技術解説(キヤノンメディカルシステムズ)

2013年9月号

Step up MRI 2013-MRI技術開発の最前線

Vantage Titan 3T Multi-Phase Transmission

山下 裕市(MRI営業部)

今日の3T MRI装置は,従来困難であった軀幹部の検査が可能となりつつある。それはひとえに,RF送信技術の進化によって実現されたと言っても過言ではない。3Tでの検査適応を大きく広げたMulti-Phase Transmission技術および新しい可能性に関して紹介する。

■1amp・2port送信から2amp・4port送信へ

東芝では,3T装置の製品化において,「非造影MRAの実現」を目標に開発してきた。しかし,当初の3T装置は軀幹部で強い信号ムラを生じ,非造影MRA撮像でも血管が大幅に欠損,3T装置での非造影MRAの実現は非常に困難であった。
一般的に信号ムラの原因は,人体形状と組成に依存した「体内でのRF変動によるRF強度ムラ」が挙げられている。そのため,個体差に合わせた送信の調整が求められるが,1つの電源(1amp)で電波を発生させるQD方式では対応できない。そのため,独立した2つの電源(2amp)でwhole body(WB)コイル内に流れる電流の振幅と位相を変化させることでRF分布を調整する2amp方式が開発され,3T装置での軀幹部検査の実現性を大きく高めた(図1)。
しかし,2ampでの制御でも,呼吸や心拍によりRF分布が変動するという現象が見られた。その原因は,WBコイル内に流れる電流変動にある。RF磁場の分布は,WBコイル内に流す電流に依存している。装置内に人体が挿入されると,WBコイル内に流れる電流が,アンテナに人体が近づいたのと同じように変動する。WBコイルに電流を供給する給電点が2つの2portのシステムでは,給電されてからWBコイル内を流れる距離が長いため,電流が人体の影響を受けやすく,強い負荷が発生した際,各portのインピーダンスに差を生じ,電流強度差,すなわちRF磁場差となりRF均一性が低下してしまう。一定のRF磁場がどのくらいの電力で発生できるかを示すRF磁場発生効率も4portの方が高く,変動によるミスマッチが発生した場合においても,4portは効率が低下せず,少ない電力で安定したRF磁場を発生することができる(図2)。
このような形で,Multi-Phase Transmissionでは2amp・4portとすることで,「体内でのRF変動への対応」および「送信時の電流変動の低減」の2つに対応し,RF送信時の精度を向上させることで,さまざまな部位での検査を実現することが可能になった。

図1 RF送信技術の進化

図1 RF送信技術の進化
2つのampを用いることで,WBコイルへの電流振幅,位相を制御でき,RF分布を変化させることが可能になる。しかし,port間の距離が長いため,電流変動を来しやすい。Multi-Phase Transmissionでは,2ampでの制御に加え,給電点を4portとすることで電流の変動を抑制している。

 

図2 過負荷時における2portと4portのシミュレーション比較

図2 過負荷時における2portと4portのシミュレーション比較
4portでは2portに比べ,各portでのインピーダンス差が少なく,RF均一性も高くなる。また,RF磁場の発生効率が高いため,低い電力でRFを発生できるだけでなく,ミスマッチなどの変動時にも安定した出力を確保できている。

 

■Multi-Phase Transmissionの臨床適応(図3,4)

Multi-Phase Transmissionの搭載によって,軀幹部検査の均一性,脂肪抑制,非造影MRAの描出能向上が報告されている。軀幹部では,通常イメージの面内の均一性だけでなく,RF不均一の影響を受けやすいMRCPでも安定して描出されている(図3 a)。また,心臓撮像でも,細かなRF調整なしで検査可能であり,新しいSARコントロールの登場により,TrueSSFP撮像でも高コントラストが得られるようになっている(図4)。
脂肪抑制に関しては,特にマンモグラフィにて高い有用性を示している(図3 b)。マンモグラフィの検査はほとんどが脂肪抑制撮像で,脂肪抑制の安定性が検査の安定性に直結する。また,両側同時に撮像する必要があり,両側で均一な脂肪抑制像を得るには困難を極める。一般的に磁場強度が高いほど,水と脂肪の周波数差が大きくなるため,脂肪抑制が効きやすいと言われる。しかし実際は,RF不均一性によりRF強度差,すなわち脂肪抑制パルスの強度差となり,脂肪抑制の不均一性を生じてしまう。「Vantage Titan 3T」では,マンモグラフィ固有のシミングを実施する必要もなく,安定した脂肪抑制画像を得ることができている。片側切除後のように磁場不均一性の強い症例においても,安定して脂肪抑制効果が得られており,Multi-Phase Transmissionの効果,RF均一性の効果が非常に大きいと考えられる。
非造影MRAにおいては,1.5Tと同等の検査が行えるのはもとより,より末梢までの描出が可能になっている。特に,スピンラベリング技術であるASLやTime-SLIPでは,磁場強度の増加によりラベリング時間が延長し,描出能が向上する(図3 c,d)。しかし,スピンラベリングの信号強度は,ラベリングされたものの量だけでなく,ラベリングされたものの縦緩和にも依存するため,ラベリング強度に差が生じれば,それが信号強度差として描出される。RF分布の均一性が大きく関与しており,RFの安定性が高くなければ精度の高い画像を得ることはできない。CSF Flow Imaging(図3 e)では,ラベリング強度のみでなく,ラベリング位置の正確性も必要であり,安定したRFの印加が行われなければ,動態での観察や,第3脳室内でCSFの逆流により発生する渦状の流れの状態を表現できないと考えられる。

図3 Multi-Phase Transmissionの臨床適応

図3 Multi-Phase Transmissionの臨床適応

 

図4 新しいRFコントロール

図4 新しいRFコントロール
新しいリアルタイムなRF制御により,高い精度でSAR管理が可能になり,従来よりも高出力なRF印加が可能となった。それにより,高いflip angleでの撮像が必要なTrueSSFPなどでコントラストの大幅な改善が期待される。

 

■Multi-Phase Transmissionのもたらす新しい可能性

Multi-Phase Transmissionは,RFの均一性を向上させているに過ぎない。しかし,マンモグラフィ検査での脂肪抑制の安定性など,従来は磁場均一性の影響とされた現象に関しても大幅な改善が見られている(図3 f)。また,体内金属に関しても,金属部分での信号低下は見られるものの,その周りでの信号の低下が低減しているとの報告もある。このように,Multi-Phase Transmissionにより,従来は磁場の均一性の影響とされていた現象の改善も見られ,今後のアーチファクトの概念を変える可能性があることが示唆される。

以上,Vantage Titan 3TのMulti-Phase Transmissionに関してご紹介した。RF送信は,MRイメージングの一番初めの作業であり,受信技術がいくら向上しても送信自体を補正することはできない。今後,さまざまなアプリケーションで重要な技術の一つになると考えられる。

 

乳がん検診における東芝MRIの特長

 

 

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