セミナーレポート(東芝メディカルシステムズ)

日本超音波医学会第90回学術集会が,2017年5月26日(金)〜28日(日)の3日間,栃木県総合文化センター(栃木県宇都宮市)などを会場に開催された。26日に行われた東芝メディカルシステムズ株式会社共催ランチョンセミナー1では,国際医療福祉大学病院教授/山王病院がん局所療法センター センター長の森安史典氏が座長を務め,東京医科大学消化器内科講師の杉本勝俊氏と兵庫県立医科大学超音波センター センター長/内科・肝胆膵科教授の飯島尋子氏が,「肝疾患を粘性と減衰で診る」をテーマに講演を行った。

2017年8月号

日本超音波医学会第90回学術集会ランチョンセミナー1 肝疾患を粘性と減衰で診る

肝臓の粘性とDispersion Imaging

杉本 勝俊(東京医科大学 消化器内科)

本講演では,東芝メディカルシステムズ社の新しいイメージング技術である“Dispersion Imaging”について,Dispersion Imagingの理論,動物実験による基礎的な検討,さらには,まだ予備検討の段階ではあるが,臨床的な検討結果を報告する。

Dispersion Imagingの理論

Shear Wave speed(Shear Wave velocity)は,粘性と弾性の2つの要素により影響を受けると言われている。粘性とは,ドアダンパーのように急に押しても動かないが,弱く持続的に押すと動くという状態のことで,viscosity(Pa・s)で表される。また,弾性とは,バネを押した時に伸び縮みする状態のことで,elasticity(kPa)で表される。
生体のような粘弾性体の場合,Shear Wave speedは周波数の分散性(Dispersion)を有しており,Shear Waveの周波数に依存すると言われている。このため,完全弾性体の場合,Shear Wave speedはShear Waveの周波数によらず一定であるが,粘弾性体の場合はShear Waveの周波数によってShear Wave speedが変化するという性質がある。
また,レオロジー力学モデルでは,粘弾性体をバネとダンパーから成るモデルで表すことができ,バネとダンパーを直列につなぐMaxwellモデルや,並列につなぐVoigtモデルがよく使用される。そこで,現状の超音波Elastographyにおける弾性率(kPa)の求め方をVoigtモデルを例に表すと,図1のようになる。現在の超音波診断装置では粘性率を無視しているため,ずり粘性率に0を代入し,ずり弾性率μとヤング率Eの関係から,最終的にはヤング率E(kPa)に変換して出力されることになる。

図1 現状の超音波Elastographyにおける弾性率(kPa)の求め方

図1 現状の超音波Elastographyにおける弾性率(kPa)の求め方

 

そこで,前述のVoigtモデルに実際の値を代入してずり弾性率によるグラフの変化を見ると,粘性率が0の場合,Shear Wave speedは周波数によらず一定であるが,粘性率を段階的に上げていくと,傾きも段階的に大きくなる(図2)。つまり,粘性率とグラフの傾きには,正の相関があると考えられる。
東芝メディカルシステムズ社の新しいイメージング技術であるDispersion Imagingは,この傾きを画像化したもので,横波の周波数が変化した時のShear Wave speedの変化の大きさを表しており,粘性(係数)自体を直接求めているわけではないことに注意が必要である。なお,Dispersion Imagingではモデルを用いて粘性率を計測しているわけではないが,粘性と関連のあるパラメータを直接計測することで実際の物理量を求めていることが,本法の利点と考えられる。

図2 ずり粘弾性率によるグラフの変化

図2 ずり粘弾性率によるグラフの変化

 

Dispersion Imagingを用いた動物実験による基礎的な検討1─急性肝障害・肝線維化モデル

1.対象と方法
5週齢のSDラット25匹をG0(コントロール群),G1(四塩化炭素を週2回,隔日投与した群),G2(四塩化炭素を週4日,連日投与した群),G3(四塩化炭素を週2回を6週間継続した群),G4(四塩化炭素を週2回を10週間投与した群)とし,G1とG2は急性肝炎モデル,G3とG4は肝線維化モデルとした。
図3は,Shear Wave ElastographyによるDispersion Imagingの実際の画面で,aは通常の伝播速度(m/s,kPa),bは等高線表示(Propagation),cはBモード,dはDispersion slopeをイメージングしたDispersion Imaging(m/s/kHz)である。

