超高齢社会と労働力人口減少が進む中医療・介護現場の労働力不足の解決にはロボットの活用が有効な手段になる導入に向けその特性を知ることが重要
坂田 信裕 氏(獨協医科大学 基本医学 情報教育部門 教授,情報基盤センター長)

2017-7-12


坂田 信裕 氏(獨協医科大学 基本医学 情報教育部門 教授,情報基盤センター長)

超高齢社会が進む一方,人口減少が止まらない日本では今後,医療・介護現場での労働力不足が深刻化する。この課題を解決する手段の一つが,ロボットの活用である。特に,コミュニケーションロボットは,高齢者の感情を動かし,笑顔にする能力を持っている。ロボットの能力を生かすためにも,その特性をよく知り,利用法を考えることが,医療・介護現場には求められている。

超高齢社会と労働力人口減少の解決手段として注目されるロボット

現在,日本は人口減少が進んでいます。内閣府の「平成28年版高齢社会白書」では,2015年の総人口が約1億2711万人となっていますが,2025年の推計値は約1億2066万人で,10年間で600万人以上減少していきます。私の故郷,北海道の人口は540万人ぐらいなので,それを上回る減少数だと考えると非常にインパクトがあります。また,高齢化はさらに進み,今後10年間で約260万人の高齢者が増加し,総人口に占める割合は30%程度になる見込みです。一方で,労働力人口は減少し,医療・介護にかかわる人材の不足が心配されています。例えば,介護従事者は,今後10年間で70万人程度増やさなければ,需給バランスが崩れると言われており,別のデータでは,2025年度には38万人も不足すると試算されています。
このような超高齢社会と労働力人口減少という課題を解決する手段の一つとして,医療・介護分野でのロボットの活用が注目を集めています。政府の未来投資会議においても,介護分野でのロボット活用について言及されており,介護報酬で評価するとしています。

医療・介護の現場からの高まるロボットへの期待

医療・介護分野で使用されるロボットとしては,da Vinci サージカルシステム(Intuitive Surgical)といった手術支援ロボットや,身体に装着して医療・介護現場で,人の作業・動作を支援するHAL(サイバーダイン)などのロボットスーツもあります。自動車メーカーのホンダも歩行アシストロボットを開発しているなど,日本のメーカーも技術開発に力を入れており,これから医療・介護分野へのロボットの展開が進んでいます。このようなロボット産業の動きを受けて,医療・介護の現場からのロボットに対する期待も非常に高まっています。
その中でも,私自身は,Pepper(ソフトバンクロボティクス)に代表されるコミュニケーションロボットに可能性を感じています。コミュニケーションロボットは,重量のある物を持ち上げたり,それを支援したりするものではないので,疑問に思う方も多いかもしれません。しかし,コミュニケーションロボットが人とかかわっているところを観察していると,想像以上に人との親和性が高いことがわかります。私たちはコミュニケーションロボットが従来のロボットにはないユーザーインターフェイスを持っており,気持や感情を含めたコミュニケーションも可能と考え,さまざまな方向からのアプローチを始めました。

