FIRSTの物理評価 
小川 正人(産業医科大学病院放射線部)
Session 1

2016-5-25


小川 正人(産業医科大学病院放射線部)

Full IRの最新の逐次近似画像再構成技術である「FIRST」は,(1) 被ばく線量の低減,(2) 空間分解能の向上,(3) 低コントラスト検出能の向上,(4) ワークフロー性を重視した再構成速度,(5) 対象部位に合わせた最適化パラメータの適用などの特長があるが,(5) については明確な基準がないのが実情である。日本放射線技術学会発行の『X線CT撮影における標準化〜GALACTIC〜(改定第2版)』にも,逐次近似画像再構成の特性として,メーカーにより挙動が異なる,検査目的による最適化が必要と記載されており,現状では画質・画像の評価法は確立されていないと言える。
本講演では,当院にて行ったFIRSTの物理評価の概要とその結果を報告する。

検討項目・方法

汎用性のある市販のファントムや入手が容易な解析ソフトウエア(プログラム)を使用して,FIRST(Standardを使用)とFBPの評価を行った。評価項目は,(1) CT値の特性(挙動),(2) ノイズ特性(低減効果),(3) 空間分解能の特性とし,被写体形状の影響を考慮してファントムは円形のCatPhan CTP700(テストモジュールはCTP682型)(Circular)と,それに楕円形のアダプタ(Body Annuli)を取り付けたもの(Ellipse)の2種類を用いた。

検討結果

1.CT値の特性(挙動)
CircularとEllipseにて各信号(Air,PMP,Lung,Delrin,Polystyrer,Teflon,Bone20%,Bone50%,LDPE,Acrylic)とベース部のCT値を測定し,再構成法の違いがCT値に及ぼす影響を評価した。
図1は,縦軸をCT値,横軸は水を1としたときの各信号の相対電子密度として,CT値の直線性を評価した。管電圧120kVでは,CT値が−1000〜+1000のワイドレンジにおいて,各信号のCT値の直線性は担保されていた。Boneの20%と50%については,相対電子密度とCT値にほかの信号との相関がないため直線から外れている。また,管電圧を変化させる(80,100,135kV)と線質への影響が若干見られるが,FIRSTとFBPに有意差はなかった。
次に,ベース部と各信号におけるCT値の変化を評価した。線質の影響を考慮し,横軸は管電圧とした。ベース部(図2)では,管電圧120kVpにて再構成法の違いによる影響はほとんど見られなかったが,特に低管電圧にてFIRSTの方がCT値が低かった。また,FIRST,FBP共にCircularと比較してEllipseの方がCT値が低かった。ファントム外周の水等価物質,アクリル,LDPE(脂肪を模したもの)についても同様の傾向を示した。Bone50%では管電圧の上昇に伴いCT値が低下したが,FIRSTとFBPに有意差は見られなかった。Lungでは,管電圧の違いによるCT値の違いは見られず,FIRST,FBP共に有意差は認められなかった。

図1 CT値の直線性の評価(120kV)

図1 CT値の直線性の評価(120kV)

 

図2 再構成の違いによるCT値の変化の比較(ベース部)

図2 再構成の違いによるCT値の変化の比較(ベース部)

 

