ITを駆使した二次救急病院の医療現場
小林 勝正 氏(医療法人 医仁会 さくら総合病院 理事長)

2013-11-5


小林 勝正 氏

小林 勝正 氏

■救急医療の現状と問題点

救急医療の内容は外傷や内因性疾患など,病因の特異性により複雑多岐にわたる。頭部救急,胸部救急,腹部救急,四肢救急など,疾患の発生した部位による分け方や内因外因により,広範な守備範囲が救急医療には要求される。発生した疾病の種類に対し三次救急病院であっても,必ずしも対応できる医師が常駐しているとはかぎらない。多くの医師が勤務する大学病院においてもICU,手術室,後方病床などの後方施設の都合により,救急患者の受け入れが決められることが多い。そのため,すべての救急患者の受け入れが円滑にいくことは困難な状況にある。さらに,医師不足がそれに拍車をかけ,高度化,迅速化が求められる救急医療の対応が間に合っていないのが現状である。たとえ大学病院,三次救急病院と二次救急病院が密に連携をとっていたとしても,救急医療の現場ではその処置に悩む例が少なくない。
そこで,当院ではiPadを使用して画像などの情報を共有することにより,可能なかぎり大学病院や三次救急病院の医師と瞬時に症例検討をし,的確なトリアージを行っている。タブレット端末を導入することにより,従来の携帯電話の画面でやりとりしていた情報共有よりも,正確で,詳細な情報を送ることができ,有効に救急医療を行っている。

■脳神経外科医との情報共有

幸いなことに,当院では脳神経外科常勤医の不断の努力により,脳神経外科領域の診療は24時間保たれている。外科系当直医からの転送画像をiPadにより診断し,的確な指示を出している。また,必要に応じて緊急手術に対応し,可及的速やかに救命を行っている。それだけではなく,当院は愛知県で唯一の死亡後画像診断(Autopsy imaging:Ai)を行う医療機関のため,頭部に関して得られた画像を在宅の脳神経外科医が読影し,診断を確実なものとしている。たとえ手術中であっても,iPadを手術室に持ち込むことにより,ほかの症例のアドバイスを受けることも可能である。
名古屋大学医学部脳神経外科教室では,15年前から当時の吉田純教授(現・名誉教授)はじめ,教室が中心となり,医療の平準化のための端末を開発してきた。その際,個人情報を暗号化し,「いつでも,どこでも的確な診断と治療をするため」教室員が情報を共有化してきた。こうした流れの延長線上に現在のiPad利用があるのである。

■放射線科医による診断と治療

過去25年間,当院ではCT画像を大学病院の放射線科医にダブルチェックを依頼し,誤診や所見の見落しがないように努めてきた。カテーテル治療が可能と診断されれば,放射線科医が病院に駆けつけ治療するという医療を8年前から行ってきた。当初は得られたCT画像を放射線科医のパソコンに転送し,診断を受けていたが,iPadの発売と同時に多数の放射線科医にiPadを配布し,対応可能な医師が教授指導の下に駆けつけることになっている。肝損傷,脾損傷,腎損傷などの交通外傷,労災による外傷のみならず,消化管出血の症例にもカテーテル治療を行って救命してきた。たとえ放射線科医が遠隔地の学会に出席していても画像診断は可能であり,カテーテル治療医は別のところにいても対応可能である。

■心臓外科医との連携

三次救急病院に勤務する心臓外科医にiPadを所持してもらい,大血管の症例について画像を送り,診断と緊急手術の適応の指示を受けている。患者搬送する際には,先に転送した情報により手術室の準備,ICUの確保などが円滑に行われ,患者救命に役立っている。もちろん,患者移送の間に当院で得られた生理検査,血液検査所見など,すべての情報が患者とは別ルートで移送先病院へ知らされている。

■整形外科医との連携

外傷に対応できる整形外科医の不足により,時間外に発生した開放骨折の症例について,画像転送を行っている。整形外科的ファーストエイドの指示,および緊急手術の適応の診断を受けている。その結果,一期的手術が必要な場合には手術室を確保し,整形外科医の来院前準備を行う。

