セミナーレポート(キヤノンメディカルシステムズ)

第73回日本医学放射線学会総会が2014年4月10〜13日の4日間にわたって,パシフィコ横浜(横浜市)で開催された。3日目の4月12日(土)に行われた,東芝メディカルシステムズ(株)共催のランチョンセミナー11では,慶應義塾大学医学部放射線科学教室の栗林幸夫氏が座長を務め,独立行政法人 国立がん研究センター東病院放射線診断科の久野博文氏,岩手医科大学放射線医学講座の田中良一氏,広島大学大学院医歯薬保健学研究院/研究科放射線診断学研究室の立神史稔氏の3名が,「第二世代面検出器CTの最新臨床応用」をテーマに講演を行った。

2014年7月号

第73回日本医学放射線学会総会 ランチョンセミナー11 第二世代面検出器CTの最新臨床応用

Full Iterative Reconstruction optimized for Specific Organs:開発と臨床応用

立神 史稔(広島大学病院放射線診断科)

立神史稔 氏

立神史稔 氏

逐次近似再構成法が近年注目され,被ばく低減に貢献している。東芝メディカルシステムズ社では,独自の逐次近似応用再構成法である「AIDR 3D」をすべてのCT機種に標準搭載している。AIDR 3Dは,従来のFBP法を併用するHybrid IRであり,FBP上で統計学的ノイズモデルなどを組み合わせ,繰り返し処理を行うことでアーチファクトやノイズを低減する。再構成時間はFBP法とほぼ同等である。本講演では,現在同社が開発を進めている真の意味での逐次近似再構成法である「Full Iterative Reconstruction(Full IR)」を紹介する。Full IR は,Hybrid IRでは適用できなかった各種モデルが適用可能であり,大幅な被ばく低減に加え,分解能の向上が期待できる。

Hybrid IRの特徴と課題

現在使用しているHybrid IR(AIDR 3D)は,まずスキャナーモデルと統計学的ノイズモデルを組み合わせて投影データからストリークアーチファクトを除去し,その後,FBP法で画像再構成を行い,画像上でノイズ除去を繰り返し行うという2段階のノイズ低減処理を実施する。Hybrid IR(AIDR 3D)を用いたこれまでの報告では,22〜64%の被ばく低減が可能とされている。特に,肺野や血管系などの高コントラスト領域において高いノイズ低減効果が得られている。一方,軟部組織などの低コントラスト領域については,さらなる空間分解能の向上や被ばく低減へのアプローチが望まれる。このようなHybrid IRの課題を改善する手法として期待されているのが,Full IRである。

Full IRの初期検討

●Full IRの原理

Full IRは,オリジナルの投影データと初期値から作成した投影データの差異を比較し,さまざまなモデルを用いて正しいと判断されるデータのみを画像に反映していく。かつ,隣合う画像ボクセルのCT値変化や傾きを比較し,ノイズのみを効果的に除去する。前者は主に,アーチファクトの低減や空間分解能の向上,後者はノイズ低減や低コントラスト分解能の向上に寄与する。両方の画像を組み合わせて3D volume dataを作成し,同様の処理を何度も繰り返し実施する。当院では,320列ADCT「Aquilion ONE/ViSION Edition」を用いて,Full IRの初期検討を行った。

●ファントムによる検討

1)高コントラスト分解能

Catphan(高コントラストモジュール)を用いて高コントラスト分解能の評価を行った(図1)。AIDR 3Dの高コントラスト分解能はFBPとほぼ同等であり,Full IRでは各種モデルの適用によって高コントラスト分解能が向上していることがわかる。また,FBPとAIDR 3Dでは,高周波強調関数でオブジェクト周辺にアンダーシュートが発生しているが,Full IRでは認められない(図2)。

図1 高コントラストモジュール 120kV,200mA

図1 高コントラストモジュール
120kV,200mA

 

図2 高コントラストモジュール 120kV,200mA

図2 高コントラストモジュール
120kV,200mA

 

