iPod touch・iPad 2を活用した職員教育
隈本 寿一 氏(医療法人真鶴会 小倉第一病院 MIT(Medical Information Technology)部長)

2012-2-21


隈本 寿一 氏

隈本 寿一 氏

医療現場でのスマートフォンやタブレット端末の活用が広まる中で,研修医や職員教育に用いるケースが増えている。今回は,iPod touchやiPad 2を使ったeラーニング(モバイル・ラーニング)により,職員の学習意欲の向上などの効果を生んでいる小倉第一病院 の事例を,同院MIT部長の隈本寿一氏が解説する。

■はじめに

当院では,2004年より職員教育にeラーニング*1を導入し,2005年の第2回日本e-Learning大賞「審査員特別優秀賞」を受賞。2009年より新入職員全員にiPod touchを渡して,モバイル・ラーニング*2を開始し,2011年からモバイルデバイス*3をiPad2に変更して,教育を行っている。

*1    eラーニング:コンピュータネットワークやITを活用した学習・教育・訓練。
*2    モバイル・ラーニング:モバイルデバイスを活用した学習形態。
*3    モバイルデバイス:スマートフォン,タブレット型端末,タブレットPC,スレートPC,ネットブックなど。

■eラーニング導入の背景

当院の院内学習形態は,プリセプター研修・集合研修が中心であった。しかし,(1) 勉強会を行っても学習意欲が見えない,(2) 交代制勤務のため出席者が少ない,(3) 特定の職員しか新しい情報や制度を学習しない,(4) 新人指導教材が陳腐化していた,など決して満足できる教育とは言えなかった。そこで,院長直轄のeラーニングプロジェクトチームを2003年に発足し,その1年後にLMS*4を導入,eラーニングの本格運用を開始し,プリセプター研修・集合研修の補完として利用した。

*4    LMS:learning management systemの略,学習管理システム(受講者管理,学習履歴,進捗管理,コンテンツ配信,教材割当など)。

■モバイル・ラーニング導入

2009年より新入職員全員にiPod touchを渡し,モバイル・ラーニングを開始した。理由は,(1) 利便性,(2) 操作性,(3) 将来性の3つである。

(1) 利便性:
パソコン主体のeラーニングでは,パソコン本体やネットワーク環境,設置場所といった制約が生じるが,モバイル・ラーニングは,これらの制約が少ない。

(2) 操作性:
起動の速さ,手軽さに加え,見やすく使い勝手の良いタッチパネルは,柔軟な学習に対応できる。

(3) 将来性:
世界規模で日々進化するアプリケーション(以下,アプリ)は新しい教育形態の推進を支援する。クラウドサービス利用で,ハードウエアやネットワークの導入・管理・運営費用,蓄積されるデータ管理といった負担からも解放される。

■院内で利用しているモバイルデバイスと周辺機器(図1)

図1 当院で利用しているモバイルデバイスと周辺機器

図1 当院で利用しているモバイルデバイスと周辺機器

(1) iPod touch 8GB
(2) iPad2 16GB Wi-Fi
(3) Link Station AP-80M(バッファロー社)
(4) イー・モバイル Pocket WiFi(D25HW)(イーアクセス社)

■導入に際しての問題点と解決策

モバイル・ラーニングを導入して間もなく,「使い方に不安を感じる」と言う職員からの相談を受けた。不安を感じる理由としては,(1) 操作方法,(2) アプリの利用方法,(3) アプリの選択などであった。

1. (1) 操作方法と(2) アプリの利用方法についての解決策

1998年より全新入職員を対象に,ITリテラシー教育(以下,IT教育)を行っている。IT教育は,週1回7時間×15回,合計105時間のスケジュールで,パソコンの基礎知識からワープロ,表計算,プレゼンテーションなどの学習を日勤扱いで実施。IT教育受講後は,医療情報の安全管理,グループウエアの有効活用に加え,習得した技術を生かした医療ポスター,患者指導書,業務マニュアル,eラーニングコンテンツなどを作成し,実務に役立てている。
新入職員には,このIT教育を利用し,2009年からiPod touch,2011年からiPad2の教育を実施した(図2)。新入職員以外は,受講希望者を対象に,2週に一度勤務時間内での勉強会(30分程度)を実施した。
一度,教育した資料や操作マニュアルは,すべて病院専用のWebサーバで公開,受講者がモバイルデバイスでサーバにアクセス,ダウンロードして集合教育と併用し,トレーニングを行っている(図3,4)。公開中の資料やマニュアルは,新たにモバイルデバイスを購入した職員も利用でき好評である。

図2 モバイル・ラーニングの様子

図2 モバイル・ラーニングの様子

 

図4 公開している資料・マニュアルの例

図4 公開している資料・マニュアルの例

図3 iPod touchでの資料・マニュアルの表示

図3 iPod touchでの資料・マニュアルの表示

 

2. (3) アプリの選択についての解決策

Apple社が運営するApp Storeをのぞけば,35万本を超えるアプリがある。そこで目にするアプリは,自由性が高く,種類も豊富である。しかし,その反面どのアプリをどう使っていいかわからないという悩みもあった。そこで,最初は,初心者も利用できる標準アプリに絞って教育を実施,操作に慣れた職員から医療で使えるアプリ(無料・有料)の利用へと進めていった。
現在,当院では主に15のアプリを利用し,教育や臨床に役立てている。次章では,導入時教育で利用したアプリの一部を紹介する。

■導入時教育で利用したアプリ

カメラ

1. カメラ(医療技術を随時撮影しそのまま教材へと利用)

