医療現場におけるiPhone/iPadの活用について
堤 真一 氏(大阪市立大学大学院博士課程放射線科)

2011-2-23


堤 真一 氏

堤 真一 氏

ヘルスケア分野でのiPhoneやiPadなどのデバイスの活用が広まる中,診療の現場では,ユーザー自らが工夫して,新しい“使い方”を始めている。シリーズ第4回は,自らiPhone向けのアプリケーションの開発を手がけた大阪市立大学放射線科の堤 真一氏が,その開発経験を紹介する。

■はじめに

スマートフォン,タブレット端末をいかに医療現場に応用するかという最近の流行について,現場の医師およびiPhoneプログラマーとしての観点から述べる(表1)。

表1 スマートフォンの最近の環境

表1 スマートフォンの最近の環境

 

■本当にiPhone・iPadが必要なのか

iPadやiPhoneは,デザイン・性能・使い勝手のどれもがすばらしいデバイスである。ただ,どんな用途にでも適しているわけではない。例えば電子カルテを取り上げる。患者へ画像やデータを提示するためであれば,すばやく使えて,画面も見やすいiPadは,すばらしい役割を果たしてくれる。
逆に,医療従事者が電子カルテとして使う場合はどうだろうか。タッチパネル入力よりはキーボード入力の方が速く正確である。また,画面のデザインは,通常の電子カルテ(Windows)とiPadで異なるので,慣れが必要である。ハードウエアとしての堅牢性(防滴・耐衝撃性)は,一部のWindowsノートPCの方が優れている。
こういう観点からは,iPadより,通常のノートPCや,場合によってはslate(Windows Slate端末)などが優れていると思われる。
目的に合わせて適切なデバイスを使用することが大事である。

■私自身のiPhone・iPadの活用について

図1 作成したアプリケーション

図1 作成したアプリケーション

私自身はiPhoneを,日常診療の中で必要な情報が素早く得られるツールとして活用している。また,専門分野での計算ツール「BED計算電卓 」を自ら作成し,無料で公開している(図1)。医療現場向けの計算ツールで重要なこととして,操作が容易であること,素早く動くこと,ほしいアプリケーションが容易に入手できることなどがあると思う。以下,この3点について個別に述べる。

1. 操作が容易であること

初めて使うアプリケーションでも容易に使えるためには,操作方法の統一が重要である。iPhone・iPadでは,違うアプリケーション間でも操作方法がほぼ統一されている。これはアプリ開発者向けの文書であるHuman Interface Guidlineの存在が大きい。Apple社では,20年以上前から“ Apple Human Interface Guidelines ”という文書が公開されており,iPhone・iPad向けにはこれを発展させた「iOSヒューマン・インターフェイス・ガイドライン 」「iPadヒューマン・インターフェイス・ガイドライン 」という文書が公開されている。200ページを超える文書で,iPhone・iPadのアプリケーションは,このガイドラインを順守することが必須となっている。ガイドラインには,画面の色使い,アイコンの形,ボタンのサイズやプログラム上の注意など,さまざまなことが詳細に書かれている。
これを順守することで,統一された操作方法の使いやすいアプリケーションとなる。こういった詳細な文書の存在は,ほかのスマートフォンにはない特徴である。

2. 素早く動くこと

素早く動く最も大きな理由は,プログラム言語の違いである。iPhone・iPadでは,Objective-Cというプログラミング言語で開発される。一方,通常の携帯電話やAndroidでは,JAVA言語が使用されることが多い。一般的にObjective-Cは,JAVA言語よりメモリの消費が劇的に少なく,実行速度もかなり速い。また,先程述べたヒューマン・インターフェース・ガイドラインには,ユーザーに遅いと感じさせないための工夫が数多く記載されており,これも素早く動く理由の1つである。

3. ほしいソフトが簡単に手に入ること

従来のPDAやPCでは,ユーザーが海外のアプリケーションを購入・入手するにはハードルが高かった。例えば,海外の専門的な有料アプリケーションをダウンロード購入することを考えてみよう。多くの場合,外国語のホームページへ行って,不安を抱きながらクレジットカード番号を入力する必要がある。これは非常にハードルが高い。

一方,iPhone・iPadには,App Storeというアプリケーションを容易に販売・購入できる環境がある。App Storeで検索し,パスワードを入力するだけで,安心して容易にアプリケーションを購入できる。また,App Storeは,アプリケーションを販売する立場で考えてもすばらしい環境である。例えば,iPhoneアプリケーションを海外で販売するのに必要なことは,Apple社のホームページで数行の英語の紹介文を作成し,海外での販売を許可するだけである。私がiPhoneアプリケーションを作成した際には,上記の手順のみを行い,その他の宣伝は一切行っていない。にもかかわらず,海外46か国からダウンロードしていただいた。スペイン,中国,オランダ,リトアニアでは,医療カテゴリでトップ100アプリケーションにもなった。最近ではアメリカの医学生から,アプリケーションについて直接メールをいただいたりもした。
このように,容易に海外とかかわれるのはすばらしいことである。この環境をうまく生かせば,日本のマーケット規模では採算が成り立たないようなアプリケーションでも,世界規模で販売を行うことで成功する可能性があると思う。

■アプリケーションをつくってみたい方へ

私の周りでは,試しにアプリケーションを開発してみたいという声をよく聞く。ただ,iPhone・iPadに使われるObjective-C言語は,約30年前に作られた比較的難解な言語である。特にプログラム経験のない方がチャレンジするのは難易度がやや高いと思う。プログラムの経験がない方には,Android向けではあるが,GUIのみで作成できる「App Inventor 」が比較的容易である(興味があれば「App Inventorアプリの作り方」などで検索してみてほしい)。また,HTMLやJavaScriptの経験があれば,それらの言語で作成できる「Titanium Mobile 」というソフトウエアもある。
アプリケーションの作成は,たしかにハードルが高いが,一個人が世界から評価を得られる可能性がある。私自身iPhone・iPadのアプリケーションを作成・公開することで得られた反響は非常に大きく,皆さんにもぜひともチャレンジしていただきたいと思う。

 

◎略歴
(つつみ しんいち)
1996年国際数学オリンピック銀メダリスト。2004年に大阪市立大学医学部卒業卒後臨床研修終了後,放射線科医として大阪厚生年金病院に勤務。2008年より大阪市立大学大学院博士課程放射線科(現職)。主に放射線治療医として勤務しつつ,臨床研究を行っている。2009年ヨーロッパ放射線腫瘍学会にて,脳腫瘍への放射線治療(VMAT)の発表で,Young Scientist Award最終候補に選ばれる。放射線科認定医,医学物理士,マンモグラフィ読影認定医,ネットワークスペシャリスト。


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