技術解説(シーメンスヘルスケア)

2017年4月号

Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

安全で確実なカテーテルデバイスを用いた低侵襲治療をサポートする「ACUSON SC2000 PRIME」

平山 秀男(超音波事業本部超音波事業部)

2013年10月に経カテーテル的大動脈弁植え込み術(TAVI)が日本でスタートして以来,実施施設は106施設となり,使用される承認製品も,デリバリーシースの小径化や,治療後の弁周囲逆流に配慮したデザインや機能へと,より安全性の高いものに進化した。また,2016年6月には,重度の僧帽弁閉鎖不全症(MR)に対するクリップを用いたカテーテル治療の国内臨床試験において,予定していた症例登録を完了したことが発表された。海外では,非弁膜症性心房細動による脳梗塞を予防するためのカテーテルデバイスを用いた左心耳閉鎖術の治療成績が良好であったこと,奇異性脳塞栓症の原因となる卵円孔開存を閉鎖するためのカテーテルデバイスの米国食品医薬品局(FDA)承認などが報告され,弁膜症疾患以外にもカテーテルデバイスを用いた低侵襲治療にますます関心が高まっている。
経皮的冠動脈形成術(PCI)に代表される,カテーテルデバイスを用いた治療に欠かせないのが血管撮影装置であるが,新たに登場してきた弁膜症や心臓の構造異常を治療するためのカテーテルデバイスを,安全で確実に目的部位までナビゲーションし,スムーズな治療をサポートするために,超音波画像診断装置も重要な役割を担うようになってきた。ここでは,シーメンスの循環器領域でのフラグシップモデルである「ACUSON SC2000 PRIME」(図1)に搭載可能な,代表的な機能を紹介する。

図1 ACUSON SC2000 PRIME

図1 ACUSON SC2000 PRIME

 

■心腔内カテーテルエコーのメリット

心腔内カテーテルエコー(以下,ICE)とは,先端に超音波を送受信するフェーズドアレイ方式の素子を内蔵したカテーテルで,血管内や心腔内に挿入し,心臓・大血管の解剖学的構造や生理機能を観察することができる。経食道心エコー検査(以下,TEE)は,必要な画像を良好に,かつ安定して描出することができるものの,全身麻酔が必要となる。ICEは,画像の解像度こそTEEに劣るものの,局所麻酔下での施行が可能で,高齢者や小児科領域での先天性心疾患治療の際,患者負担や麻酔科医による治療中の管理などを考えると有用性が高い。特に,カテーテルデバイスを用いた心房中隔欠損閉鎖術(ASO)やバルーン大動脈弁形成術(BAV)において,ICEの役割は確立しつつある。最近では,内頸静脈アプローチによるICEの使用は,操作スペースの確保,操作の簡便性などの点から,容易で安全性の高い方法として注目を集めている。ACUSON SC2000 PRIMEは,据え置き型のハイエンド装置として,唯一ICEが装着可能な装置*である。独自の送受信技術により,画像全域にわたりフォーカスの合った高画質を提供し,画像の側方に描出されるrimや画像深部の構造もしっかりと確認することが可能で,より低侵襲で,かつ安全な治療をサポートする(図2)。

図2 ICEガイドによるカテーテルデバイスを用いた心房中隔欠損閉鎖術

図2 ICEガイドによるカテーテルデバイスを用いた心房中隔欠損閉鎖術

 

