セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

第74回日本医学放射線学会総会が4月16日(木)〜19日(日)の4日間,パシフィコ横浜(横浜市)にて開催された。17日に行われた東芝メディカルシステムズ株式会社共催のランチョンセミナー4では,神戸大学大学院医学研究科内科系講座放射線医学分野教授の杉村和朗氏を座長に,藤田保健衛生大学医学部放射線医学教室講師の村山和宏氏と神戸大学大学院医学研究科先端生体医用画像研究センターセンター長/内科系講座放射線医学分野機能・画像診断学部門部門長・特命教授の大野良治氏が,「最先端3T MRIによる臨床応用」をテーマに講演した。

2015年7月号

第74回日本医学放射線学会総会 ランチョンセミナー4 最先端3T MRIによる臨床応用

Vantage Titan™ 3Tによる最新脳神経画像

村山 和宏(藤田保健衛生大学医学部放射線医学教室)

当院で東芝メディカルシステムズ社製「Vantage Titan 3T」が稼働を開始して,約2年が経過した。本講演では,臨床での限られた時間内での検査や治療に役立つ3Tの利点を生かした撮像について,特に(1) 当院に導入された最新の傾斜磁場システム“Saturn Gradient Option”の使用経験,(2) dynamic contrast enhanced MRI(DCE-MRI)を用いた脳腫瘍の鑑別,(3) Time-SLIP(Time-spatial Labeling Inversion Pulse)法を用いた脳脊髄動態評価を中心に,臨床画像を提示しながら述べる。

Saturn Gradient Optionの使用経験

Saturn Gradient Option(Saturn Gradient)は,2014年に販売開始された最新オプションで,3T MRIの画質,撮像時間,自由度など,すべての機能を引き上げる新型の傾斜磁場システムである。最大傾斜磁場強度(Gmax)が30 mT/mから45mT/mに向上したほか,傾斜磁場コイルの硬度は従来の2.3倍,傾斜磁場の冷却機能は従来の2倍となっている。これにより,高分解能撮像時の振動が抑制されて画像のブレが減少し,より高精細画像が得られることに加え,シム温度の上昇に伴う中心周波数シフトの抑制が可能となり,DWIの歪みが軽減される。

1.頭部領域の症例提示
症例1(図1)は,急性期脳梗塞症例である。通常のDWIと比較し,Saturn Gradient導入後では,DWIにて左MCA領域の白質深部の病変や灰白質の微小な病変が一つひとつ明瞭に描出されている。DWIの歪みが抑制され,皮質の構造も明瞭であり,こうした画像がルーチンで得られることに大変満足している。

図1 症例1:急性期脳梗塞症例(70歳代,男性)

図1 症例1:急性期脳梗塞症例(70歳代,男性)

 

症例2(図2)は,多発脳転移症例である。造影T1WI-MPVは,腫瘍と脳実質のコントラストが高く,血管の信号が抑制されるため,基底核や前頭弁蓋部などの微小な増強効果も容易に検出できる。多発性病変では新規病変の検出や過去画像との比較が容易となり,臨床的有用性がきわめて高い。また,グラディエントエコー法との比較では,上記の利点に加え,磁化率効果に伴う画像の歪みや血管拍動によるアーチファクトが抑制されることがメリットとして挙げられる。ただし,転移と偽病変(残った血管の信号)との鑑別には注意が必要である。

図2 症例2:多発脳転移症例(70歳代,男性)

図2 症例2:多発脳転移症例(70歳代,男性)

 

DCE-MRIを用いた脳腫瘍の鑑別

脳腫瘍では一般的に,血管障害により造影剤の初回循環時において腫瘍血管外に造影剤が漏出するため,それを考慮して血管内造影剤濃度変化の補正が必要となる。DCE-MRIは,連続的にMRIを撮像しながら造影剤を投与して組織内での移行性を検討する手法で,permeability(Ktrans)をパラメータとした評価における有用性が多数報告されている。例えば,CT perfusionによるgliomaの良悪性鑑別では,CBF,CBVと比較して,感度,特異度,陽性適中率,陰性適中率のいずれもKtransの方が優れていたとの報告もある。
今回のわれわれの検討では,東芝メディカルシステムズ社製ワークステーション「Vitrea」と,解析ソフトウエア“Olea”を使用し,primary central nervous system lymphoma(PCNSL),high grade glioma(HGG),low grade glioma(LGG),metastasesについて,DCE-MRIとDSC-MRIを用いて組織型および悪性度の鑑別を行った。解析にはextended Tof’s modelを用いた。

1.症例提示:glioma
症例3(図3)は,LGG(グレード2)である。右側頭葉に高信号に造影される領域が認められ,術前診断では一部HGGが疑われたが,Ktransは低値でありLGGを示唆していた。

図3 症例3:LGG(グレード2)(70歳代,男性)

図3 症例3:LGG(グレード2)(70歳代,男性)

 

症例4(図4)は,glioblastoma(グレード4)である。非常に高い造影効果が認められ,Ktransは一部軽度高値,壊死部は低値であり,veはきわめて高値である。

図4 症例4:glioblastoma(グレード4)(80歳代,女性)

図4 症例4:glioblastoma(グレード4)(80歳代,女性)

 

2.症例提示:PCNSL
症例5(図5)は,Ktransとveは高値,CBVは低値であった。PCNSLは複数の症例で同様の傾向を示し,これがPCNSLのパターンであると思われる。

図5 症例5:PCNSL(60歳代,女性)

図5 症例5:PCNSL(60歳代,女性)

 

3.DCE-MRI,DSC-MRIの解析結果
DCE-MRIとDSC-MRIでは,KtransとveについてはPCNSLで最も高く,HGG,LGGの順で低くなり,metastases(非提示)では壊死の状態や腫瘍性状によってパラメータのバラツキが大きかった。CBVは有用であるが,オーバーラップもかなり多いと思われた。症例数が少なく,解析装置や造影条件の違いによっても結果が異なる可能性があるので,今後さらなる検討が必要である。
DCE-MRIとDSC-MRIは,gliomaの悪性度分類や,PCNSLとgliomaの鑑別に有用との報告があるほか,DCE-MRIはDSC-MRIと比較し磁化率アーチファクトの影響を受けづらいため,頭蓋底部や出血を伴う病変への応用が期待される。

Time-SLIP法を用いた脳脊髄動態評価

Time-SLIP法は,髄液をラベリングすることで脳脊髄液(CSF)の動態評価(機能評価)が可能で,任意の場所にタグを設定することで,CSFの流入と流出の状況を画像化することができる。当院では現在,東芝メディカルシステムズ社が開発中のMulti-TagによるTime-SLIP法の検討を行っている。Time-SLIP法はPC法と比較して評価できる範囲が狭いが,Multi-Tagでは2か所にタグを置くと2か所にラベリングされるため,より広範囲のCSFの動態評価が可能である。このため,Multi-Tagは,キアリ奇形の治療効果判定(図6)や,CSFの交通の有無を見ることで囊胞性腫瘤との鑑別診断が可能であるなど,複雑なCSF flowの可視化には特に有用である。

図6 症例6:キアリ奇形症例(40歳代,女性)

図6 症例6:キアリ奇形症例(40歳代,女性)

 

村山 和宏

村山 和宏(Murayama Kazuhiro)
2003年 藤田保健衛生大学医学部医学科卒業。同年 藤田保健衛生大学病院研修医。2008年 藤田保健衛生大学医学部放射線医学教室助教。2009年 藤田保健衛生大学大学院医学研究科終了。2010年より藤田保健衛生大学医学部放射線医学教室講師。

 

 

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