放射線治療における新しい技術を臨床使用する際に求められること 
神宮 啓一(東北大学大学院医学系研究科放射線腫瘍学分野)
放射線治療における技術開発と,新しい技術の臨床化に必要なものについて 座長:吉岡 靖生(がん研究会有明病院放射線治療部)

2023-9-13


神宮 啓一(東北大学大学院医学系研究科放射線腫瘍学分野)

演者が教授に就任した2012年当時,当院では高精度放射線治療〔定位放射線治療(SRT / SBRT)や強度変調放射線治療(IMRT / VMAT)〕は週1,2例しか行われていなかったが,現在は約1200人 / 年の新規患者の約7割に高精度放射線治療を適応している。2019年にはリニアックを3台更新,そのうち2台がバリアン社の「TrueBeam」,2022年にはonline adaptive radiotherapy(online ART)を開始した。
このように,新技術の導入には積極的に取り組んできたが,本講演においても,現在大きな話題となっているOpenAI社の「ChatGPT」を活用し,新技術の臨床使用において求められることを考察する。

新技術の臨床導入についての考察

新技術を臨床導入するためには,患者数を増やして収益を上げる必要がある。ChatGPTに「患者数を増やすための方法」を質問したところ,(1) マーケティング戦略の改善,(2) 口コミの促進,(3) 診療幅の拡大,(4) スタッフのスキルアップ,(5) アクセシビリティの改善,という5点が挙げられた(詳細な回答は割愛。以下同)。これらのうち,診療幅の拡大については,高精度な治療機器を導入することで,これまでできなかった診療が可能となり,スタッフがスキルアップしてサービスが向上すれば,新規患者の呼び込みにつながると考える。アクセシビリティの改善としては,最寄り駅と病院の間にシャトルバスを運行するなどの対策によって,患者数の増加につながる可能性がある。
次に,「新しい放射線治療装置を導入するメリット」について質問したところ,(1) 競争力の強化,(2) 患者の増加,(3) 財政的なメリット,(4) 医療従事者のモチベーション向上,という回答が得られた。「新しい機器を導入することで病院の治療技術や設備が最新であることをアピールでき,競争力を強化できる」という回答は,まさしくそのとおりであり,患者数の増加も期待できる。また,最も重要と思われるのはモチベーションの向上で,特に若手の医師や診療放射線技師への効果が大きいと考える。
「新技術の導入における注意点」としては,(1) 目的を明確にする,(2) リスクを評価する,(3) ステークホルダーを関与させる,(4) スキルアップを促進する,(5) テストと評価,という5点が挙げられた。これらのうち,リスク評価については,リスクを最小限にするための工夫が必要であるという認識を医療者全体で持ち,解決策を検討していく必要がある。スキルアップについては,本人の努力を促すだけでなく,トレーニングや研修の場を組織として設けることが重要である。さらに,導入後は,その技術が本当に患者や医療者のメリットになっているのかということを,ある一定期間ごとに評価していく必要がある。
図1は,頭頸部がんのVMAT治療を行った10症例に関する検討である。最初の治療計画と,約30Gyを投与した時点での2段階ブーストの際のCT画像を重ね合わせ,始めの放射線治療の設定のままで30Gy時点のCT上で線量を計算して,脊髄最大線量と耳下腺平均線量がどの程度変化するかを見ているが,耳下腺の萎縮や体重減少によって,脊髄で30%以上,耳下腺で25%以上線量が増加する症例もある。このような検証結果をスタッフ間で共有することで,頭頸部がんの症例に対しては,可能なかぎりonline ARTを行うことが患者のメリットにつながるということへの理解を得ている。
また,膵臓の定位照射などにおいてonline ARTを行うことで,周囲臓器の線量を低減しつつ,腫瘍への処方線量は維持できるという報告もある。このような情報に基づき,online ARTを推奨していこうという認識をスタッフ間で共有している。
なお,新技術の導入を妨げるものとして,新技術リテラシーの低い現場の存在や人材不足が挙げられる。目的意識やメリットを明確にすることで,新技術導入への同意を得られやすくなることから,しっかりと説明していくことが重要である。一方,管理者には,医療者の負担を軽減するための努力も求められる。当院では,タブレット端末で問診を行うためのアプリを開発し,看護師の負担を軽減している。

図1 耳下腺萎縮や体重減少に伴う線量変化

図1 耳下腺萎縮や体重減少に伴う線量変化

 

放射線治療でのAIの活用

われわれは,放射線治療にも積極的に人工知能(AI)を導入しようと考え,放射線治療計画装置にCT画像が転送されると,周囲臓器の輪郭抽出やターゲットの描出が自動で行われるソフトウエアの開発を進めている。本ソフトウエアでは,通常2〜3時間を要する線量分布の作成が数分で可能となる。現状では,医学物理士が作成した線量分布の方が優れているが,AIが数分で作成したものが70点,医学物理士が2時間かけたものが90点であるとすれば,働き方改革などの観点から,前立腺や乳房などの定型的な照射においてはAIを活用するメリットが大きいと考える。また,医療者の負担を軽減することで,より治療が困難な患者に医療を集中させることができれば,将来的には患者のメリットにもつながると思われる。

まとめ

放射線治療においても医療デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するべきである。できない理由を探すのではなく,新技術を積極的に受け入れる姿勢が求められる。


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