技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2015年4月号

Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

心臓領域における3検出器型SPECT装置「GCA-9300R」

山﨑 雄太(核医学・治療営業部)

心臓および頭部のSPECT検査は,SPECT検査全体の約70%を占めている。これは,虚血性心疾患や脳血管障害,または認知症における診断と治療方針の決定において,SPECT検査の必要性が高いことが背景にある。そこで,心臓および頭部のSPECT検査で卓越した画像を提供する装置として,3検出器型SPECT装置「GCA-9300R」(図1)を開発したので,心筋SPECT検査を中心にその技術を紹介する。

図1 3検出器型SPECT装置GCA-9300R

図1 3検出器型SPECT装置GCA-9300R

 

■3つの検出器による短時間収集

3検出器型SPECT装置は,検出器を120°回転させるだけで360°分のデータを収集できるため,汎用2検出器型SPECT装置(360°収集)と比較して,同等の検査時間でノイズの少ない高画質な画像が得られる(図2)。また,2検出器型の180°収集と比較すると,均一性が良く,歪みやアーチファクトの少ない画質を得ることができる。

図2 3検出器による収集効率の向上

図2 3検出器による収集効率の向上

 

■高精度2インチ光電子増倍管を採用

汎用2検出器型SPECT装置では,主に3インチ光電子増倍管(以下,PMT)が採用されているのに対して,GCA-9300Rでは2インチPMTを採用した。有効視野の面積あたり2倍以上の密度でPMTが配置されているため,より精密な位置検出が可能となり,均一性向上に寄与する(図3)。

図3 PMTの配置

図3 PMTの配置

 

■真の汎用コリメータ“LMEGPコリメータ”

低中エネルギー汎用(以下,LMEGP)コリメータは,感度と空間分解能,ペネトレーションという相反するパラメータを徹底的に検討し,欧米と異なる日本のニーズに対応した心筋SPECT検査に最適なコリメータである。低エネルギー高分解能(以下,LEHR)コリメータと比較して約1.8倍の感度があり,効率良くガンマ線の計測が行えるため,低投与量でも十分なカウントを得ることができる。また,123Iのような高エネルギーのフォトピークを有する核種を用いた検査においては,高エネルギー側からの散乱線の混入を抑えることで,画像コントラストおよび定量性が改善される(図4)。このように,核種によらず汎用的に使用することが可能である。

図4 LMEGPコリメータとLEHRコリメータの比較

図4 LMEGPコリメータとLEHRコリメータの比較
(画像ご提供:国立循環器病研究センター様)

 

■高速3D-OSEM再構成による検査時間のさらなる短縮

3D-OSEM(コリメータ開口補正付き逐次近似再構成)は,コリメータの開口部と線源との距離により生じる空間分解能の劣化(コリメータ開口)を逐次近似モデルに導入し,空間分解能の補正およびS/N比の向上を実現できる。このため3D-OSEMは,検査時間の短縮などに応用できる。コリメータ開口補正で発生するGibb’s振動現象によるアーチファクトを抑えるように,逐次近似の処理パラメータを最適化している。3D-OSEMは,複雑な計算と多くの繰り返し処理が必要となるため,これまで処理に非常に長い時間がかかっていたが,GPU(Graphic Processing Unit)の採用により日常臨床で使用できるレベルまで高速処理することを実現した。GPU処理に最適なプログラミングを行い,従来の1/60までの処理時間短縮を可能とする。そのため,データ量の多い心電図同期SPECTにおいても,ルーチン検査に使用可能な短時間処理を実現している。
図5に示すように,フィルター逆投影(FBP)法と比較すると,収集時間が半分にもかかわらず,シャープでコントラストの高い画像を得ることができる。

図5 3D-OSEMによる空間分解能・コントラストの向上

図5 3D-OSEMによる空間分解能・コントラストの向上
(画像ご提供:国立循環器病研究センター様)

 