図3 Shear Wave ElastographyによるDispersion Imagingの実際の画面

図3 Shear Wave ElastographyによるDispersion Imagingの実際の画面

 

2.結 果
図4に,横軸をShear Wave speed,縦軸をDispersion slopeとして,G0〜G4のモデルをプロットしたグラフを示す。G0のコントロール群()はShear Wave speed,Dispersion slope共に低いが,急性肝炎モデル()はShear Wave speedに比してDispersion slopeの方がやや高い傾向があり,肝線維化モデル()はShear Wave speedが速い傾向があった。また,各ラット群におけるShear Wave speedは,G0からG4にいくに従って段階的に上昇する傾向にあり,各群間に統計学的有意差が認められた。一方,Dispersion slopeは段階的に上昇する傾向はなく,G2のみ統計学的に突出して高い傾向が見られた。
病理組織所見を見ると,G0では正常な小葉構造と肝細胞が認められるが,G1では風船状に膨化した障害された肝細胞と脂肪滴および炎症細胞浸潤が認められ,G2ではその程度がさらに強くなった。一方,G3では膨化した障害肝細胞は認められるものの,G2よりも減少しており,代わりに小葉内に線維の増生が認められた。

図4 検討1:Shear Wave speedとDispersion slopeの関係

図4 検討1:Shear Wave speedとDispersion slopeの関係

 

3.検討1のまとめ
肝障害モデルのDispersion Imagingにて,粘性と粘弾性の評価が可能であった。急性肝炎モデルでは粘弾性よりも粘性が有意に上昇しており,肝線維化モデルでは粘性よりも粘弾性が有意に上昇していた。また,上記所見を裏づけるような病理組織所見も得られた。すなわち,弾性は主に肝線維化所見を反映し,粘性は主に肝細胞の壊死・炎症所見を反映していることが示唆された。

Dispersion Imagingを用いた動物実験による基礎的な検討2─単純性脂肪肝モデル

1.対象と方法
5週齢のSDラット20匹を,G0(通常食群),G1(高脂肪食を4週間経口投与した群),G2(同じく8週間投与した群),G3(同じく12週間投与した群)に分けて検討した。

2.結 果
検討1と同様に,Shear Wave speedとDispersion slopeの関係を見ると,負の相関関係が認められた(図5)。
また,各ラット群におけるShear Wave speedについては,各群間に統計学的有意差は見られないものの,G0からG3に進むに従いShear Wave speedが遅くなる傾向が見られた。一方,Dispersion slopeを見ると,検討1と異なり,G0からG3に進むに従い,つまり脂肪化の程度が上昇するにつれて,Dispersion slopeが大きくなる傾向が見られた(図6)。
病理組織所見を見ると,G1はわずかな脂肪沈着が見られるものの,炎症細胞の浸潤や線維化は認められなかった。G2はG1よりも脂肪滴が増えているが,この時点でも線維化や明らかな炎症所見はなかった。G3になると,脂肪滴は著明になるが,この時点においても線維化や炎症細胞浸潤は認められなかった。

図5 検討2:Shear Wave speedとDispersion slopeの関係

図5 検討2:Shear Wave speedとDispersion slopeの関係

 

図6 検討2:各ラット群におけるDispersion slope

図6 検討2:各ラット群におけるDispersion slope

 

3.検討2のまとめ
Shear Wave speedとDispersion slopeの間には負の相関関係を認めた。また,脂肪肝の増加の程度につれて,Shear Wave speedは低下する傾向があり,一方,Dispersion slopeは統計学的有意に上昇しており,上記の所見を裏づける病理組織所見も得られた。以上より,肝脂肪沈着は,主に弾性を減少させ,粘性を増大させる可能性が示唆された。

臨床的検討

さらに,まだ初期段階ではあるが,臨床的検討について報告する。

1.対 象
対象は,正常肝(健常コントロール群),単純性脂肪肝(NAFLD),非アルコール性脂肪肝炎(NASH),慢性肝炎(B型,C型,アルコール),肝硬変(B型,C型,アルコール),急性肝炎である。

