逐次近似画像再構成FIRST のCapability─CTのさらなる高画質化・低線量化に向けて 
粟井 和夫(広島大学大学院 医歯薬保健学研究院 放射線診断学研究室)
Session 2

2015-12-25


粟井 和夫(広島大学大学院 医歯薬保健学研究院 放射線診断学研究室)

当院では,2012年4月より320列ADCT「Aquilion ONE」が稼働し,翌年9月の新中央診療棟開院を機に2台目の「Aquilion ONE/ViSION Edition」も稼働を開始した。そして,2014年1月より東芝メディカルシステムズとのFull IRの臨床応用に関する共同研究に着手し,同年12月にreconstructorを設置して本格的に臨床研究を開始した。次世代の逐次近似画像再構成技術であるFull IRは,Forward projected model-based Iterative Reconstruction SoluTionから「FIRST」と名付けられている。
本講演では当院での共同研究におけるFIRSTの臨床的特徴,部位別のFIRST画像の提示,現時点での課題について述べる。

FIRSTの臨床的特徴

1.画像の精度向上
FIRSTでは,空間分解能の向上,ストリークアーチファクトや画像ノイズの著明な低減,高吸収体周囲のアンダーシュートの低減などにより,従来よりも精度の高い画像が得られるようになった。
空間分解能については,櫛状ファントムによる検討から,FBP,AIDR 3Dと比べてFIRSTは高い分解能を有していることがわかる(図1)。空間分解能が向上することでパーシャルボリューム効果の影響が軽減し,CT値の精度も向上すると考えられる。また,FIRSTでは統計学的ノイズモデルを用いており,重み付けによる再構成データの選択によりノイズの多いデータを除外することで,ストリークアーチファクトの大幅な低減が可能になった(図2)。さらに,FIRSTでは再構成関数を用いないため,高吸収体周囲のアンダーシュートが原理的に発生しない。

図1 櫛状ファントムによる空間分解能の検討

図1 櫛状ファントムによる空間分解能の検討

 

図2 ストリークアーチファクトの減少

図2 ストリークアーチファクトの減少

 

2.臓器・部位に合わせた画像最適化
FIRSTでは再構成関数という概念は存在しないことから,収束パラメータを変化させて高分解能とノイズ低減のバランスを調整し,臓器や部位に合わせた最適画像を作成する。FIRSTでは骨や肺では空間分解能が高く,肝臓ではより平滑化されるなど,部位に適した画像を得ることができる。

3.被ばく線量低減の可能性
FIRSTは被ばく低減効果も高く,肺では従来の1/3〜1/4の線量をルーチン線量にでき,肺がん検診は超低線量(0.2mSv程度)で行える可能性があると考えている。肝臓や頭部などの低コントラスト領域でも,1/2程度まで線量を低減できると期待される。
肺がんCT検診用の画像についてFBPとFIRSTを比較したところ,FIRSTの低線量(2mSv)画像の方がFBPの通常線量(8mSv)画像よりもノイズが少ない印象を受けた。CT検診では6mm以上の結節の検出が重要であることを考えると,超低線量(0.2mSv)でも十分に期待が持てる。
肝臓を対象とした検討では,通常の50%線量でダイナミックCTを撮影したところ,FBP,AIDR 3Dに比べFIRSTではテクスチャが保たれていた。一方,肝臓ファントムにおける多血性腫瘍の検出実験では,FIRSTを使用しても従来の30%程度の低線量では検出能が低下するという結果となった。

部位別のFIRST画像

臓器や部位に合わせて画像の最適化が行われるFIRSTについて,臨床画像を提示する(図3〜9)。

1.心血管
冠動脈CTAでは,AIDR 3DよりもFIRSTの方が石灰化や壁在血栓が明瞭に描出される(図3)。そして,驚くべきはステントの分解能で,FIRSTのCardiac Sharpで再構成を行うと,ストラットまで分離して描出される(図4)。頸動脈ステントの3D画像では,ステントのメッシュ構造まで観察することができる(図5)。

図3 冠動脈CTA

図3 冠動脈CTA

 

図4 冠動脈CTA(ステント)

図4 冠動脈CTA(ステント)

 

図5 頸動脈ステントの3D画像

図5 頸動脈ステントの3D画像

 

2.肺
前述の通り,FIRSTでは肺がん検診用の低線量(2mSv)撮影でも,ノイズが少ない非常に明瞭な画像を得られる。超低線量(0.2mSv)撮影の場合,FBPでは肺尖部はノイズが多く評価できないが,FIRSTでは非常に淡いすりガラス状陰影も明瞭に描出できる(図6)。

図6 肺がん検診用超低線量胸部CT(0.2mSv)

図6 肺がん検診用超低線量胸部CT(0.2mSv)

 

3.骨格系
股関節CTは,FBPと比べるとAIDR 3Dでも大幅にノイズが低減されているが,FIRSTではさらにノイズが低減され,骨梁構造も描出できている(図7)。また,ストリークアーチファクトが強く出やすい肩口の頸椎CTでも,FIRSTではアーチファクトが抑制できている(図8)。

図7 股関節CT

図7 股関節CT

 

図8 頸椎CT

図8 頸椎CT

4.腹部
肝臓ダイナミックCTについては,FIRSTを用いることで50%程度の線量低減が可能と考えている。また,小骨盤付近はストリークアーチファクトやノイズが発生しやすい部位であるが,FIRSTではそれらがほぼ除去できる(図9)。

図9 骨盤部CT(通常線量)

図9 骨盤部CT(通常線量)

 

FIRSTの現時点での課題

現時点では,FIRSTにはいくつかの課題がある。1つは低コントラスト分解能の向上で,肝腫瘍や急性期脳梗塞の描出能の改善である。これについては東芝のCT開発チームもよく認識しており,早晩,改良が加えられるであろう。もう1つは演算時間の短縮で,現在は320スライスで3分ほどの時間を要しており,すべての症例をFIRSTで画像再構成することは現実的でない。ただ,演算自体は非常に安定しており,演算が収束せず画像再構成ができないというようなことはない。必要に応じてFIRST再構成を追加するとよいだろう。
また,FIRSTを使っていく上でのユーザー側の課題もある。われわれは,CNRやノイズなどの単純な物理指標を用いて診断能を評価するが,実際には,CNRやノイズと病変の検出能は相関せず,CNRのみで線量低減率を決めることはできない。FIRSTのような非線形画像をどのように臨床評価していくかが,放射線診断医や診療放射線技師,医学物理士にとっての課題であろう。

まとめ

FIRSTでは,空間分解能が高く,アーチファクトの少ない画像を得ることができる。特に,肺野,心臓領域,ステントの描出などでは,従来のFBPよりも圧倒的に画質が良い。ただし,低コントラスト分解能の向上,演算時間の短縮など,いくつかの課題が残っており,さらなる技術の進歩が期待される。

 

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