放射線治療における技術開発と新しい技術の臨床化に必要なもの 
本間 経康(東北大学大学院医学系研究科医用画像工学分野)
放射線治療における技術開発と,新しい技術の臨床化に必要なものについて 座長:吉岡 靖生(がん研究会有明病院放射線治療部)

2023-9-13


本間 経康(東北大学大学院医学系研究科医用画像工学分野)

本講演では,演者が開発に携わった動体対策技術の開発の歴史について述べた上で,新技術を臨床化するために求められる技術のうち,「自動化」について展望する。

動体対策技術の開発の歴史

演者が動体対策技術の開発に最初に携わったのは,今から10年以上前のことであるが,当時,東北大学の教授であった髙井良尋先生(現・南東北BNC研究センターセンター長)から言われたのは,「動いている標的に放射線を照射するためには,動きを予測する必要がある」ということであった。この時,研究に用いていたのは,リニアックに透視装置を搭載した装置で,on board imager(OBI)の原型になったシステムである。また,日本では1990年代後半から,北海道大学を中心に画像誘導放射線治療の技術開発が進められていたが,これは,病変近傍に留置した金マーカーを追跡し,あらかじめ決められた位置に病変が移動してくるのを待ち伏せして照射制御するというアイデアであった。こうした背景の中,われわれは,標的病変の動きに合わせて照射位置も変更する正確な追尾照射をボタン1つで可能とする技術の開発を開始した。
動く標的に正確に放射線を照射できるようMLCを制御するためには,動きの計測が必要となる。そこで,X線透視や治療ビームを用いてelectronic portal imaging device(EPID)のような形で標的をイメージングすることとした。また,当初は標的近傍にマーカーを留置して追尾する方法を検討したが,留置するには手間がかかるため,マーカーレストラッキングを考案した。X線透視で標的を描出してリアルタイムに計測するという発想であるが,原画像では画質が不十分であったため,今で言う人工知能(AI)のような技術を活用して画像処理を行うことで鮮明な画像を取得した。
一方,標的位置を把握できても,マルチコリメータ(MLC)を制御して標的をリアルタイムに追従するのは非常に困難である。そこで,われわれは,バリアン社と共同で,肺がんを対象に,主に呼吸性移動の時系列予測技術の開発に取り組んだ。
図1に,当時われわれが開発した技術の概要を示す。まず,病変位置の画像計測を行い,呼吸などに伴う病変の動きを解析して近未来の病変位置を予測し,MLCをリアルタイムに制御してX線ビームを照射する。予測性能については,まだ課題が残されているものの,0.3秒程度の近未来であれば,現時点でもかなり正確な予測が可能となっている(図2)。

図1 次世代放射線治療機器の知的照射制御のイメージ

図1 次世代放射線治療機器の知的照射制御のイメージ

 

図2 従来法(a)と近未来予測に基づくMLC制御(b)

図2 従来法(a)と近未来予測に基づくMLC制御(b)

 

新技術の臨床化へ向けた課題と展望

上記の技術は,現状ではすべてを臨床に提供するまでには至っていない。臨床化を実現するためには導入のハードルを下げる必要があるが,そのためには「自動化」が重要であると考える。
動いている標的に対して正確にターゲティングするには制御工学が有効である。そのキーワードの一つである「フィードバック制御」とは,正確に行われているかどうかを顧みることを意味する。放射線治療においては,線量分布計算の結果が不十分であれば線量分布形状を改善するが,この改善する部分がフィードバックということになる。また,動体対策技術においては,セットアップの段階で画像を撮影し,位置合わせを行う。この位置合わせも,正確性を担保するという意味ではフィードバックになる。位置合わせ後は治療計画どおりに照射するが,正確に照射できているかをモニタリングする手段として,われわれが採用した透視や,セットアップの段階ではCBCTなどもフィードバックとして使用可能である。このように,フラクション(照射)ごとにフィードバックを行っていく場合,標的に対し実際にどのように照射されているかまでは正確に把握することができない。一方,適応放射線治療は,どのように照射されているかを考慮して計画し直すため,「実際にどのように照射されたか」に基づくフィードバックが行われていると言える。
ただし,適応放射線治療では,フラクションとフラクションの間(inter-fraction)については考慮できているものの,各フラクションの中(照射中:intra-fraction)で同様のフィードバックを行うのは,技術的にかなり難しい。また,一部のプロセスにおいては,医療者の負担軽減のため自動化技術の導入が求められる。そこで,われわれは次のステップとして,intra-fractionの部分を自動化し,正確な照射を行うための技術開発に取り組んでいる。それにはreplanning(adaptive)の技術も必要である。AIを応用することで,きわめて高速な計算が可能となっているため,intra-fractionでの補正を,人手をかけることなく簡便に行えるようになりつつある。

まとめ

放射線治療においてはこれまで,画像技術の著しい進展やAI技術の台頭により,主に画像誘導と照射制御において有効な技術が開発されてきた。これらの技術を今後,臨床で応用するためには,さらなる自動化とAI技術の有効活用が求められる。

TrueBeam 医療用リニアック:医療機器承認番号 22300BZX00265000
放射線治療計画用ソフトウエア Eclipse:医療機器承認番号 22900BZX00265000


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