2)低コントラスト分解能

Catphan(低コントラストモジュール)を200mAと50mAで撮影し評価した(図3)。200mA(図3上段)では,FBPからAIDR 3D,Full IRとなるに従って画像のノイズが低減していることがわかる。特にFull IRでは,ファントム内のオブジェクトの構造が明瞭に観察できる。50mA(図3下段)では,AIDR 3Dの画像ノイズは低減しているが,コントラスト分解能が向上したとは必ずしも言えない。Full IRでは,200mAより画質は落ちるが,細かなモジュールの構造も認識可能である。
Full IRは,高コントラスト分解能,低コントラスト分解能ともに向上することが確認された。

図3 低コントラストモジュール

図3 低コントラストモジュール

 

●伸展固定肺

伸展固定肺を胸部ファントム(京都科学社製LUNGMAN)内に封入し,隙間を緩衝剤で満たした後,外側に付属品のチェストプレートを装着して50mAsで撮影した(図4)。SD値を測定したところ,FBPでは124.0,AIDR 3Dでは100.8, Full IRでは60.7であった。それぞれ画像を拡大すると,Full IRでは気管の辺縁や緩衝液部分のノイズが格段に低下していることがわかる。

図4 伸展固定肺 120kV,50mAs

図4 伸展固定肺
120kV,50mAs

 

●臨床症例

図5は,肺野を1.08mSvで撮影した画像である。SD値は,FBPでは63.1, AIDR 3Dでは25.7,Full IRでは6.4で,Full IRはFBPのほぼ1/10まで低減している。それぞれの画像を拡大すると,AIDR 3Dに比べFull IRではノイズが大幅に低減していることがわかる。また,Full IRでは細い血管の構造や境界がかなり明瞭に観察できる。
さらに,図5の1/4の線量である0.27mSvでの検討も行った(図6)。FBPでは135.6だったSD値は,Full IRでは8.4にまで低減した。図5の画像と比べると画質は若干落ちるものの,AIDR 3Dではノイズに埋もれてわかりにくかった細かい血管構造まで,Full IRでは描出されている。
図6に対し,5mm厚で再構成を行った縦隔条件の画像では,SD値はFBPの26.6からFull IRでは6.5まで低減しており,大幅な画質の向上も得られている(図7)。まだ改善すべき点はあるものの,将来的にはこのような超低線量での撮影をめざしていくべきと考える。
図8は,1.1mSvで撮影した肝実質の画像である。肝細胞がんが多発しており,淡い低吸収の結節が見られる。FBPやAIDR 3Dではノイズに埋もれてわかりにくいが,Full IRでは結節(←)がはっきりと描出されているほか,小さな石灰化(◀)なども境界が明瞭に描出されている。
軟部組織におけるノイズ低減率について,肝実質2か所と筋肉にROIを設定して測定したところ,AIDR 3Dでは33〜55%程度のノイズ低減率であったが,Full IRでは78〜84%と,より大きなノイズ低減効果が得られた。

図5 肺野(1.08mSv) 120kV,20mAs,2mm

図5 肺野(1.08mSv)
120kV,20mAs,2mm

 

図6 肺野(0.27mSv) 120kV,5mAs,2mm

図6 肺野(0.27mSv)
120kV,5mAs,2mm

 

図7 図5の縦隔条件(0.27mSv) 120kV,5mAs,5mm

図7 図5の縦隔条件(0.27mSv)
120kV,5mAs,5mm

 

図8 肝実質(1.1mSv) 80kV,135mAs,0.5mm

図8 肝実質(1.1mSv)
80kV,135mAs,0.5mm

 

まとめ

逐次近似再構成法は,低線量撮影においてノイズとアーチファクトを飛躍的に低減させる有用な手法である。Full IRは,Hybrid IR(AIDR 3D)ではなし得なかった,空間分解能の向上と低コントラスト分解能の改善が可能となる。そのため,さらなる被ばく低減と画質向上の両立が期待できるのではないかと考えている。

 

立神 史稔(Tatsugami Fuminari)
2000年 大阪医科大学卒業。2005年 大阪医科大学放射線医学教室助手。2007年 University Hospital Zurich留学。2011年〜広島大学病院放射線診断科講師。

 

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