京都大学におけるRapidArc 15年の歴史と,今後の高精度放射線治療のあり方について ─物理・技術編 
中村 光宏(京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻)
京都大学におけるRapidArc 15年の歴史と,今後の高精度放射線治療のあり方について 座長:永田  靖(中国労災病院放射線治療科)

2023-9-13


中村 光宏(京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻)

京都大学における「RapidArc」〔バリアン社の強度変調回転放射線治療(VMAT)〕導入15年の歴史と今後の高精度放射線治療のあり方について,物理・技術的な側面から述べる。

RapidArcの臨床導入に向けた検証

固定多門の強度変調放射線治療(IMRT)とRapidArcの特徴を比較すると,固定多門IMRTではガントリは固定,マルチリーフコリメータ(MLC)は一方向に駆動,線量率は固定であるのに対し,RapidArcではガントリは回転,MLCは往復駆動,線量率は可変する。また,線量率よりもガントリ回転速度の優先度が高く,なるべく最速を維持するが,速度が低下すると線量率が最大となる仕組みとなっている。
当院では,2009年の「CLINAC iX」の導入に伴いRapidArcを開始した。RapidArcの臨床導入に当たっては,上記の特徴から,ガントリ回転中のMLCの位置精度や,ガントリ回転速度および線量率が可変であることに伴う出力精度に懸念があった。そこで,VMATの精度検証に関する文献1)を参考にコミッショニングを行った。その結果,MLCの位置精度は0.5mm程度で制御されており,米国医学物理学会(AAPM)タスクグループ(TG)のTG-142レポートに記載されている許容値(1mm未満)を十分に下回っていた。出力精度も,各領域において濃度値が安定していることが確認できた。
なお,頭頸部の固定多門IMRTでは,門数は7門を基本としていたが,当時はlarge fieldでの照射ができなかったためMLCが複数分割され,ある頭頸部がん症例では実際には10〜11門となっていた。また,monitor unit(MU)値は約1700,照射時間は約10分であった。一方,RapidArcでは,同一症例に対して門数は1門,MU値は約500,照射時間は2分以内となり,スループットが向上した。
RapidArcでの1例目は脳腫瘍症例であったが,患者QAはアキシャル,コロナル,サジタルの3断面のデータを取り,その線量分布を比較したところ,良好に一致していた。また,絶対線量も1%以内で一致していた。

呼吸同期RapidArcの検証

2015年には「TrueBeam STx」を導入し,呼吸同期RapidArcを開始した。呼吸同期RapidArcでは,ビームの照射が止まっている時に,ガントリの位置がわずかに戻るような動き(ノッキング)があり,線量が担保されているかを確認するため,呼吸同期幅別の線量検証を行った。
呼吸同期幅(静止,100%,50%,30%),照射時間,呼吸同期幅内で進む角度,呼吸同期幅内の残余移動量,静止状態に対するγパス率(TH:30%,3% / 3mm)について評価したところ,呼吸同期幅を絞るほど線量分布の一致度は上がるが,照射時間が延長した。次に,ノッキングの影響について,呼吸同期幅を変えながら照射し検討したところ,呼吸同期幅50%および30%の静止状態に対するγパス率(TH:10%,1%相対線量)は静止時(呼吸同期幅100%,ノッキングなし)とほぼ100%一致していた。一方,呼吸同期幅を絞るほど照射時間は延長した。これらの結果を踏まえ,当院における呼吸同期幅は50〜30%とした。
呼吸同期RapidArcは,肺がんの定位照射のほか,多発脳転移に対してきわめて有効である。図1は実際の症例であるが,4つの病変それぞれにアイソセンタを設定すると16門照射になるのに対し,シングルアイソセンタのRapidArcでは3arcですみ,線量分布も良好である。
一方,シングルアイソセンタのRapidArcは,最適化パラメータの設定を手動で行うため,計画者の経験に依存する。しかし,放射線治療計画装置「Eclipse」のv13.5からknowledgeベースプランニング「RapidPlan」が搭載されたことで,特に頭頸部がんや膵がん,直腸がんなどでは経験に依存しない治療計画の作成が可能となり,作成に要する時間も大幅に削減された。また,Eclipse v15.5では,最適化を支援する「Multi Criteria Optimization」などの機能が追加されたほか,GPUによる線量計算の高速化,RapidPlanの機能強化などが図られた。さらに,Eclipse v16.1では,GPUを用いてRapidArcの最適化計算が可能となったことで,スループットが格段に向上している。図2はバージョンアップ前後の線量分布の比較であるが,線量体積ヒストグラム(DVH)や線量分布もほぼ一致している。

図1 多発脳転移症例のシングルアイソセンタRapidArc

図1 多発脳転移症例のシングルアイソセンタRapidArc

 

図2 Eclipse v15.6とv16.1の線量分布の比較

図2 Eclipse v15.6とv16.1の線量分布の比較

 

まとめ

RapidArcを臨床導入したことでスループットが大幅に向上し,また,Eclipseの性能向上により線量分布計算に伴う待機時間が大幅に減少した。今後,Eclipseでは,集合知による機能拡充に期待したい。

●参考文献
1)Ling, C.C., et al., Int. J. Radiat. Oncol. Biol. Phys., 72(2): 575-581, 2008.


TOP