電子カルテシステムとの連携によるiPadの業務への利用
佐野  憲 氏(医療法人 徳洲会 松原徳洲会病院 院長)

2013-8-5


佐野  憲 氏

佐野  憲 氏

■はじめに

当院は,大阪府のベッドタウンにある病院である(図1)。地上9階地下2階,病床数170床(うちICU12床)で,内科,外科,婦人科,小児科,整形外科,麻酔科,腎臓内科,循環器内科,心臓血管外科,大動脈センター,泌尿器科,眼科,耳鼻咽喉科,大動脈ステントグラフト・血管内治療科,脳神経外科,放射線科,歯科口腔外科を診療科に掲げる総合病院である(表1)。
1998年の開院当初は,70床で始まり,市民病院の閉院に伴い4年前に100床を増床,5階から8階までに介護老人保健施設を150床併設している。

図1 松原徳洲会病院外観

図1 松原徳洲会病院外観

表1 松原徳洲会病院の概況

表1 松原徳洲会病院の概況

 

■iPad導入について

iPadの活用の最終目標はどこなのか?今後どこまで進歩するのか? というと正直わからない。ただし,医療現場に最も適したツールとなるのは確実である。そのツールが病院全体に浸透するのに,非常に時間がかかる。したがって,なるべく早い導入が良いと思われるが,あまり早すぎても良くないこともある。理由はアプリケーションである。有益なアプリケーションがなければ困るし,アプリケーション購入のコストが高過ぎれば話にならない。それを考慮した上で,いまが一番適当な時期と考えて導入し,進化させるよう努力している。

1.iPad導入の状況

当院におけるiPad導入の状況について説明する。当院では,以下のとおり,医師,看護師,事務員,コメディカルの各スタッフにiPadを配布した。
○病院全体89台(2013年4月19日現在)
○内訳:医師37台
    看護師15台
    事務,コメディカル 37台
導入にあたっては,まずは使ってもらうことを第一に考えた。良いものに強制は必要ないはずである。メールアドレスの設定以外は何のルールもない。もちろん料金は病院負担である。配布メンバーは,上記のとおり,医師はほぼ全員,部署長には全員配布,ほかにほしいという職員,全員である。
最近では,iPadかiPad miniのどちらかを選択してもらうようにしている。

2.環境設定

iPadの使用にあたって,病院内のすべてでWi-Fiが使える環境にした。また,病院負担でアプリケーションを購入し,そのアプリケーションをすべての職員で共有するような環境を整えた。
もう1つ大事なことは,院内の掲示の変更である。院内での携帯電話の使用を認めた(現在の携帯電話の電磁波は,ペースメーカーなどの医療機器に影響がないと証明されている)。これは,使用を認めないとWi-Fi使用との整合性がとれないからである。ただし,電車内と同じで,迷惑がかからないようにすることを条件とした。

3.勉強会

iPad導入にあたっては,勉強会を開催した。院内のスタッフのみの勉強会に加え,外部講師を招いての勉強会も実施した。

■iPad導入のメリット

現在の当院で得られているiPad活用によるメリットは,次のとおりである。
(1) ペーパーレスによる紙のコストの削減
(2) 資料コピーにかかる人件費の削減
(3) 電子カルテシステムとの連動による事故防止と看護業務の軽減
(4) メールによる情報の共有
(5) 患者様へのインフォームド・コンセントでの利用
(4),(5)については説明不要と思われるので,(1)〜(3)について以下に説明する。

1.ペーパーレスによる紙のコストの削減

月間の削減コストは,2万7372円(2012年10月)で,この結果にはインク代,電気代,コピー機のリース代の削減費は含まれていない(表2)。紙の削減により,個人情報漏えい事故の防止につながる可能性がある。具体的な効果はまだ調査中であるが,個人情報を含む紙は目に見えて減少している。

表2 ペーパーレス化による紙のコストの削減

表2 ペーパーレス化による紙のコストの削減

 

2.資料コピーにかかわる人件費の削減

コピーのカウント数は,1か月で1万4095(2012年10月)で,1枚コピーするのに1秒かかるとして,1万4095/3600秒(1時間)=3.91(約4時間)となる。事務職員1人の平均的な時給を1700円とすると,1700円×4時間で,6800円の削減となる。計算上コピーしている時間を約4時間としているが,コピー後の整理,配布まで含めれば少なくとも倍以上の時間が発生すると考えられ,iPad導入によるペーパーレス化により,資料コピーにかかわる人件費を削減できた。

