Aquilion ONEを用いた腹部画像診断 
腹部サブトラクション:平衡相への応用 
吉満 研吾(福岡大学医学部 放射線医学教室)
Session<2>

2017-5-25


吉満 研吾

正確なサブトラクションを行うためには,高度な非線形非剛体位置合わせが重要であり,東芝メディカルシステムズ社が得意としている分野である。本技術は,version6で“SURE Subtraction Lung”としてCT値の差の大きい肺野でまずは臨床応用され,その後,version8で軟部組織濃度に合わせてパラメータチューニングすることで腹部臓器(肝臓,膵臓,腎臓,腸管)を対象とした“SURE Subtraction Iodine Mapping”が開発された。本講演では,SURE Subtraction Iodine Mappingの概要と基礎データ,および平衡相への臨床応用としてextracellular volume fraction(ECV)mapについて述べる。

SURE Subtraction Iodine Mappingの概要

SURE Subtraction Iodine Mappingは,造影CTのデータから単純CTのデータを差分してヨードのみの情報を表すヨードマップ,ヨードマップを解剖学的な画像あるいは造影画像に重ね合わせて造影成分を強調したCE Boost画像などを生成する技術で,解析時間は約3〜4分である。位置合わせアルゴリズムに相互情報量を利用した非線形位置合わせ法を用いることで,従来よりも腹部組織(軟部組織濃度)の位置合わせに適したパラメータチューニングを実施している。

SURE Subtraction Iodine Mappingの基礎データ

オリジナルの単純CTと造影CTの平衡相でズレのある腹部領域の画像に対し,SURE Subtraction LungのAll mode(従来法)とSURE Subtraction Iodine Mappingを適用して比較したところ,SURE Subtraction Iodine Mappingの方が高精度に位置補正されていた。精度検証のために,ボランティアを対象に自然吸気・呼気の単純CTと,深吸気・呼気の単純CTそれぞれのサブトラクション画像について,従来法とSURE Subtraction Iodine Mappingで解析し,肝臓にROIを取ってCT値を測定して平均値とSDを比較した。その結果,いずれもSURE Subtraction Iodine Mappingの方が良好な結果が得られた。
また,単純CTと平衡相で呼吸停止レベルの差が目立つ(>5mm)臨床例11例のサブトラクション画像について,従来法とSURE Subtraction Iodine Mappingの精度を比較した。サブトラクション(平衡相−単純相)のコロナル画像を用いて,2名の放射線科医が肝の輪郭のミスレジストレーション(特に肝門側),血管・胆囊の明瞭さ,全体(皮下組織など)の総合評価を5段階の定性評価で独立評価後,不一致例については合議で判定した。結果は,consensus-based scoreは従来法の2.45に対してSURE Subtraction Iodine Mappingでは4.82と高く,読影者間の一致(kappa値)も従来法の0.49に対してSURE Subtraction Iodine Mappingは0.74と良好であり,有意に正確かつ精巧にサブトラクションできることが証明された。

臨床応用1:ECV mapによる肝線維化診断

ECVは,組織全体に対する細胞外液容積比であり,肝(CT)や心筋(MRI)の線維化程度推定に用いられ,単純相と平衡相の画像があれば算出可能である。
われわれは,従来法によるサブトラクション画像を応用し,肝の広範囲でECVを測定可能なECV mapを作成し,41例に対して肝線維化判定を行ったところ,有望な結果が得られた1)。さらに,SURE Subtraction Iodine Mappingを同症例に応用し,従来法と比較した。