ボタン1つで誰でも写真やビデオ撮影ができる。写真からビデオへの切り替えは,スライドバーを変更するだけ。医療技術撮影は用途に応じて,写真,ビデオと使い分ける。ビデオが加わったことで,従来のマニュアルでは表現できなかったスタッフの細かい手さばきや医療機器の警報音など,臨場感ある学習教材が作成できるようになった。

ボイスメモ

2. ボイスメモ(入職時の座学教育をすべて録音)

モバイルデバイス内蔵マイクを利用し,録音できる。録音データは,簡単にその場で編集,タイトルを付け専用フォルダに保存し,データは職員で共有する。現在,医療安全管理,院内感染対策,接遇など36データを収録し,振り返り学習に利用している。

 

Safari

3. Safari(院内ポータルサイト利用で医学教育)

Apple社により開発されたWebブラウザ。わざわざ自前のコンテンツを作らなくてもインターネット上には優れた医療コンテンツが豊富にある。最新の医療情報や医療技術などはSafariを使って学習する。教育担当者が推奨するページを院内ポータルサイトとして構築,新入職員の学習に利用している。

Dropbox

4. Dropbox (業務マニュアル作成)

オンラインストレージサービス*5の1つ。この特長を生かし,職員間で,業務マニュアルを作成する。利点として,複数のパソコンのほか,iPhone,iPadなどで,常に同じファイルを利用することが可能である。スタッフ間での情報共有がスムーズで,内容の追加・更新が容易である。データは常に最新データに自動更新,一元化されるため,検索にかかる時間の浪費がなく,最新のマニュアルを誰もが簡単に確認することができる。情報共有によるマニュアル作成は,職員からの情報が付加されマニュアルの完成度が高まる。

*5    オンラインストレージサービス:インターネット上でファイル保管用のディスクスペースにデータを保存し利用する。

■eラーニングコンテンツ

新入職員や中途採用者の悩みの1つに,病院ごとのローカルルールへの対応がある。例えば,カルテの書式,検査や薬剤のオーダ方法,指示の出し方など,細かいところで異なる。
当院のコンテンツは,入職5年目までの職員が作成する。理由として,入職5年目までの職員は,自分が経験した認識の違いをまだ覚えているからで,それをコンテンツ化する。作成されたコンテンツは,新入職員が,自分のモバイルデバイスに保存,必要に応じて利用している。新入職員や中途採用者は,事前の認識と現実のギャップの違いから起こるリアリティショックをこのコンテンツを利用し緩和していく。
現在,看護基本技術・ME機器操作など,67のコンテンツをモバイルデバイスで受講することができる。

■コンテンツ作成

日々更新されるコンテンツの継続的運用を実現させるには,現場におけるコンテンツ作成が必要となる。職員誰もが作成できるようIT教育内で,学習コンテンツ作成の教育を行う。作成したコンテンツは,指導者や上司のアドバイスを受けコンテンツ化。職種ごとに分かれ内容と動作を確認し,さらなるコンテンツの充実を図る(図5)。こうして作成したコンテンツは職員間で共有し,職員一人ひとりのスキルアップに役立てる。

図5 IT教育内でのコンテンツ作成の様子

図5 IT教育内でのコンテンツ作成の様子

 

■コンテンツ作成による相乗効果

情報を集めただけでは,コンテンツにはならない。集めた情報に誤りがないか,EBMやガイドラインに沿っているかなど,コンテンツ作成においても自分の知識・技術の再確認ができる。つまり,コンテンツ作成のねらいは,受講者,作成者が共に学び合う学習の相乗効果にある。

■ME機器シミュレーター

ME機器の緊急時操作を,迅速かつ確実に行うには,日ごろからの操作訓練が重要になる。当院では,モバイルデバイスを利用したシミュレーターを利用して,緊急時における対応を各自が身に付けていくことができる(図6)。

図6 ME機器シミュレーター

図6 ME機器シミュレーター

 

1. ME機器シミュレーターの主な特徴
(1) 動画による操作解説
(2) 操作ガイドに沿ったシミュレーショントレーニング
(3) 受講者の理解度測定など

ビジュアル化されたシミュレーショントレーニングは,実際の操作に沿った学習内容で,いつでも,どこでも好きな時間と場所で学習できる。業務に直結した教材は,職員の興味と理解度を深め,不安軽減,緊急時操作に対する実践力と技術向上に役立つ。

■まとめ

モバイル・ラーニングは,従来の学習形態に比べ自由度が高く,柔軟な学習スタイルが構築できる。求める知識を手元で簡単に習得できるため,生涯学習の支援やワーク・ライフ・バランスの推進,潜在看護師の復職支援など,さまざまな分野での利用が期待されている。

 

●参考文献

1)隈本寿一 : 失敗しないe-learning構築. 看護教育, 48・4, 291, 2007.
2)隈本寿一,北川 明,古田雅俊 : 看護実習生のeラーニングと多施設協同eラーニングネットワークの構築. 師長主任業務実践, 14・52009.
3)隈本寿一 : シミュレーションの現状と未来. 看護, 61・14, 2009.
4)中村秀敏 : 活用事例(1)先取り! iPadを用いたモバイルラーニング 持ち歩ける「お仕事ガイド」. ナーシングビジネス, 5・9, 2011.

 

◎略歴
(くまもと じゅいち)
1980年小倉第一病院入職。90年教育委員長,96年医療情報委員長を経て,2000年MIT部長。医療IT化,人材育成,eラーニングなど各種医療学会での講演,雑誌への執筆,病院研修,導入支援のほか,企業講演なども行っている。福岡看護eラーニング研究会世話人,Japan Medical e-Leamin世話人,北九州小倉看護専門学校非常勤講師。


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