■三次元経食道心エコーのメリット

カテーテルデバイスを目的の部位まで正確にナビゲーションしていくには,血管撮影装置だけでは困難な場合もある。血管撮影装置で描出されるのは,X線透視による投影像となるため,デバイス自体の描出には優れているが,奥行き情報を含む立体的な心臓の解剖学的構造を,頭の中で正確に把握するには熟練が必要である。造影剤を用いれば,大動脈弁や左心室の形態を把握することは可能であるが,常時造影剤を使用することは現実的ではない。そこで登場するのが,超音波画像診断装置による三次元経食道心エコー(以下,3D TEE)である。超音波画像診断装置のメリットは,心臓の解剖学的情報と血流情報をリアルタイムで観察できることである。3D TEEを用いたbi-planeモードは,直交90°の2つの2D画像を同時表示することが可能で,デバイスと解剖学的構造の前後左右の位置関係を確認するのに重宝されている。しかしながら,bi-planeモードは,あくまで立体の中の直交2断面だけの描出となり,デバイスを追従しながらの断面描出には熟練した3D TEEの操作が必要となる。3D画像で心臓全体をリアルタイムに描出できれば,このような問題は解消すると思われるが,心臓全体を含む広い範囲の3D画像を描出するには,心電図同期による複数心拍の画像合成が必要となり,画像のつなぎ目のノイズの影響を受けてしまう。心電図同期なしに心臓全体の3Dを描出すると,十分な時間分解能の確保ができず,時間分解能を優先すると,3Dの描出エリアに制限が生じる。血流情報を含む3Dカラードプラ画像にいたっては,画像収集の条件がさらに厳しいものとなり,必要な時にリアルタイムに画像を提供することが困難となる。
ACUSON SC2000 PRIMEでは,心臓全体を含む広い範囲の3D画像,3Dカラードプラ画像を,心電図同期なく,リアルタイムに描出することが可能となった(図3)。これまでは,2Dやbi-planeモードで観察し,ポイントで3D画像を用いることが多かったが,常に3D画像を用いてナビゲーションすることを可能とした。心臓全体を立体的かつ俯瞰的に観察できることで,例えば,心房中隔穿刺をしたポイントから実際にデバイスを留置したいポイントまでの,立体的な位置関係をリアルタイムで直感的に把握することができる。また,カテーテルを操作する循環器内科医と3D TEEを操作する循環器内科医の間での意思疎通も容易となり,スムーズな治療の進行のサポートが可能である。治療時間の短縮は,患者負担の軽減はもちろんのこと,患者への被ばく線量の低減,さらには医療従事者の被ばく線量の低減にもつながる。

図3 心臓全体のリアルタイム3D TEE画像

図3 心臓全体のリアルタイム3D TEE画像
a:カテーテルデバイスを左房内に進めている様子
b:僧帽弁置換術後の弁周囲逆流(↓)

 

■中断リスクを最小化するために

カテーテルデバイスをナビゲーションし,低侵襲治療をサポートするためには,治療中に連続して超音波画像診断装置を使用できることが重要で,特に治療のために複数個のカテーテルデバイスが必要となり,処置が長時間に及ぶことも想定しておかなければならない。一方で,TEEにおいて注意しなければならない点がある。それは,プローブレンズ面の温度上昇である。連続的に超音波素子を駆動すると,プローブレンズ面の温度が上昇する。食道内にプローブを挿入して検査を行うTEEでは,体温の影響もあり,プローブレンズ面の温度が上昇しやすい。低温やけどのリスクなどを回避するため,ACUSON SC2000 PRIMEの場合には,レンズ面の温度が43℃に達すると自動的に装置がフリーズし,レンズ面の温度が低下するまで使用できなくなる。このような事態を回避し,長時間にわたる治療においても連続的に使用できるよう,ACUSON SC2000 PRIMEには2つの特長がある。一つは,3D TEEプローブの先端部分の構造である。プローブレンズ面周囲に熱伝導性の非常に高い材質を採用することで,通常レンズ面に集中する温度上昇を,プローブの先端部全体に逃がすことが可能であり,温度上昇を緩やかにする(図4)。もう一つは,自動的に温度を下げる機能である。温度上昇を低減するために,送信出力を低下させることも一つの方法であるが,同時に画質を低下させるリスクがある。特に,画質向上のためにハーモニックイメージング法を用いることが循環器領域では主流になっているが,ハーモニック信号は音圧の2乗に比例するため,少しの送信出力の低下でも画質に及ぼす影響が大きい。シーメンスは,レンズ面の温度上昇に大きく関係しているのが,超音波の送信時よりも受信時であるということに着目し,装置がフリーズしてしまう43℃の直前である42.5℃に達すると,装置が自動的に送受信の回数を半分にし,レンズ面の温度を下げる機能を搭載した。この機能は,いつでも手動でオン・オフの切り替えが可能となっている。これらの特長が,安心して治療に集中し,連続して安全なカテーテルデバイスのナビゲーションのサポートに貢献する。

図4 プローブレンズ面の温度分布

図4 プローブレンズ面の温度分布
従来品(左)は,レンズ面に温度が集中。「Z6Ms」(右)では,熱が周囲に拡散し,レンズ面温度の上昇を低減している。

 

*2017年2月1日現在

 

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シーメンスヘルスケア株式会社
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