医学生によるiPad活用とMEDiSHAREの活動
田沢 雄基 氏(慶應義塾大学医学部5年生)

2012-9-18


田沢 雄基 氏

田沢 雄基 氏

医療現場だけでなく,医学教育の場でもiPadなどのモバイルデバイスの利用が広がっている。特に,講義や実習など多忙な学生生活の中で効率的な時間の使い方が求められる医学生たちは,iPadのアプリを上手に使い,学びの時間を確保している。今回は,医学生のiPadの活用スタイルと,医学部へのiPad導入を進めるMEDiSHAREの活動について,田沢雄基氏が紹介する。

■はじめに

現在,医学生の間でiPadの普及が急速に進んでいます。私の大学でも,2012年になり,自費購入による所有率が40%を超える学年も出てきました。
この要因としては,
(1)世代が進むにつれ,ITへの抵抗感がなくなり,ITが生活の一部となっている医学生が増えている。現在の低学年は,“デジタルネイティブ第2世代”と呼ばれる世代であり,青年時代よりSNSやクラウドを使いこなしてきた世代であるため,iPadのような端末にまったく抵抗感がない。
(2)iPad発売より時間が経過したことにより,サードパーティによる医学系アプリが充実してきている。特に,作業スペースをとらず一瞬で起動するiPadは,病院実習中に活躍するため,実習の始まるタイミングで購入する高学年も増えてきている。
といったことが挙げられます。
今後,医学部に入学してくる学生は,初めて持った携帯がiPhoneという,さらにITになじみが深い世代であり,より一層iPadの普及が進むと考えられます。
一方で,iPadの医学部での普及を妨げている要因としては,日本語の医学コンテンツの不足が挙げられます。この点において日本は,英語圏に大きく水を空けられているので,医学系出版社をはじめ,日本の企業にも頑張っていただきたいところです。

■医学生のiPad活用方法

医学生が活用するiPadアプリは,大きく,
(1)紙にはない3Dや動画の強みを生かしたアプリ
(2)膨大な医学情報から必要な情報を検索するためのアプリ
(3)教科書や単語帳などのデジタル化で,効果的な学習を促すアプリ
(4)医学専用ではないが,学習に役立つアプリ
に分けられます。これらを1つずつ紹介します。

1. 紙にはない3Dや動画の強みを生かしたアプリ

図1 解剖学系アプリのVisible Body

図1 解剖学系アプリのVisible Body

この分野で最も活用されているのは,やはり解剖学系のアプリです。なかでも人気なのは,「Visible Body 」というアプリです(図1)。
このアプリには,豊富な解剖学の図と解説があり,iPadならではの機能として,3D回転が可能で,選択した部分を“Hide”することで,内部構造を確認することもできます。
価格は4800円とアプリとしては高額ですが,この内容のものを書籍で購入しようと思えば,日本なら2万円近くしますし,重さもこれだけで2~3kgになってしまいます。また,書籍ではもちろん3D回転もできませんし,自由に内部を観察することもできず,ほとんどの点でこのアプリは書籍より優れていると思います。
さらに,この手のアプリの操作は直感的なので,まだ医学英語もわからない低学年でも解剖の勉強に活用できます。

2. 膨大な医学情報から必要な情報を検索するためのアプリ

図2 病院実習で重宝している添付文書Lite

図2 病院実習で重宝している添付文書Lite

この分野のアプリはたくさんの種類がありますが,医学生として特に病院実習で重宝しているのが,添付文書検索系のアプリです。
なかでもおすすめなのは,「添付文書Lite 」というアプリで,医薬品の添付文書を大量に読み込んで検索可能にしたという,アプリとしてはシンプルなものですが,実習中に薬についてわからないことがあったときに,すぐに添付文書を参照できるのは非常に便利です(図2)。また,このアプリはこれだけ便利にもかかわらず,無料です。
類似のものに「添付文書Pro 」というアプリがあります。こちらは登録が少々面倒ですが,添付文書をすべてダウンロードしてオフラインで参照できるので,病院内で電波が拾えない場合はこちらもおすすめです。

3. 教科書や単語帳などのデジタル化で,効果的な学習を促すアプリ

この分野では,「Inkling 」というアプリが,米国では最も使われています(図3)。Inkling自体は,電子教材のプラットフォームで,Webストアからさまざまな教科書をダウンロードできます。“Biology”や“Netter's Clinical Anatomy”など,医学生が頻繁に利用するコンテンツもかなりそろっていますし,紙の書籍と違い,章ごとに必要なだけ安価に購入できるのもうれしい点です。
Inklingは,単なる書籍の電子版ではなく,動画コンテンツや3Dコンテンツ対応はもちろん,iPadの内蔵辞書が参照できたり,Inklingの辞書で医療英単語も和訳を見ることができます。

図3 電子教材アプリのInkling

図3 電子教材アプリのInkling

 

