度が高い超電導磁石タイプは,このほかにも水励起(water excitation)法なども可能となり,条件に合わせて多彩な脂肪抑制が可能です。

図3 水と脂肪の共鳴周波数の違い

図3 水と脂肪の共鳴周波数の違い

 

4.動きの影響の強い撮像(図4)
腹部や骨盤腔は呼吸や蠕動運動の影響を強く受けるため,超電導磁石タイプでは呼吸同期や息止め,プリサチレーション,位相方向の変更,運動抑制剤の投与,さらにはラジアルスキャン法などを用いてアーチファクトを抑えて撮像します。永久磁石タイプでは,撮像時間や撮像枚数,脂肪抑制などで不利な面がありますが,同期なしの安定呼吸下でアーチファクトを少なく撮像できるメリットもあります。

図4 腹部画像の違い

図4 腹部画像の違い

 

5.金属の影響のある撮像(図5)
金属の影響も静磁場強度が高くなるほど強くなるため,超電導磁石タイプでは金属アーチファクト抑制に特別なシーケンスが開発されています。ただし,出血巣の場合は,血液中の金属である鉄成分を描出しているため,低い静磁場で描出能を改善するには,T2*強調度を高くする,スライス厚を薄くするなどパラメータの調整が必要になります。

図5 金属画像の違い

図5 金属画像の違い

 

6.DWI撮像(図6)
EPI法によるDWIの撮像では歪みが問題となり,位相方向の選択が重要となります。また,この歪みの抑制にはパラレルイメージングが有効です。永久磁石タイプは歪みの影響が少なく,マルチショット撮像により,歪みを抑えています。

図6 DWI画像の違い

図6 DWI画像の違い

 

永久磁石タイプと超電導磁石タイプのMRIの違いについて,ごく一部ですがご紹介しました。それぞれの装置の特長を理解し,適切な撮像プロトコールを用いることで,質の高いMRI検査につながります。


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