New Horizon of 4D Imaging(ザイオソフト)

2015年3月号

Ziostation2を用いた大動脈弁狭窄症のバルサルバ洞の伸展性評価

下宮大和*1、長尾充展*2、米澤政人*3、山崎誘三*3、白坂 崇*1、近藤雅敏*1、濱崎洋志*1、寳部真也*1、中村泰彦*1

大動脈弁狭窄症(AS)の治療選択肢として、日本では2013年10月より、経カテーテル大動脈弁置換術(TAVI)が保険適用となった。TAVIを施行するに当たり、大動脈弁の弁口面積の測定は重要であり、測定精度の向上を目的にCT画像による評価の有用性が注目されている。しかしながら、CTでの大動脈弁の弁口面積測定は、弁尖の高度石灰化やモーションアーチファクトによる測定精度への影響による限界が指摘されている。われわれは、「Ziostation2」を用いてバルサルバ洞の伸展性の定量化を試み、高度石灰化やモーションアーチファクトの影響を受けにくい新たな指標として、“Valsalva distensibility index(VD index)”を提案し、AS重症度との関連性を検討した。

3D Laboratory

近年の3D画像診断の役割はますます大きくなっているが、CTやMRIなどに搭載されている3D画像作成機能と撮影を並行すると、スループットが悪くなる。これを解決するため、九州大学病院放射線部では、3D画像作成に集中し、より効率的にワークステーションを運用する組織として、“3D Laboratory”を2012年10月より設置した。現在、診療放射線技師2、3名体制で業務を行っており、毎日20件程度の3D画像を作成している。ワークステーションの機能は自動処理化が進んでいる一方で、関心領域の設定やマニュアル操作が入ってくると、解析者ごとのバイアスや定量化の変動が懸念されるため、3D Laboratoryには診断を熟知する専任者が必須になる。また、3Dワークステーションの担当者とモダリティごとの撮影者が、撮影法や画像再構成について意見交換することで、新たな画像や解析法の開発が期待される。

大動脈弁狭窄とTAVI

九州大学病院では、2014年1月より、重症大動脈弁狭窄症(aortic stenosis: AS)に対して経カテーテル大動脈弁置換術(transcatheter aortic valve implantation: TAVI)が行われている。AS重症度の評価のポイントの一つは、大動脈弁の弁口面積測定であり、現在のゴールドスタンダードは超音波による測定であるが、近年、高い空間分解能を持つ多列型CTの有用性が注目されている。しかしながら、CTでの大動脈弁の弁口面積測定は、弁尖に付着している石灰化や心拍によるモーションアーチファクトによる限界があった(図1)。今回、この問題点を改善するために、多列型CTと予測補間技術(motion coherence analysis)に基づいて開発された画像解析ソフトである“PhyZiodynamics”を搭載したZiostation2を用いて、バルサルバ洞の伸展性を定量化し、ASの重症度指標としての有用性を検討した。

図1 バルサルバ洞の短軸像

図1 バルサルバ洞の短軸像

 

CT TAVIプロトコルとZiostation2の特徴

表1 CT TAVIプロトコル撮影条件

表1 CT TAVIプロトコル撮影条件

当院のTAVI術前における心臓CTは、256スライスマルチディテクタCT(BrillianceiCT: フィリップス社製)を用いてretrospective心電図同期で撮影し、その直後、造影剤の追加なしで胸部から骨盤にかけてのCT angiography(CTA)を高速撮影している(表1)。TAVIの適応となるAS患者は開胸手術の適応のない高齢者が多く、造影剤の腎機能への影響を軽減する撮像法である(図2)。冠動脈CTで大動脈弁の性状、大動脈基部の解剖学的情報、冠動脈狭窄の有無などを評価し、全身のCT angiographyでTAVIのアクセスルートとなる、胸〜腹部大動脈や腸骨動脈の走行や動脈瘤の有無、血管径などを確認する1)
われわれの開発したバルサルバ洞の伸展性評価は、冠動脈CTで得られた心電図R-R間隔の10%ごとの元データを、PhyZiodynamics処理により10フェーズから100フェーズに増やしたデータを使用する。PhyZiodynamicsの特徴は、予測補間技術を使って、基の位相データを2〜10倍の位相データに再編し、時間分解能を向上させたイメージングを可能とすることである。それと同時に、位相の異なる画像のROI輪郭の自動追随を可能とする“Dynamic ROI機能”が開発された。PhyZiodynamicsはすべてのボクセルデータをトラッキングしており、全フェーズにおける位置情報を持っているため、自動追従が可能となっている。Dynamic ROI機能により、バルサルバ洞の周囲長および面積を心拍動に合わせて追従し、心周期を通して自動計測することが可能となった(図3)。