2.ノイズ特性(低減効果)
CatPhan CTP700のCircularとEllipseにおいて,ベース部とファントム外周の水等価物質にROIを設定し,ノイズ(SD)を測定した。
図3は,横軸を管電流,縦軸をSDとし,ノイズ量を評価した。FBPと比較し,FIRSTでは低mAsでもSDが抑制されている。また,被写体形状の影響が大きく,CircularよりもEllipseの方がノイズが大きく低減されていた。EllipseではAP方向とLR方向でのノイズ分散の差異によって生じるストリークアーチファクトがあるが,それに対する低減効果,もしくは低線量で発生するノイズの低減効果においてはFIRSTの方が優位であることがわかった。
図4は,図3の結果を式(1)に当てはめて計算し,両対数グラフで表したものである。CircularではFBPは線形を示し,FIRSTも若干揺らぎはあるものの線形に近似された。FBPとFIRSTのグラフは260mAsで交差することから,260mAs以下ではFIRSTの有効性が大きいと言える。また,Circularよりも形状の大きいEllipseでは交点940mAsとなり,FIRSTの有効性がより大きいことがわかる。この結果は,使用するファントムの大きさや楕円率の違いなどにより変化する可能性があるが,いずれにしても限定された条件下では直線形が示されているため,式(2)に示すようにkファクタを作ることが可能になれば,今後の評価につながっていくと思われる。
また,同一SDにおけるCNRの比較を行ったところ,FBPとFIRSTのCNRはほぼ同等であり,しかも同一SDでの線量はFIRSTの方がはるかに少ない(図4)ことから,FIRSTの方が優位であることが示唆されている。

図3 画像処理とノイズ量の評価

図3 画像処理とノイズ量の評価

 

図4 図3の両対数グラフ表示

図4 図3の両対数グラフ表示

 

3.空間分解能の特性
CatPhan CTP700のアクリル,Bone50%,LDPE,Lungの4信号について,管電圧120kVでのMTFを日本CT技術学会のCT画像計測プログラム“CTmeasure”を用いてCircular Edge法にて測定した。
高コントラスト域のMTFをBone50%(コントラスト差:630HU)で比較したところ(図5),過度に高周波強調したFC30を除くとFBPよりもFIRSTの方が良好であり,また,FIRSTのBodyとLungに大きな差は見られなかった。被写体形状の影響を見ると,Ellipseの方がMTFが劣化していた。同じく高コントラスト域のLung(コントラスト差:−860HU)も同様の結果であった。
一方,低コントラスト域をアクリル(コントラスト差:70HU)で比較したところ,図5と同様の傾向を示したが,FIRSTのBodyとLungの差は明瞭となった(図6)。同じく低コントラスト域のLDPE(コントラスト差:150HU)も同様の結果であった。
次に,アクリルを用いて管電圧の影響を比較したところ,FBPでは影響はほとんど見られなかったが,FIRSTでは管電圧が高いほどMTFが良好であった。
さらに,空間分解能の特性をAIDR 3Dも加えて評価した。低コントラスト域のアクリルを用いてFBP FC14,AIDR 3D Standard(STD),FIRST BodyのMTFを比較したところ,FIRST Body が最も良好であり,FBP FC14とAIDR 3D STDは同等であった。高コントラスト域のBone50%でもFIRST Bodyが最も良好であり,続いてFBP FC14がAIDR 3D STDよりもわずかに良好であった(図7)。

図5 高コントラスト域(Bone50%)でのMTFの評価

図5 高コントラスト域(Bone50%)でのMTFの評価

 

図6 低コントラスト域(アクリル)でのMTFの評価

図6 低コントラスト域(アクリル)でのMTFの評価

 

図7 高コントラスト域(Bone50%)でのFBP,AIDR 3D,FIRSTのMTFの評価

図7 高コントラスト域(Bone50%)でのFBP,AIDR 3D,FIRSTのMTFの評価

 

まとめ

CT値の特性は,120〜135kVにおいてFIRSTとFBPに有意差は見られなかった。
ノイズ特性は,線量との相関はあるものの,FBPと比較してFIRSTでは若干揺らぎが見られた。なお,同一SDの画像ではCNRに有意差は見られなかった。
空間分解能の特性では,過度の高周波強調を付したFBP FC30を除くと,すべてにおいてFIRSTの方が優位であった。
FIRSTとFBP共に被写体形状による影響が見られ,CT値の変化やEllipseでのMTFの劣化が見られた。
今回の検討では,FIRSTはFBPに比べて空間分解能の大幅な向上とノイズ低減によるSNRの向上,ならびに撮影(被ばく)線量の低減が可能であることが明確となった。しかしながら,被写体サイズ,形状,対象部位,疾患,検査目的に応じたプロトコルの適正化が必要であり,今後の課題と思われる。

 

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