New Horizon of 4D Imaging(ザイオソフト)

2013年3月号

ziostation2を用いたMR心筋ストレイン解析

梶原博生(熊本中央病院 放射線科)

臨床現場における心筋壁運動評価は超音波検査が主流であるが、MRIで冠動脈や心筋を評価する機会が増え、シネ画像でも運動評価をすることが多くなっている。通常はシネ画像を視覚的に評価するのだが、なかなか一定の見解を出すのは難しい。そこで役立つのがMRストレイン解析である。3.0T MRIの普及により、ストレイン解析と虚血心筋における心筋障害との相関の報告も増えており、最近のトピックとなっている。当院でもziostation2によるストレイン解析が可能になったので、臨床でのストレイン解析の現状について紹介する。

[心筋タギング法とストレイン解析]

心筋タギング法は、空間選択的なRF pulseにより心筋に標識(Tag)を付加することで、非侵襲的に心筋壁運動評価を可能にする方法である(図1)。このタギングMRIによる心筋運動評価は以前から行われていた方法だが、3.0T MRIを用いることで組織T1緩和が延長し、標識の持続時間が延びた。そのため収縮期まで標識が残り、観察がしやすくなった。ストレイン解析はこのデータを基に心筋の収縮を定量的に評価するものである。
ストレインとは物体に力が加わった時の歪みを示す。つまり、心筋におけるストレインは収縮力を反映する。ストレイン方向にはradial方向、circumferential方向、longitudinal方向がある(図2)。ziostation2では、longitudinal方向の解析はできないが、radial方向、circumferential方向の2方向のストレイン解析が可能である。

図1 タギング画像 拡張期(a)で認められる左室心筋の格子状のタグが収縮期(b)で歪んでいる。この歪みで収縮の程度を評価する。

図1 タギング画像
拡張期(a)で認められる左室心筋の格子状のタグが収縮期(b)で歪んでいる。この歪みで収縮の程度を評価する。

図2 ‌心筋のストレイン方向 radial方向は内腔方向、circumferential方向は中隔-側壁方向、longitudinal方向は基部-心尖部方向の歪みを示す。

図2 ‌心筋のストレイン方向
radial方向は内腔方向、circumferential方向は中隔-側壁方向、longitudinal方向は基部-心尖部方向の歪みを示す。

 

[ストレイン解析の手順]

当院では、心筋のタギング画像を左室心筋の短軸像で5スライス撮影している。1スライスあたり15秒程度(心拍数により12秒〜20秒程度と変動)で撮影できる。このうち、基部と心尖部を除いた中間の3断面を用いてストレイン解析を行う。
ziostation2で解析前にデータを読み込むと心筋の内膜側と外膜側を囲む画面(図3)が出てくるので、3断面ともに周りを囲むだけで解析作業は終了する。囲み作業後、解析結果が出るまでがおよそ30秒で、解析結果となるストレインカーブとセグメントごとのピークストレインが表示されたブルズアイ画像が表示される(図4)。当院では、radial方向とcircumferential方向のピークストレインのブルズアイ画像とストレインカーブをワークステーションからPACSの読影画像サーバーに転送している。また、ziostation2では内膜側と外膜側に分けて(壁の厚みの50%内外に分けて)ストレイン解析が可能であり、このデータも一緒にPACS側に転送している。マニュアルで行う作業は簡単な囲み作業で、通常20分程度で解析から転送まで終了している。

図3 ziostation2の解析中の画面 3断面の断面ごとに内膜側と外膜側を囲んでいく。

図3 ziostation2の解析中の画面
3断面の断面ごとに内膜側と外膜側を囲んでいく。

 

図4 ziostation2の解析結果の画面 各断面でのストレインカーブ、セグメントごとのピークストレインを出したブルズアイ画像などの解析データが表示。この中で必要な画像だけをPACS側に転送する。

図4 ziostation2の解析結果の画面
各断面でのストレインカーブ、セグメントごとのピークストレインを出したブルズアイ画像などの解析データが表示。この中で必要な画像だけをPACS側に転送する。

 

[心筋障害とストレイン]