図2 CT TAVIプロトコル画像

図2 CT TAVIプロトコル画像
a:冠動脈CT、b:胸部-腹部骨盤CTA

 

図3 Dynamic ROI機能によるバルサルバ洞計測

図3 Dynamic ROI機能によるバルサルバ洞計測
グラフ横軸は時間、縦軸はバルサルバ洞面積

 

 

バルサルバ洞の伸展性(VD index)と大動脈弁狭窄

われわれは、図3のようにPhyZiodynamicsを用いてバルサルバ洞が最大となる面積を算出し、それをaortic annulus径で除した値をバルサルバ洞の伸展性の指標“Valsalva distensibility index(VD index)”と定義し、2014年の第100回北米放射線学会(RSNA 2014)で、VD indexのASの診断能や重症度評価における有用性を報告した(図4)。ASのVD indexは、コントロール群より有意に小さく[33.8 ± 6.2 vs. 41.2 ± 3.8、 AUC: 0.8](図5)、ASのうち、超音波の弁口面積75mm2未満の患者のVD indexは、75 mm2以上の患者より有意に小さかった[31.8 ± 5.5 vs. 37.5 ± 5.8, AUC: 0.76](図6)。これにより、ASでは重症症例になるほどバルサルバ洞の伸展性が小さく、annular 破裂の危険性が高い可能性もあり、deployの際のコントロールも重要となると予測される。高齢者のASの原因はアテローム性動脈硬化との密接な関係が指摘されており、バルサルバ洞の伸展性がアテローム性の動脈硬化により損なわれることが、ASの重症度に大きく関係していると考えられる。また、ASでは求心性の心肥大や左室拡張能低下により、心拍出量が減少する。心拍出量の低下もバルサルバ洞の伸展性に影響していると考える。今回、われわれが定義したVD indexは、比較的簡便に算出することができ、CTの限界である弁尖の石灰化や心拍動によるモーションアーチファクトの影響を抑え、ASの重症度を推測することができると考えられる。
近年のワークステーション技術の進歩は著しく、Ziostation2は従来のvolume rendering画像やCPR画像、angio graphic view画像に加え、PhyZiodynamicsでの処理やDynamic ROI機能などの技術が加わることで、高い時間分解能を持つCT・MRIの4Dイメージングが可能となる。これらの技術を駆使することで、大動脈弁狭窄などのstructural heart diseaseの機能評価に有用な情報が得られることが期待される。

図4 Valsalva distensibility index(VD index)

図4 Valsalva distensibility index(VD index)

 

図5 ASと正常群のVD index

図5 ASと正常群のVD index

 

図6 AS弁口面積が75mm2未満と75mm2以上のVD index

図6 AS弁口面積が75mm2未満と75mm2以上のVD index

 

[参考文献]
1)Achenbach, S., Delgado, V., Hausleiter, J., et al.:SCCT expert consensus document on computed tomography imaging before transcatheter aortic valve implantation (TAVI)/transcatheter aortic valve replacement (TAVR). J. Cardiovasc. Comput. Tomogr., 6, 366〜380, 2012.

 

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【関連コンテンツ】
*1 九州大学病院医療技術部放射線部門、*2 九州大学大学院医学研究院分子イメージング・診断学講座、 *3 九州大学大学院医学研究院臨床放射線科
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