■プレホスピタルケアにおける活用

図1 ドクターカーの出動要請

図1 ドクターカーの出動要請

ドクターヘリの運用が,プレホスピタルの救急医療においてクローズアップされてきた。しかし,その活動時間は午前9時から午後5時半まで,しかも雨,風により運航中止となる。多くの救急は早朝,夜間などドクターヘリの運航時間と異なる。反面,半径50km圏内を15分で移動できるのは魅力である。1987(昭和62)年に伊藤忠商事が中心になり,航空機による救急医療の勉強会が開かれ,ミュンヘン大学を中心としたドイツにおけるドクターヘリの講習を受けた。これはアウトバーンという航空機(戦闘機)の離発着にも使用できる道路があれば可能であるが,日本の東名・名神の高速道路ではランディングすらままならぬ状況であった。また,当時の航空法では,救急といえども着地不可であった。そのため当時からドクターカーを切望したが,法の壁により,その後数十年の運用不能期間があった。その当時でも救急車型の車輌はドクターカーとしての運用が認められていたので,おのずとそちらへシフトする傾向となっていった。こうしたドクターカーの出動も限定された機会しか活動できず,もっぱらパトカーによる出動協力が多かった。そんな時期を経て,iPadの出現を見たのである。
iPadを関連する地元6消防署の司令室に配置し,救急救命士が活動する現場で,医師の必要が生じた場合に,ドクターカーの出動要請を受けている。こうしたニーズは年を重ねるに従い,多くなってきている(図1)。この場合には,救急現場の詳細な位置情報が必要となる。筆者は高速道路の重大事故において過去30年間以上,現場での死体検案を行ってきた。東名,名神,中央道は上下線,および何キロポストの表示で位置が特定できるので,比較的容易に,また的確に現場へ出動できた。一方,救急救命士が活動できる内容であればよいのだが,家屋閉じこもり,車内での救出困難例や高所転落,さらに疾病による搬送拒否などの症例は一般住居地が多く,そうしたところへの医師の現場出動が要請される。救出困難例や現場での高度な医療処置が必要な例については,消防署に配布したiPhoneにより現場画像の転送を受け,状況によってはさらなるドクターカーの二次出動を行っている。特に,労災事故における巨大機械への巻き込みによる上肢,または下肢の高度な挫滅例においては,受傷患者の搬出のために現場での四肢の離断が必要になる場合もある。そのため,現場の位置情報,患者の年齢,性別,主訴などの情報を知ることが非常に重要である。また,外傷の場合の創傷の部位,状態など詳細な情報がその後の的確な治療へとつながる。

■まとめ

救急医療は,的確なプレホスピタル医療と状況判断,正確な診断が求められる。診断が下されれば,それに対応する過程はおのずから決まってくる。そのためにも多くの専門医が多科にわたって診断に参加できる体制が予後を決定づけるのである。医師,特に専門医療をきわめた医師は社会ニーズで必要とされる人数ほど充実してはいない。それだけに,なおさら少数の専門医が最小限の負担により,より有効な実績を上げるために,ITの駆使が求められる時代に入ってきた。

 

●施設概要
〒480-0127 愛知県丹羽郡大口町新宮1-129
TEL 0587-95-6711 FAX 0587-95-4780
URL http://www.ijinkai.or.jp
病床数:390床    診療科目:22科

●略歴
(こばやし かつまさ)
1969年名古屋市立大学医学部卒業。名古屋第一赤十字病院,国立がんセンターなどを経て,80年に大口外科クリニック開院。83年に医療法人医仁会理事長に就任。阪神淡路大震災での災害救助活動や東日本大震災での検案など災害医療にも力を注ぐ。現在,さくら総合病院院長のほか,愛知県警察医会理事,日本警察医会理事も務める。


(ITvision No.28 スマートデバイス導入・活用のヒント 転載)
TOP