2.結 果
上記の症例について,Shear Wave speedとDispersion slopeの関係をプロットしたところ,一見,動物実験ほどにはまとまりを持った分布ではないように思われたが,各群を線で囲むと,ある程度のまとまりが見られた(図7)。さらに,NASHはかなり急な勾配の直線上に分布し,肝硬変はNASHよりも緩やかな勾配の直線上に分布していた。つまり,NASHはShear Wave speedに比べてDispersion slopeの方が比較的高く,一方,肝硬変はDispersion slopeはそれほど高くないが,Shear Wave speedは高いと考えられる。ただし,これについてはさらなる検討が必要である。

図7 臨床的検討におけるShear Wave speedとDispersion slopeの関係

図7 臨床的検討におけるShear Wave speedとDispersion slopeの関係

 

3.症例提示
症例1(図8)は正常肝で,弾性率は3.8kPa,Dispersion slopeは7.25m/s/kHzであった。

図8 症例1:正常肝の弾性率とDispersion slope Plt 30.9万,AST 19,ALT 13,T-Bil 0.40

図8 症例1:正常肝の弾性率とDispersion slope
Plt 30.9万,AST 19,ALT 13,T-Bil 0.40

 

症例2(図9)はNASH症例で,脂肪肝が比較的進行している。弾性率は6.1kPaと若干上がるが,この程度であれば正常範囲である。それに比して,Dispersion slopeは12.9m/s/kHzと上昇傾向が見られた。

図9 症例2:NASH症例の弾性率とDispersion slope Plt 24.8万,AST 78,ALT 172,T-Bil 0.42

図9 症例2:NASH症例の弾性率とDispersion slope
Plt 24.8万,AST 78,ALT 172,T-Bil 0.42

 

症例3(図10)は急性A型肝炎症例で,血液検査の結果,ASTが6760U/L,ALTが7698 U/Lと高値である。弾性率は8.1kPaとわずかに上昇し,一方,Dispersion slopeは14.72m/s/kHzと著明に上昇していた。

図10 症例3:急性A型肝炎症例の弾性率とDispersion slope Plt 13.4万,AST 6760,ALT 7698,T-Bil 4.59

図10 症例3:急性A型肝炎症例の弾性率とDispersion slope
Plt 13.4万,AST 6760,ALT 7698,T-Bil 4.59

 

症例4(図11)はNASH肝硬変(NASH LC)症例で,脂肪肝もあまり見られず,弾性率は11.6kPaとそれほど高くないが,Dispersion slopeは19.96m/s/kHzと,粘性がきわめて高いことが示唆された。

図11 症例4:NASH LC症例の弾性率とDispersion slope Plt 4.6万,AST 48,ALT 49,T-Bil 1.10

図11 症例4:NASH LC症例の弾性率とDispersion slope
Plt 4.6万,AST 48,ALT 49,T-Bil 1.10

 

症例5(図12)はC型肝硬変症例で,弾性率は37.1kPaと非常に硬いが,Dispersion slopeは16.19m/s/kHzと,それほど上昇していなかった。
改めてNASH LC症例(図11)とC型肝硬変症例(図12)を比較すると,C型肝硬変症例では弾性率が非常に高値であるが,それに比してDispersion slopeはあまり高くない。一方,NASH LC症例は,弾性率はそれほど高くないが,Dispersion slopeは非常に高い。今後は,なぜこのようなことになるのかを,病理組織所見と併せて解明していくことが必要と考えられる。

図12 症例5:C型肝硬変症例の弾性率とDispersion slope Plt 11.3万,AST 85,ALT 62,T-Bil 0.94

図12 症例5:C型肝硬変症例の弾性率とDispersion slope
Plt 11.3万,AST 85,ALT 62,T-Bil 0.94

 

まとめ

上記の検討から,弾性は主に肝臓の線維化を反映し,粘性は主に壊死,炎症,脂肪沈着を反映していると考察される。すなわち,東芝メディカルシステムズ社が新たに開発したDispersion Imagingは,従来のVisco-elasticity Imagingとは異なる,粘性のみを評価できる新しいイメージング技術であり,今後,臨床において肝臓の病態を評価する上で有用である可能性が示唆された。

 

杉本 勝俊

杉本 勝俊(Sugimoto Katsutoshi)
2000年 東京医科大学卒業。2006年 同大学消化器内科助教。2008〜2009年 シカゴ大学放射線科に留学。2015年~東京医科大学消化器内科講師。

 

 

 

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