■SSPAC法による減弱アーチファクトの低減

心筋SPECT検査において,生体内でのガンマ線の減弱の影響により,正常例においても下壁・中隔領域のSPECT画素値が低下する問題がある。この減弱を補正するには減弱係数の分布を表すデータ(減弱マップ)が必要となり,近年ではCT画像を用いる方法が主流となっている。しかし,CTを用いる減弱補正では,CT画像から作成した減弱マップとSPECT画像との位置関係が呼吸の影響により一致せず,アーチファクトとなる可能性がある。これは同一寝台で撮影可能なSPECT/CT装置においても解消されない問題である1)
そこで,この問題を解決するためSegmentation with Scatter and Photopeak window data for Attenuation Correction(以下,SSPAC)法が前田らによって開発された2)。SSPAC法は被検者に投与されたSPECT用トレーサから放出されるガンマ線の情報のみを用いて減弱マップを作成する方法である。通常使用されるフォトピーク領域のデータに加え,コンプトン散乱領域のデータも使用する。データ収集のエネルギーウィンドウ設定は,フォトピークウィンドウとサブウィンドウからなる散乱線補正法(TEW法)と同じである(図6)。

図6 SSPAC法のデータ収集におけるエネルギーウィンドウ設定

図6 SSPAC法のデータ収集におけるエネルギーウィンドウ設定

 

SSPAC法による減弱マップ作成の流れを図7に示す。初めに,サブウィンドウデータから得た再構成画像から体輪郭および肺外縁の抽出を行い,SSPAC法のソフトウェアで所有するモデル縦隔を貼り付ける。次に,フォトピークウィンドウデータから得た再構成画像から心臓および肝臓の領域を抽出し,モデル胸椎とともに貼り付けを行う。このとき,天板による減弱の影響を考慮してモデル天板を貼り付けることも可能である。最後に,部位に応じた減弱係数の割り付け,SPECT位置分解能と同等の分解能になるようスムージングフィルタ処理を行うことで減弱マップを得る。このようにSSPAC法では,SPECT収集データから減弱マップを作成するため,画像間の位置ズレによる問題は生じない。また,CT装置を使用しないため,付加的な被ばくや費用が発生しないことも大きな特長である。

図7 SSPAC法による減弱マップ作成

図7 SSPAC法による減弱マップ作成

 

図8に,201Tlによる正常例でのSSPAC法の効果を示す。図8 aに示すとおり,201Tlのようなエネルギーの低い核種では,下壁中隔領域において減弱の影響を大きく受け,SPECT画素値低下のアーチファクトが生じている。しかし,図8 bのSSPAC法の結果画像では,減弱によるアーチファクトが低減し,均一な分布となっている。
冠動脈疾患またはその疑いで負荷心筋SPECTおよび冠動脈疾患を施行した患者150名を対象に,減弱補正なし群とSSPAC法により減弱補正を行った群で,冠動脈造影の狭窄率50%を基準として診断能を比較したところ,SSPAC法により減弱補正を行った群で診断能が向上したという臨床的有用性も報告されている3)

図8 201Tlによる正常例でのSSPAC法の効果

図8 201Tlによる正常例でのSSPAC法の効果
a:従来法(吸収補正なし)
b:SSPAC法(吸収補正あり)
(画像ご提供:三重大学様)

 

*GCA-9300Rは東芝メディカルシステムズ株式会社の商標です。

●参考文献
1)McQuaid, S.J., et al. : Sources of attenuation-correction artefacts in cardiac PET/CT and SPECT/CT. Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging, 35・6, 1117~1123, 2008.
2)前田壽登 : 心筋SPECTにおける減弱補正
─散乱・フォトピ-クデ-タからの減弱係数マップ作成および減弱補正. メディカルレビュー, 90, 2003.
3)Yamauchi, Y., et al. : Novel attenuation correction of SPECT images using scatter photopeak window data for the detection of coronary artery disease. J. Nucl. Cardiol., 21・1, 109〜117, 2014.

 

●問い合わせ先
キヤノンメディカルシステムズ(株)
広報室
TEL 0287-26-5100
https://jp.medical.canon/

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