3.‌電子カルテシステムとの連動による事故防止と看護業務の軽減

現在,病棟では,医師のオーダをiPadで受けて実施するまでの業務を試験的に行っている。従来,電子カルテシステムの病棟での使用は,ナースステーションのデスクトップ型パソコンと,ラウンドでのノートブック型パソコンとなっていた(図2)。カルテの入力はiPadから行えるが,はたしてそれを実際に使用するかどうかは,いまのところ判断に迷っている。その理由は,iPadではソフトウエアキーボードによる入力に問題があるからである。
また,現在のiPadとiPad miniの両方を使用し試しているが,どちらが適切かも検討している(図3)。現時点では,サイズが大きいiPadの方が若干評判が良いようである。
iPadをどのように持ち運びするか?これについては,肩にかける,そのまま手で運ぶなどの意見があるが,どちらの方法も現場の職員にはあまり好評とは言えない(図4)。実際のところ,ノートブック型パソコンを乗せて運ぶカートに物品と一緒に乗せて使用することが多いようである。これではiPadでなくてもよいわけで,何らかの改善が必要である。iPad miniの場合,ユニホームのポケットに入るが,電子カルテの確認および入力作業には,適した大きさとはあまり言えない。
iPadの使用により,点滴の実施間違いの防止と看護師の業務負担の軽減ができる。iPadを使用して,バーコードリーダと連動させ,患者様の点滴オーダの実施入力をベッドサイドで行っている(図5)。

図2 ‌病棟でのパソコンによる電子カルテシステム運用

図2 ‌病棟でのパソコンによる電子カルテシステム運用

 

図4 肩掛けにしたiPad

図4 肩掛けにしたiPad

図3 ‌病棟で看護師が使用するiPad(右)とiPad mini

図3 ‌病棟で看護師が使用するiPad(右)とiPad mini

 

図5 バーコード認証の様子(リストバンドが,ベッドに貼り付けてあるが,これは呼吸器装着の患者様のためである)

図5 バーコード認証の様子(リストバンドが,ベッドに貼り付けてあるが,これは呼吸器装着の患者様のためである)

 

■病棟におけるオーダの実施

実際の業務では,看護師がiPadに図6の画面を表示させ,患者様の確認をリストバンドのバーコードで行うと,患者コードが自動入力される(図7)。次に,看護師が,自分のネームプレートのバーコードを読み取ると,自動的に実施者が入力される(図8)。これにより,iPadの画面に患者様の点滴オーダの一覧が表示される(図9)。続いて,点滴薬剤に貼付されているバーコードを読み取ることで自動入力される(図10)。これでiPadの画面上に,もう一度確認を促す,「はい,いいえ」のメッセージが表示されるので,それに答えることで,実施入力が完了する。
以上のように,点滴オーダを一例にとって説明したが,今後は内服薬の実施入力にも適用を拡大することを考えている。また,入力方法については,音声入力が近いうちに可能になると考えており,そうなれば看護師の業務負担はさらに減ると予想される。

図6 ‌iPadに表示させた実施入力画面

図6 ‌iPadに表示させた実施入力画面

 

図8 ‌バーコードによる実施者入力

図8 ‌バーコードによる実施者入力

 

図10 点滴薬剤のバーコード入力

図10 点滴薬剤のバーコード入力

図7 ‌バーコードリーダで読み取ることで,iPadに自動入力

図7 ‌バーコードリーダで読み取ることで,iPadに自動入力

 

図9 ‌実施者入力後に表示されるオーダ一覧

図9 ‌実施者入力後に表示されるオーダ一覧

 

■まとめ

iPad導入の成果として,コストについてはあまりメリットがないように思えるかもしれない。しかし,病院経営において最も高いコストは人件費(特に医師,看護師のそれが最も高いのは明らかある)であり,一方で,事故を起こさないために,人的資源は必要である。また,トラブルが起こった時に,カルテの記録は自分の身を守るために重要である。こられ観点から考えると,iPadなどのタブレット端末の導入は,無駄な人件費を削減し,事故防止にも非常に有効なツールだと言える。
今後もさらに発展させることにより,この厳しい医療環境の中で病院が生き残る鍵になるのではないかと思われる。

 

●施設概要
〒580-0032 大阪府松原市天美東7-13-26
TEL 072-334-3400
URL http://www.matubara.tokushukai.or.jp
病床数:170床    診療科目:17科

●略歴
(さの けん)
1993年山梨医科大学医学部(現・山梨大学医学部)卒業。湘南鎌倉総合病院,茅ケ崎徳洲会総合病院,庄内余目病 院,福岡徳洲会病院などの勤務を経て,98年に徳田病院(現・松原徳洲会病院)入職。99年に同院外科医長となる。2004年に同院外科部長となった 後,2005年から同院院長。


(ITvision No.28 スマートデバイス導入・活用のヒント 転載)
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