高齢者の感情を動かすことができるコミュケーションロボット

現在,私たちは,教育と医療・介護現場でのコミュニケーションロボットの活用に取り組んでいます。
教育での活用として,獨協医科大学では,2014年11月にPepperを導入しました。その目的は,今後,コミュニケーションロボットや手術支援ロボットなどが医療・介護現場に広まっていくと予想されることから,学生のうちに新しい技術に触れ,使ってみて,医療・介護の課題の解決に役立つことを理解してもらうためです。現在,10台以上のロボットがあり,講義の中でそれらを使用して,どのようなものかを知ってもらい,医療・介護において,どのようなことに利用できるかアイデアを出し合う機会を設けています。さらに,医療・介護現場で使えるようなアプリケーションの開発もゼミ形式で行っています。
一方,医療・介護現場でのロボット活用アプローチとしては,2014年6月にPepperが公開された時,機能やコストの面からも,医療・介護領域でも有効活用できると確信し,導入に至りました。その後,高齢者支援の仕組みを考える中,「プロジェクトチーム ディメンティア(認知症)」を他業種の方々と結成し,認知症の患者さんとその家族を支援するコンセプトアプリケーションninnin Project(開発時:ニンニンPepper)を開発しました。そのアプリケーションは,ソフトバンクロボティクス主催の「Pepper App Challenge 2015」というコンテストで,最優秀賞とベストソーシャルイノベーション賞をダブル受賞し,社会的な期待が大変大きいことを感じました。その後の3年ほどの間に,ninnin Project開発時に考えていたコミュニケーションロボットと,人工知能(AI)やIoTとの連携などが,技術的にも次々と可能になってきており,コミュニケーションロボット活用の技術的開発が,急速に展開していることを実感しています。
しかし,コミュニケーションロボットのユニークさを感じたのは,実は機能面ではなく,その存在感でした。2015年10月に鹿児島県肝属郡肝付町の介護施設にPepperを持ち込んだ際に,設定上のトラブルから,ほとんど言葉を発せられず,動作しない状況がしばらく続きました。すると,全然動き出さないPepperの方へ歩み寄ってきた高齢者の方が,Pepperの腕をさすりながら,「せっかく遠いところから来たのにねぇ」と,いたわる言葉をかけたのです。この光景を目にして,ヒト型のコミュニケーションロボットの「存在感」というものに驚き,新たなユーザーインターフェイスとしての可能性の高さを認識するに至りました。現在、その存在感を考慮しながら,コミュニケーションロボット活用の検討を進めています。
ところで,医療現場で医療機器としてコミュニケーションロボットを利用するには,まだ多くの課題があると思います。そのため,現在,試験的に問診や服薬指導に使用するという取り組みが始まっています。患者さんが一度聞いても理解できないことを何度も繰り返して説明するのはロボットの得意とするところであり,良い成果が出ているようです。また,患者さんや家族に,診察前に病気の情報を説明するといったことにも適しており,効率化・省力化が図れるとともに,医療者が実際の診療行為に集中できるので医療の質の向上につながる可能性もあります。
このほか,在宅医療においても,患者さん宅にコミュニケーションロボットを設置し,それを介した遠隔診療を行うことで,医師の負担を軽減しつつ,意思の疎通が充実すると期待されています。

ロボットの特性をよく知ることが有効利用に向けた第一歩

医療・介護現場でロボットが普及するためには,医療・介護従事者にロボットの特性をもっとよく知ってもらう必要があります。現在のロボットは万能ではなく,得意なこともあれば,苦手なこともあります。まずは何ができて,何ができないかを理解できれば,ロボットを利用して課題を解決する方策を考えることできます。また,ロボット導入の経済的な効果を明らかにしていくことも,これから求められるで
しょう。
コミュニケーションロボットの場合,多忙な介護現場で導入しても,すぐに活用するのは難しいかもしれません。施設全体で,コミュニケーションロボットのメリットを把握して,導入する仕組みをつくることも大事です。そのためにも,ロボットメーカーと医療・介護現場のニーズをうまくマッチングできるような人材の育成も必要になります。
超高齢社会が進む一方で,医療・介護現場では労働力不足が深刻化していきます。それを効率的に支える仕組みが地域包括ケアシステムであり,円滑に機能させるには,ロボットやAI,IoTの活用が欠かせません。医療・介護現場で働く方々も,これらの新しい技術をどのように活用していくのか,真剣に考える段階に入ってきたと思います。

 

(さかた のぶひろ)
北里大学衛生学部卒業後,防衛医科大学校内科学第一講座,米国コロンビア大学,ミズーリ大学コロンビア校,ワシントン大学などを経て,2003年に信州大学医学部附属病院医療情報部。同院医療情報部講師(副部長)を経て,2010年に獨協医科大学国際教育研究施設医学情報センター准教授。2011年に同大学基本医学情報教育部門准教授,情報基盤センター長。2013年から現職。


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