技術解説(シーメンスヘルスケア)

2015年9月号

MRI技術開発の最前線

MAGNETOM Spectra Evo/MAGNETOM Amira ─E11により全装置のプラットフォームを統一

諸井  貴(シーメンス・ジャパン(株) MRビジネスマネージメント部)

シーメンスは,2015年春に最新ソフトウエアバージョン“E11”を搭載した新装置「MAGNETOM Spectra Evo」(図1)および「MAGNETOM Amira」(図2)の2機種を発表した。先行してE11が搭載されていた装置に加わったことで,より多くのユーザーが先進アプリケーション(図3)を利用可能となった。本稿では,新装置で可能となる独自技術の一部について紹介する。

図1 MAGNETOM Spectra Evo(3T)

図1 MAGNETOM Spectra Evo(3T)

図2 MAGNETOM Amira(1.5T)

図2 MAGNETOM Amira(1.5T)

 

図3 E11で可能なさまざまな機能

図3 E11で可能なさまざまな機能

 

syngo RESOLVE

拡散強調画像(以下,DWI)は,多くの部位で有用な撮像技術であり,日常臨床でも広く用いられている。高いSNRとADC値測定などの要望から,多くの施設でシングルショットEPI(以下,ssEPI)-DWIがスタンダードな撮像法となっている。一方,ssEPI-DWIは磁化率の変化に鋭敏であり,組織と空気の境目などでは画像が大きく歪む,あるいは位置ズレが起きることが知られている。この問題は,静磁場強度が高い3T装置ではさらに顕著になる。この問題を解決するために開発されたのが,リードアウトセグメントタイプのDWI“syngo RESOLVE”(以下,RESOLVE)である。RESOLVEでは,k-spaceのリードアウト方向にセグメント収集を行うことで,画像の歪みや位置ズレを軽減するとともにTEを短縮できるため,高いSNRを実現している。図4は,乳腺疾患における造影T1強調画像,RESOLVE,ssEPI-DWIの画像である。ssEPI-DWIでは,T1強調画像と比較して疾患の形状が大きく異なっていることが確認できる。一方,RESOLVEはT1強調画像と比較しても非常に近い疾患の形状が維持されており,歪みや位置ズレの影響を受けづらいことがわかる。また,RESOLVEでは検査時間短縮のための画像再構成テクニックが採用されており,最大で40%程度(自社比)の時間短縮が可能となっている(図5)。

図4 RESOLVEとssEPI-DWIの比較

図4 RESOLVEとssEPI-DWIの比較

 

図5 RESOLVEのk-space trajectory(概念図)

図5 RESOLVEのk-space trajectory(概念図)

 

■QISS

Lancetに掲載された論文によると,糖尿病を患っている成人の数は10人に1人1)にのぼり,今後も増加が懸念されている。別のデータでは,成人糖尿病患者の3人に1人は末梢血管障害を抱えている2)と報告されている。このような状況を背景に,造影剤を用いることなく,より高速に,しかも簡便に末梢血管描出を行うために開発された撮像シーケンスが,“QISS”(Quiescent Interval Single Shot)である。QISSは,血管選択のための画像サブトラクションを必要としないため,検査中の体動の影響を受けづらいという特長がある。さらに,最短で1スライスを1心拍でデータ収集が可能であるため,検査時間が非常に短くできるという利点がある。図6では,QISSによる末梢血管描出が造影MRAと比較して同等であることがわかる。また,これまでは血管閉塞のある場合,非造影では左右の血管描出が困難であったが,QISSによる画像では左右共に血管が明瞭に描出されている。

図6 造影MRAとQISSの比較

図6 造影MRAとQISSの比較

 

■MyoMaps with HeartFreeze

心臓MR(以下,CMR)では,動きによる影響をいかに抑えるかが大きな課題とされる。一例として,心筋パーフュージョン検査では90秒程度の連続したデータ収集を行うため,撮像開始時は息止めでデータ収集するが,途中から自然呼吸下での撮像となる。このため,呼吸による心臓の位置ズレが大きな問題となる。従来は,位置ズレが発生した各時相の画像を手動で1つずつ修正するということを行っていたが,膨大な時間がかかることや再現性が乏しいなどの問題があった。これらの問題を解決するために開発されたのが“HeartFreeze”である。異なる時相の同一スライス間の位置ズレを,スキャン後,自動的にピクセルごとに補正するInline Motion Correction技術であり,CMRのさまざまな検査で応用が期待されている。その一つが“MyoMaps”(図7)との併用である。MyoMapsは,スキャン後,自動的に心筋のT1,T2,T2マッピングを作成するアプリケーションであり,心筋のびまん性の経過を特定し,疾患の程度を定量化する強力なツールとして注目されている。MyoMapsにHeartFreezeによる位置補正技術を加えることで,既存の撮像法では見落とされるような初期病変を検出できる有望な手法になると期待されている。

図7 MyoMaps with HeartFreezeによるT1,T2,T2*マップ

図7 MyoMaps with HeartFreezeによるT1,T2,T2マップ

 

■Eco-Power

MR検査におけるエネルギー(電気やヘリウム)の消費は増え続けており,病院経営における省力化は切実な問題になっている。シーメンスは,装置の電力やヘリウムの消費を最適化する省エネルギー技術をMRI装置に搭載することで,検査待機中の消費エネルギー削減に取り組んでいる。
超電導型マグネットでは,液体ヘリウムを効率的に循環させることでその消費量を抑えているため,24時間365日ヘリウム循環のためにチラーを常に動かし続ける必要があり,電気代が増える原因の一つになっている。MAGNETOM Amiraに搭載されているEco-Power技術は,マグネット内の液体ヘリウム状態を常時モニタリングし,必要な時だけヘリウムを循環させるシステムを実現した。これにより,最大30%(自社比)という大幅な電気代削減を可能とした。

シーメンスでは,すべてのMRI装置にソフトウエアバージョンE11を採用することで,操作プラットフォームの統一化,撮像および解析機能の均一化をめざしている。今後も臨床現場の声を反映し,さまざまな装置で最先端のアプリケーションが利用できるような開発を行っていくとともに,基盤となるべきハードウエアの技術開発にも注力していく。これからもシーメンスのMRI装置にご期待いただきたい。

* 2015年7月現在,シーメンス社調べ。

●参考文献
1)Danaei, G., et al. : National, regional, and global trends in fasting plasma glucose and diabetes prevalence since 1980 ; Systematic analysis of health examination surveys and epidemiological studies with 370 country-years and 2·7 million participants. Lancet, 378・9785, 31〜40, 2011.
2)Marso, S.P., et al. : Peripheral arterial disease in patients with diabetes. J. Am. Coll. Cardiol., 47・5, 921〜929, 2006.

 

●問い合わせ先
シーメンス・ジャパン株式会社
コミュニケーション部
〒141-8644
東京都品川区大崎1-11-1
ゲートシティ大崎ウエストタワー
TEL 0120-041-387
http://www.siemens.co.jp/healthcare/

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