1.肝線維化診断の検討
対象は,さまざまな肝疾患を持つ41症例で,320列ADCT「Aquilion ONE」を用いて肝MDCTプロトコール(120kV,600mgI/kg,平衡相240秒)にて撮影し作成した従来法およびSURE Subtraction Iodine MappingのECV mapと,1か月以内に撮像したMREの肝硬変度(kPa)値,もしくは1年以内に行った病理診断のFグレード(n=18)との比較を行った。その結果,MRE(Pearson’s correlation analsys)との比較では,従来法がR2=0.56776(p<0.0001),SURE Subtraction Iodine MappingがR2=0.57815(p<0.0001)とほとんど同程度の相関であった。一方,Fグレードとの比較では,Spearman’s signed rank testにて従来法のRho=0.614(p=0.0067)に対し,SURE Subtraction Iodine MappingではRho=0.712(p=0.0009)とより強い相関が得られ,症例数は少ないものの,従来法よりも改善していることがうかがえた。ただし,MRE(kPa)の方が,SURE Subtraction Iodine Mappingとの有意差はないものの,Rho=0.782と若干値が高かった。
症例におけるECV mapの値を比較したところ,C型慢性肝炎(CPS 5,F2/A2)では,従来法は25.5%,SURE Subtraction Iodine Mappingは26.6%であったが,C型肝硬変(CPS 6,F4/A2)では,従来法は35.5%,SURE Subtraction Iodine Mappingは37.1%と圧倒的に高かった(図1)。なお,SURE Subtraction Iodine Mappingの方が,従来法よりも数値が高めに出る傾向があった。
肝線維化診断におけるSURE Subtraction Iodine MappingのECV mapに関するわれわれの予備検討結果を見ると,MREとの比較ではR2=0.57815(p<0.0001),病理との比較でもRho=0.712(p=0.0009)と良い相関が得られており,SURE Subtraction Iodine Mappingを用いることで,より良好な結果が得られると期待できる。
また,SURE Subtraction Iodine MappingのECV mapのメリットとして,通常の診断用造影CTのデータを用いてレトロスペクティブに評価可能なことや,MREやUSEと異なり原則,肝臓の全範囲で測定可能で,局所の詳細な情報が得られる点が挙げられる。一方,MREやUSEにも共通する課題としては,交絡因子が複数あり,線維化以外のうっ血性変化やDisse腔の拡張,アミロイド沈着,間質の粘液性浮腫性変化なども反映されてしまう。逆に言えば,病態がわかっている場合は,これらの情報を新たな局所情報として利用できるため,例えば腫瘍の静脈浸潤による変化などをとらえられる可能性もあると考えている。

図1 CPS 6,F4/A2のC型肝硬変(70歳代,女性)

図1 CPS 6,F4/A2のC型肝硬変(70歳代,女性)

 

2.悪性リンパ腫肝浸潤への応用
本症例は,ECV mapで43%,MREも6.9kPaと一見,肝硬変様所見を呈していた。しかし,肝生検で線維化はなく,代わってリンパ腫細胞の浸潤が確認された。PETではFDGの異常集積は見られなかったが,リンパ腫細胞が肝細胞の間,Disse腔に入り込んでそのスペースを拡大させたことがECVや肝硬度に反映されたと考えられ,非常に興味深い。図2は同症例の経過観察の画像であるが,かなり肝腫大が進んでいることが明瞭である。ECV map(図2c)にて局所的な変化と,CE Boost画像(d)にて淡い染まりが認められる。動脈優位相(図2a)では,同部位に早期濃染と低吸収域があり,リンパ腫浸潤が強い部分であると思われるが,このような局所の変化もCE Boost画像では視覚的に把握しやすくなることが,SURE Subtraction Iodine Mappingのメリットと言える。定量評価にはECV mapが,定性評価にはCE Boost画像が有用であり,臨床応用可能と考えられる。

図2 悪性リンパ腫肝浸潤の経過観察(40歳代,男性)

図2 悪性リンパ腫肝浸潤の経過観察(40歳代,男性)

 

臨床応用2:ECV map/CE Boostの膵病変への応用

症例数は少ないが,各種膵疾患にもSURE Subtraction Iodine Mappingを応用し,ECVを見ると大まかな傾向が有意差を持って得られた(図3)。そのため,病態の評価や膵がんの早期診断にも期待できる。ただし,膵臓は性状や耐糖能,脂肪浸潤などさまざまな要素が反映される可能性があるため,それらを解明してから各疾患群の比較を行う必要がある。
膵頭部管状腺癌では通常,造影CTの動脈優位相で乏血性の領域の描出を期待するが,がんが小さく,ある程度多血性である場合,ほとんど検出できないことがある。そのような症例では,腺癌の線維化を反映した平衡相での濃染を検出することがポイントになる2)。本症例にて通常の平衡相,ECV map,CE Boost画像を比較すると,CE Boost画像が視覚的には最も明瞭であった(図4)。
早期膵がんでは,がんが小さいほど早期相にて乏血性の領域が検出しづらいが,平衡相のCE Boost画像での濃染の検出が大いに役立つ可能性がある。特に,主に主膵管を閉塞させないような膵野型の小膵がんの診断への有用性が期待される。現在,各種膵/胆道系病変の病態解析に対するECV map,CE-Boost画像の臨床応用の可能性を検討中である。

図3 各種膵疾患のECV

図3 各種膵疾患のECV

 

図4 膵頭部管状腺癌(76歳,男性)

図4 膵頭部管状腺癌(76歳,男性)

 

●参考文献
1)品川喜紳:多相MDCTデータを用いた肝線維化評価;非線形位置補正サブトラクションによるECV mapの初期経験. 第52回日本肝癌研究会, O38-2, 2016.
2) Ishigami, K., Yoshimitsu, K., et al. : Diagnostic value of the delayed phase image for iso-attenuating pancreatic carcinomas in the pancreatic parenchymal phase on multidetector computed tomography. Eur. J. Radiol., 69, 139〜146, 2009.

 

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