京都大学におけるRapidArc 15年の歴史を振り返って 
溝脇 尚志(京都大学大学院医学研究科放射線腫瘍学・画像応用治療学)
京都大学におけるRapidArc 15年の歴史と,今後の高精度放射線治療のあり方について 座長:永田  靖(中国労災病院放射線治療科)

2023-9-13


溝脇 尚志(京都大学大学院医学研究科放射線腫瘍学・画像応用治療学)

本講演では,京都大学におけるRapidArcの歴史や技術的な特徴などを述べた上で,RapidArcを活用した当大学での取り組みについて報告する。

導入初期のRapidArcの状況

RapidArc(VMAT)は,欧米では2008年から臨床使用が開始され,当大学では2009年1月のCLINAC iX導入に伴い,on board imager(OBI)とRapidArcの機能が追加された。同年10月には,第1例目として原発性の悪性脳腫瘍(glioma)の治療を行った。当時は放射線治療計画に時間を要したものの,MU値が固定多門IMRTの約半分となり,スループットが向上した。また,患者QAにおいても,線量分布や絶対線量が固定多門IMRTと良好に一致していた。
2010年12月には,京都大学などRapidArc導入4施設による「第1回RapidArcコンソーシアム」が開催された。その際に確認されたRapidArcの課題や利点を要約すると,(1) 各種ソフトウエアは未成熟でハードウエアのスペックも不十分,(2) MU値と照射時間は固定多門IMRTと比較し大幅に短縮,(3) 線量分布は固定多門IMRTと同等,(4) 放射線治療計画が大幅に延長するため,計画者の負担が大きい,ということであった。なお,(2) については,MU値が高く被ばくの多い固定多門IMRTでは適応とならなかった小児や若年者にも,MU値の低いRapidArcは適応可能となること,治療時間が短縮することでスループットが向上し,患者の負担が軽減することが利点と考えられた。また,(1) および(4) については,最適化プログラムが未成熟であるため結果に再現性がないこと,PTV外領域への意図せぬ線量投与を認めた例が確認されたこと,なども課題であった。

現在のRapidArcの特徴

演者が考える現在のRapidArcの特徴を挙げると,(1) 照射時間,MU値の大幅な短縮・低減,(2) 線量分布は固定多門IMRTと同等以上,(3) 最適化時間が大幅に短縮しており,難しいプランは固定多門IMRTよりも短時間で立案可能,(4) 設定した線量制約を満たすDVHとなるプランを比較的容易に実現(設定に無理がない場合),となっており,RapidArcはこの15年で進化していることがうかがえる。ただし,(4) については,違和感のあるDVHとなる例もあるため,作成された線量分布を注意深く見ていく必要がある。
また,RapidArcと画像誘導放射線治療(IGRT)は非常に良い組み合わせである。「前立腺癌に対するIMRT / IGRT併用寡分割照射法の第Ⅱ相臨床試験」(加賀美班)では,低・中リスクもしくは高リスクで危険因子が1つのみの症例を対象に,IMRT+IGRTによる寡分割法(70Gy / 28分割)での治療後,経過観察期間中央値5.16年のデータを2021年の米国放射線腫瘍学会で報告しているが,急性,遅発性ともにGrade 3以上の有害事象は認めず,Grade 2も5%程度とのことであった。本試験の登録は2012年とRapidArcの臨床導入直後であり,症例の多くは固定多門IMRTで治療されているものと思われるが,高リスク症例においても治療後5年のPSA制御率が94%もあった。前立腺がんにおいては,非侵襲的なIMRT+IGRTできわめて安全に良好な成績を実現可能であることが証明されたと言える。
さらに,RapidArcを用いることで治療時間が短縮すれば,臓器移動対策にもなり,治療精度が改善すると考えられる。当大学における中リスク前立腺がんに対するIGRTについて,中央値8年の成績を検討したところ,non-prostate-based IGRT群ではPSA無再発率が徐々に低下し10年制御率は86%であるが,prostate-based IGRT群では95%であった。また,有害事象もGrade 2が約3.5%,Grade 3はわずか約0.9%であった。本検討でもRapidArcを用いたのは一部の患者のみであるため,今後は治療成績のさらなる改善が期待される。

原発性脳腫瘍に対する永久脱毛防止照射

当大学では以前より,IMRT / RapidArcによる原発性脳腫瘍に対する永久脱毛防止照射に取り組んでいる。きっかけとなったのは,2003年に脳腫瘍のためIMRTを行った症例で,偶然にも脱毛が見られなかった。そこで,28歳,女性,星状細胞腫(Grade 2)の術後照射において,頭皮への線量を落とした定位照射を行ったところ,やはり脱毛を認めなかった。また,40歳,女性,退形成星細胞腫の症例は,広範囲の照射が必要なため,当時,使用可能となっていたRapidArcを適応した(図1)。頭皮の被ばくを抑えつつも良好な線量分布が得られ,治療6か月後には完全な発毛を認めた。以後,当大学では,原発性脳腫瘍の全症例に対し,永久脱毛防止照射を実施している。
その後,RapidArcのプログラムが大幅に改善されたため,11歳,女児,胎児性がんの症例に36Gyの全脳照射を実施したところ,約1年でほぼ完全な発毛を認めた1)。以後,当大学では小児の全脳照射においても永久脱毛防止照射が標準となっている。
なお,永久脱毛防止照射の線量について部位ごとに解析した結果を論文にて報告しているので,参照されたい2)

図1 RapidArcによる永久脱毛防止照射の一例

図1 RapidArcによる永久脱毛防止照射の一例

 

まとめ

RapidArc(VMAT)は,今やIMRTの標準技法であり,物理の限度内でかなり自由に線量分布調整が可能である。一方,今後は,疾患や症例ごとの適切な線量分布について,考察を深めていく必要があると考える。

●参考文献
1)Iwai, A., et al., Pediatr. Blood Cancer, 64(8): doi: 10.1002/pbc.26434, 2017.
2)Torizuka, D., et al., Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys., 116(4): 889-893, 2023.

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