第36回医療情報学連合大会(その1)
集めた情報を伝え,つなぎ,確証につなげる医療情報学

2016-11-25

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横浜での開催は2008年以来

横浜での開催は2008年以来

第36回医療情報学連合大会(第17回日本医療情報学会学術大会)が,2016年11月21日(月)〜24日(木)の4日間,横浜市のパシフィコ横浜会議センターほかで開催された。大会長は河北総合病院・NTT東日本関東病院・東京保健医療大学大学院の折井孝男氏,大会役員としてプログラム委員長を名古屋大学の白鳥義宗氏,実行委員長を東京医科大学の松村一氏が務めた。テーマは『「集める」「読む」「伝える」から「つなぐ」へ!〜「たぶん」「おそらく」の確証〜』。

22日の開会式で挨拶した折井大会長は,「医療の情報化のスピードは速いが,医療情報に携わるものにはこの流れに遅れることなく迅速に対応することが社会から求められている。情報を扱うポイントは,新しいものを集め,読んで,伝えることだ。そして他者からの疑問に対して,“だぶん”や“おそらく”ではなく,データに基づいた説明ができることが重要である。このことから今回のテーマを『「集める」「読む」「伝える」から「つなぐ」へ!〜「たぶん」「おそらく」の確証〜』とした。本大会の特徴は,産官学のさまざまな領域から多様な発表があることだ。その中で情報をいかに集めて,解析し(読み),伝達するがに留まらず,地域との連携(つなぐ)まで視野に入れた議論をお願いしたい」と述べた。

大会長:折井孝男 氏(河北総合病院)

大会長:折井孝男 氏
(河北総合病院)

   

 

プログラムは,大会長講演,学会長講演のほか,特別講演として「医薬品の開発から市販後までを『つなぐ』には」「医療分野でのICTの活用と国民番号制度」など5題,教育講演が「厚生労働省の医療ICT施策と医薬品安全対策」など2題,大会企画として「医療ビッグデータを読む」が行われた。そのほか,各学会・団体との共同企画11,産官学連携企画,公募企画(シンポジウム8,ワークショップ15)チュートリアル11,一般口演,ポスター展示,HyperDEMOなどのプログラムが行われた。また,展示ホールAで行われた企業展示には65社が出展したほか,10の展示(ホスピタリティ)ルームが設けられた。

メインとなったA会場の様子

メインとなったA会場の様子

展示ホールで行われたポスター展示

展示ホールで行われたポスター展示

   
展示会場には65社が出展

展示会場には65社が出展

産官学連携企画2016

産官学連携企画2016

   
医療情報技師プラザでは全国の活動を紹介

医療情報技師プラザでは全国の活動を紹介

 

 

開会式に続いて行われた大会長講演では,折井大会長が今大会のテーマと同タイトルで講演した。折井氏は,医療の提供体制が、治す医療から支える医療へと変わる中で、薬剤師にはモノ(薬剤)だけではなく患者に対峙することが求められ,薬物療法の安全性を保証する専門職として院内では医師や看護師などとの連携,院外では保険薬局の薬剤師と連携することが必要になると述べた。また,“集める”ことの重要性として,折井氏が携わってきた医療用医薬品添付文書の電子化や一般用医薬品のネット販売のルール作りについて紹介した。さらに,2016年の診療報酬改定でスタートした“かかりつけ薬剤師”制度についても言及し,院外の保険薬局においても病院と同等の診療情報を参照した服薬指導とそこで得た情報の病院へのフィードバックが必要になることを説明し,今大会でも電子処方せんやお薬手帳の現状や課題についてのセッションを設けたことを紹介した。

午後のA会場では,森和彦氏(厚生労働省大臣官房審議官)による特別講演1「医薬品の開発から市販後までを『つなぐ』には」が行われた。森氏は,今大会のテーマの一つである「つなぐ」ことは医薬品の開発や評価においても重要になっているとして,新薬の開発や市販後の評価の現状と課題をを中心に講演した。まず,「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」の文言に即して,医薬品をめぐる国や医療者,国民の基本的な義務や役割を説明し,さらに近年の薬剤師法の改正や診療報酬改定で求められる新しい薬剤師の役割についても概説。また,近年,新薬の開発コストが高騰し,臨床開発の効率化とコスト削減が重要な課題になっている。臨床試験について,欧米ではこれまでのRCT(ランダマイズ化試験)からPragmatic Trials(患者レジストリーのデータを利用した臨床試験)による方法の提案,検討が進んでおり,日本においても薬剤開発のための環境整備として患者レジストリーの構築をめざす“クリニカル・イノベーション・ネットワーク”の取り組みなどを紹介した。

森和彦 氏(厚生労働省大臣官房審議官)

森和彦 氏
(厚生労働省大臣官房審議官)

   

 

続いて行われた特別講演2では,森田朗氏(国立社会保障・人口問題研究所所長)が「医療分野でのICTの活用と国民番号制度」を講演した。森田氏は,最初に自身が座長を務めた“保健医療分野におけるICT活用推進懇談会”がまとめた提言の内容を概説した。提言に至る経緯を説明したあと,保健医療分野でのICT活用の価値軸として“患者へのベストの治療”“国民の健康管理”“医療保険財政の効率化”“医薬品医療機器等のイノベーション”を上げ,それぞれのねらいについて述べた。続いて,ICT化の先進事例としてエストニアの事例を挙げ,IDカードとマイナンバーを国民に配布して“X-ROAD”と呼ばれるネットワークを中心に住居や保険などの公共情報,電気や銀行などの情報,医療情報をオンラインで管理されていることを紹介した。その上で,日本では一気にこうしたオンラインの仕組みを導入するのは無理だが,段階的にITを導入していくことは必須であり,医療保険財政の今後の厳しい状況を考えれば,公平な負担のために医療番号制度などの整備を進めることが必要ではないかと提案した。

森田朗 氏(国立社会保障・人口問題研究所所長)

森田朗 氏
(国立社会保障・人口問題研究所所長)

   

 

●問い合わせ先
JCMI36大会事務局
東京医科大学病院 情報システム室内
jcmi2016@tokyo-med.ac.jp

 

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