視覚的に判断している心筋運動は、主にradial方向を反映している。経験上、このradial方向の収縮は正常例でも中隔や心尖部で弱い傾向があり、心筋の区域によりばらつきがある。このため心筋障害による収縮低下を評価することは難しい。そこで、radial方向以外のストレインを評価することで、心筋梗塞や虚血心筋などの心筋障害を評価することができると考えられている。解析データでは図5のようにストレインカーブが出るが、一般的にはピークストレイン絶対値の低下(circumferential方向はピークがマイナス方向であるので絶対値とする)が心筋障害と相関するといわれている1),2)。ちなみに、当院で正常症例のradial方向とcircumferential方向のストレインと区域評価を行ったが、circumferential方向のピークストレインは区域に分けてもほぼ一定であるのに対し、radial方向のピークストレインは区域によりばらつきがあった(図6)。このことからもradial方向を主に反映する視覚的評価よりもストレイン解析で、circumferential方向を評価することが心筋運動を評価するのに優れていると考えられる。
近年の報告では、心筋梗塞の遅延造影(LGE)とストレイン評価、perfusion studyでの虚血とストレイン評価の報告があるが、いずれもcircumferential方向、longitudinal方向でLGEや虚血部位と良い相関が出ている。当院で行った心筋梗塞のLGEとradial方向、circumferential方向のストレイン解析の比較でもradial方向よりも、有意にcircumferential方向のストレインとLGEの相関が良かった(図7)。longitudinal方向とcircumferential方向の違いだが、心筋線維が心筋の最内側でlongitudinal方向、中層でcircumferential方向に走行しているため、内膜下梗塞に関してcircumferential方向よりもlongitudinal方向のストレインがより鋭敏に反映すると考えられている。
心筋障害に対するストレインの解析の精度は、longitudinal方向とcircumferential方向を組み合わせたストレインとLGEの比較で、sensitivity 88%、specificity 72%との報告1)やstress-restでのperfusionと比較した研究発表でsensitivity 84.1%、specificity 63.1%、accuracy 66.4%との報告がある。当院におけるziostation2を用いた心筋梗塞のLGEとの対比でも、circumferential方向のピークストレインのcut offを−9.0%にした場合、sensitivity 91.3%、specificity 67.5%、PPV 61.2%、NPV 93.3%、accuracy 76.0%であった。正常部分のピークストレイン値やピークストレインのcut off値が報告と異なるが、解析ソフトの違いと思われる。

図5 ストレインカーブとブルズアイ画像 PACSの読影サーバーに送られるストレイン解析データ。circumferential方向(Ecc)のストレインカーブ(a)とブルズアイ画像(b)、radial方向(Err)のストレインカーブ(c)とブルズアイ画像(d)。表示のストレインカーブは中央部のものだが、心基部、心尖部のストレインカーブも転送される。健常者の解析データだが、radial方向では区域でピークストレインにばらつきがあるのがわかる。

図5 ストレインカーブとブルズアイ画像
PACSの読影サーバーに送られるストレイン解析データ。circumferential方向(Ecc)のストレインカーブ(a)とブルズアイ画像(b)、radial方向(Err)のストレインカーブ(c)とブルズアイ画像(d)。表示のストレインカーブは中央部のものだが、心基部、心尖部のストレインカーブも転送される。健常者の解析データだが、radial方向では区域でピークストレインにばらつきがあるのがわかる。

 

図6 区域別のピークストレイン radial方向の区域別のピークストレイン(a)はそれぞれのピークにばらつきが出ているが、circumferential方向のピークストレイン(b)はほぼ一定した値を呈していることがわかる。

図6 区域別のピークストレイン
radial方向の区域別のピークストレイン(a)はそれぞれのピークにばらつきが出ているが、circumferential方向のピークストレイン(b)はほぼ一定した値を呈していることがわかる。

 

図7  ‌radial方向(Err)とcircumferential方向(Ecc)のピークストレインと心筋梗塞のLGEとの相関を示すROC曲線 radial方向に比してcircumferential方向のストレインがLGEと相関が良いことがわかる(p<0.001)。

図7  ‌radial方向(Err)とcircumferential方向(Ecc)のピークストレインと心筋梗塞のLGEとの相関を示すROC曲線
radial方向に比してcircumferential方向のストレインがLGEと相関が良いことがわかる(p0.001)。

 

[臨床応用]

ストレイン解析は造影剤を使用できないような腎機能障害の患者や造影剤アレルギー患者において、虚血や梗塞での心筋障害部位を予測できるものであれば望ましいが、前述の精度をもとにするとspecificityがあまり高くないため、造影せずに障害部分を予測することは難しいようだ。しかしながら、造影とストレインを併せて評価することで、artifactかLGEか迷う症例の判断には十分役に立つ。つまり、LGEが疑われる部分でピークストレインが低下していなければ、artifactの可能性が高いといえる。また、造影剤が使用できない人においての除外診断にも用いることができる。

[まとめ]

タギングMRIは撮影時間が短く、追加して損はない画像である。しかも、ziostation2でのストレイン解析は短時間で簡単な作業ですむので、日常の忙しい診療の中で、技師のストレスがなく作業が行えるのは望ましいことである。当院ではリアルタイム読影を行っているが、短時間でストレイン解析からPACS側の画像サーバーへの転送がすむため、日常診療に即座に反映されるのはうれしいかぎりである。現時点では、心筋傷害部位のある程度の予測や、そのほかの画像と併せての評価に活用しているが、今後のさらなる研究に期待したい。

[参考文献]
1)‌Oyama-Manabe,N., et al.:Identification and further differentiation of subendocardial and transmural myocardial infarction by fast strain-encoded(SENC) magnetic resonance imaging at 3.0Tesla. Eur. Radiol., 21, 2362〜2368, 2011.
2)‌Emande, L., et al.:Systolic Myocardial Dysfunction in Patient with Type 2D Diabetes Mellitus . Radiology, 265, 402〜409, 2012.

 

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