技術解説(シーメンスヘルスケア)

2018年4月号

Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

圧縮センシングの応用技術“GRASP”

丸山 克也(ダイアグノスティックイメージング事業本部MRリサーチ&コラボレーション部)

MRIのデータ収集および画像再構成技術に,「圧縮センシング(compressed sensing:CS)」が実用レベルで使用できるようになってきた。腹部検査へ向けた開発も進んできており,圧縮センシングを応用した“GRASP(Golden-angle RAdial Sparse Parallel)”の開発がNew York University School of Medicineとシーメンスによって行われている1)。本稿では,腹部検査における圧縮センシングの応用技術であるGRASPについて概論する。

■圧縮センシングとは?

圧縮センシングは,データ圧縮技術の一つである。一般のデータ圧縮技術は既存の巨大データを圧縮,復元するが,圧縮センシングは削減されたデータから画像再構成で画像を復元する技術としてとらえることができる。データ自体を減らすことができるので,MRIではシーケンスによるデータ収集の繰り返しの回数を減らすことができ,結果的に撮像時間を減らすことができる。圧縮センシングでは,収集するデータを1/10〜1/20にしても再構成によって画像の復元が可能である。高速化技術であるパラレルイメージングが2〜4倍速であるのに対して,圧縮センシングではプロトコールによっては10〜20倍といった速さでデータ収集(撮像)することが可能となる。

■GRASP─ラジアルサンプリングによるデータ収集

腹部への圧縮センシングの応用として,GRASPが開発された。そのデータ収集には,“StarVIBE”で使用されているラジアルサンプリングが選ばれている。
ラジアルサンプリングは,データ収集をk-space上で放射状に行う。自転車の車輪のスポーク部分にデータを入れていくイメージである。ここで,実際にデータの本数をスポーク数と表現する。ラジアルサンプリングではk-spaceの高周波領域のデータ収集タイミングが分散する一方,画像コントラストに影響するk-space中心の低周波領域で重点的なデータ収集が行われる。この特徴から,モーションアーチファクトの影響を受けにくくなっている。GRASPのデータの埋め方は,スポーク同士の間隔を111.25°にしてデータを埋めていく。この角度はGolden-angleと呼ばれている。Golden-angle でデータを埋めることにより,同じ位置にデータを上書きすることなく,データ収集が増えるほどk-spaceのデータ密度を増やすことが可能となる(図1)。画像再構成を行う場合に,k-spaceの任意の位置(タイムポイント)から任意の数のスポーク数を選んで行うことができる。例えば,140スポーク程度を使って時間分解能20秒の画像を作成したり,10スポークを使って時間分解能1〜2秒の画像の作成も可能である。これはレトロスペクティブにタイムポイント,および時間分解能の設定が可能であることを意味している。

図1 GRASPのデータ収集法 radial samplingでk-spaceを埋めていく。スポークをGolden-angleの 111.25°ずつずらすことによって,同じ位置にデータを上書きすることなくk-spaceにデータを埋めることができる。

図1 GRASPのデータ収集法
radial samplingでk-spaceを埋めていく。スポークをGolden-angleの 111.25°ずつずらすことによって,同じ位置にデータを上書きすることなくk-spaceにデータを埋めることができる。

 

■GRASP─圧縮センシングによる画像再構成

時間分解能を上げるためにスポーク数を減らすと,ラジアルサンプリング特有のストリークアーチファクトが発生する。GRASPでは,圧縮センシングによってストリークアーチファクトの排除を行う。圧縮センシングでは,画像再構成中にストリークアーチファクトがなくなるまでiterative reconstruction(繰り返し処理)を行い,データを十分得た画像と同等の画像を再現することができる。
GRASPでは「ラジアルサンプリング」+「圧縮センシング」によって,データ量(スポーク数)に関係なく同じマトリックスでアーチファクトの少ない画像を得ることが可能となった。

■GRASPの臨床への応用

腹部,特に肝臓の造影ダイナミックスタディにおいて,息止めを繰り返しながらスキャンを行う従来法に対して,GRASPでは安静呼吸下でダイナミック検査の最初から最後までデータを取り続けるcontinuous radial scanを行うことができる(図2)。得られたデータから,図3のように画像を作成することができる。

図2 GRASPによるスキャン a:従来の造影ダイナミックスキャン。息止めの合図を繰り返しながらスキャンを行う。 b:GRASPでのスキャン。安静呼吸下で,スキャンの初めから終わりまでデータを取り続ける(continuous radial scan)。

図2 GRASPによるスキャン
a:従来の造影ダイナミックスキャン。息止めの合図を繰り返しながらスキャンを行う。
b:GRASPでのスキャン。安静呼吸下で,スキャンの初めから終わりまでデータを取り続ける(continuous radial scan)。

 

図3(1)の場合,continuous radial scanによって,検査時間内に576スポークのデータを収集する。これを均等に4等分して画像を再構成する。1〜144スポークで造影前の画像,145〜288スポークで動脈相,289〜432スポークで門脈相,433〜576スポークで平衡相の画像を再構成する。すべての画像は144スポークから再構成された画像となる。
次に,図3(2)では,時間ごとによって任意の数のスポークを使用して画像再構成を行っている。造影前と門脈相では72スポークで2相の画像を,動脈相では48スポークで3相の画像を再構成している。造影剤の濃染による高速な濃度変化を,高時間分解能により画像上にとらえることが可能となっている。

図3 Continuous radial scanからの画像再構成 (1) 従来法と同様の時相のデータを得る。 (2) 動脈相だけ時間分解能を上げた画像を作成することが可能。

図3 Continuous radial scanからの画像再構成
(1) 従来法と同様の時相のデータを得る。
(2) 動脈相だけ時間分解能を上げた画像を作成することが可能。

 

図4は,息止めが困難な症例である。安静呼吸下でも,GRASPではモーションアーチファクトを抑えることができているのがわかる。

図4 82歳,女性,認知症,息止め不可 a:従来法 b:GRASP (画像ご提供:Switzerland, Basel, Universiätsspital Basel様)

図4 82歳,女性,認知症,息止め不可
a:従来法
b:GRASP
(画像ご提供:Switzerland, Basel, Universiätsspital Basel様)

 

シーメンスでは圧縮センシングをはじめとした新しい技術を取り入れ,診断に役立つシーケンス開発を日夜進めており,今後も高速撮像技術に対する技術開発をさらに進めていく。

●参考文献
1)Feng, L., Grimm, R., Block, K.T., et al. : Golden-angle radial sparse parallel MRI ; Combination of compressed sensing, parallel imaging, and golden-angle radial sampling for fast and flexible dynamic volumetric MRI. Magn. Reson. Med., 72, 707〜717, 2014.

 

●問い合わせ先
シーメンスヘルスケア株式会社
コミュニケーション部
〒141-8644
東京都品川区大崎1-11-1
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