4. 医学専用ではないが,学習に役立つアプリ

この分野には,「GoodReader for iPhone 」や「Dropbox 」「Pages 」「Evernote 」などが挙げられます。これらのアプリは,医学専用ではありませんが,専用アプリに負けず劣らず講義や病院実習で活躍します。
例えば,実習中の小講義のノートをEvernoteでとってみんなで共有,回診用の発表原稿をMacBook Airで編集して,Dropboxに入れ,回診中はiPadからGoodReaderで開いて発表するといったことなどです。
いままでは,病棟でカルテを開いて紙にメモをしてきたことを,家でレポートに編集していましたが,iPadならPagesを使って,病棟で直接レポートをつくることができます。
また,アプリではありませんが,「iCloud 」や「フォトストリーム 」も使いこなすと便利です。例えば,家でMacからWebで調べた資料をスクリーンキャプチャして,iCloudで同期すれば,病棟でわからなくなったときに,iPadから簡単に参照することができます。いままでならすべて紙に書き写して持ち込んでいたことを考えると,格段に手間が減って便利になりました。

■医学生のiPad普及を進めるMEDiSHARE

以上,紹介した使い方は,個人のiPadで活用可能な方法になります。一方で,医学生の生活をより便利に,学習をより効果的にするには,学年単位・学部単位でのiPad活用が必要だと考えています。
例えば,先ほど紹介したInklingで電子版の良い教材を見つけたとしても,講義でほかの教科書を指定されてしまったら,結局はそちらも購入しなくてはならなかったり,Visible Bodyで解剖の勉強をしようとしても,試験範囲が別のアトラスから指定されたら,結局試験勉強はそちらを購入して勉強せねばならず,勉強の時間も出費も増える上に,せっかくiPad1台ですべてが完結するはずのところを,重い教科書を持って自宅と学校を行き来しなくてはなりません。
せっかくのiPadも,学部のシステムの一部としてきちんと医学教育になじませなければ,メリットを生かし切ることができないのです。
すでにアメリカのメディカルスクールでは,多数の大学でそのようなシステムを運用し成功させていますが,日本の医学部には同様の事例が1つもありません。 この状態が長く続けば,学生の学習効率の点で他国と差が開き,延いては医療レベルの差につながる可能性さえあると思っています。
そこで,私たちMEDiSHARE (Facebook:MEDISHARE~医療学生ラウンジ~ ,Twitter:medishare_news )では,活動の1つとして,「日本の医学部における学部・学年単位でのiPad導入」を進めています(図4,5)。

図4 2012年5月にアップルストア銀座で行われたキックオフイベント

図4 2012年5月にアップルストア銀座で行われたキックオフイベント

 

具体的には,MEDiSHAREメンバー,およびMEDiSHAREの活動に共感していただいた全国の医学生と,各大学ごとにiPad導入のためのサポート委員会をつくり,その委員会を通じて学部に導入の提案をしています。
この活動により,全国の医学部で導入,およびその後の運用に関するノウハウを共有することができ,よりスピーディかつ効果的に医学教育でのiPad活用が進みます。
日本は,新しいものを導入する試みが海外に比べ遅くなる傾向がありますが,いざ導入するとなれば,ノウハウの共有などを図って,きめ細かいシステムを構築し,全国的に協調できるより効果的なシステムをつくるという点で,差別化を図らなければ海外に勝てないと思います。
サポート委員会の具体的な活動としては,教員の講義レジュメのサーバへのアップロードのサポート,iPad操作に慣れていない学生のサポート,メディアセンターと連携した電子教材の活用促進などです。大学ごとの方針にもよりますが,教員サイド,学生サイド,そしてメディアセンターなど,医学教育を推進する上でかかわってくるさまざまなステークホルダーを,iPadという“文脈上”で連携するのに必要なサポートを行います。 具体的な大学名などはここではお伝えできませんが,2013年4月には,より多くの医学部での導入が始まるよう,全国各地の医学生と連携して活動を進めています。

■まとめ

冒頭でもお伝えしたように,これからの医療現場に出ていく医学生たちは,デジタルネイティブと呼ばれる世代で,ITをはじめとする新技術に抵抗のない世代であり,日常生活で当たり前の技術を,仕事の現場でのみ使えないということは,彼らにとってストレスにしかなりません。
しかも,これらの技術は,日進月歩で進化することを前提にされた技術です。
医学教育,および医療の現場においては,iPadをはじめとするこれらの技術にいかに素早く対応するか,1つひとつの事例にとどまらず,新技術に対する体質自体をいかに改善するかまで含め,今後の対応が問われているのではないかと考えています。

 

◎略歴
(たざわ ゆうき)
2008年慶應義塾大学医学部入学,現在5年生。2009年に医薬看3学部合同学生団体CISCA を創設し,2010年に慶應義塾大学医事振興会副代表 ,2011年に株式会社リンケイジアジャパン でインターン,2012年にMEDiSHARE を創設。
Facebook:http://www.facebook.com/yuuki.tazawa.home
Twitterアカウント:@YuukiTazawa(https://twitter.com/YuukiTazawa
ブログ:http://yuuki-tazawa.com/


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