技術解説(シーメンスヘルスケア)

2014年4月号

Head & Neck Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

頭部領域でのFunctional CT Like Imaging─syngo DynaPBV Neuroの技術情報に関するご紹介

新井田紀光(ヘルスケアセクターイメージング&セラピー事業本部AXビジネスマネージメント部)

■背景

syngo DynaCT”が製品化され,国内および海外への販売を開始して8年以上の月日が経った。当時,このアプリケーションの可能性はまったくの未知数であり,その臨床価値を模索する日々であったと言える。現在,われわれは,このCアームCT技術をsyngo DynaCTとして多くの血管撮影装置に搭載しており,脳血管造影の分野では,このような血管撮影装置が主流となっている。これにより,脳血管内治療の際にCアームCT撮影を施行すれば,患者をCT室に移動させることなく脳の断面像を確認することができ,脳血管内治療に伴う脳内出血などの合併症に対しても,迅速な診断と対処が可能となった。さらに,従来のDynaCT技術により再構成されていた形態的評価から,機能的評価の第一歩として,脳循環情報の3つのパラメータの1つである脳血液量(cerebral blood volume:CBV)の再構成を可能にする“syngo DynaPBV Neuro”(旧名:syngo Neuro PBV IR)というアプリケーションを開発した。

■撮影手法と再構成の原理

syngo DynaPBV Neuroの基本再構成技術は,CTによるCBV測定方法と非常に類似しており1)〜3),Struffertらの臨床試験では,脳虚血患者において造影剤の静脈投与を用いて撮影したsyngo DynaPBV NeuroのPBV(parenchymal blood volume)マップは,CT PerfusionのCBV画像(CTP-CBV)と十分な相関関係があることを示していた4)。さらに,Struffertらが患者25名を対象とした臨床試験でも,syngo DynaPBV NeuroのPBVマップとCTP-CBVマップに高い相関関係を確認したという報告があった5)。この再構成法は,Cアームシステムによる2回の3D回転撮影画像から差分画像を生成することでCBV解析を行う。1回目の回転撮影は,差分画像を得るための非造影で行うMask撮影(Mask run)であり,2回目の回転撮影(Fill run)では,脳組織の造影剤濃度を一定に保つため,特別な造影剤の投与プロトコルを使用する。造影剤の投与は,脳組織が造影されるまでの遅延時間を考慮して,注入器により造影検査を行う。この方法は,Struffertらにより経静脈的造影剤投与法として,すでに海外では何例か報告されている。一方,日本国内では糸川らにより,大動脈弁直近の上行大動脈からの経動脈的造影剤投与法によるsyngo DynaPBV Neuroの臨床報告が新たに行われた6)図1)。
このような条件下で回転撮影された投影画像は,フィルター補正逆投影法(FBP法)を用いた3D画像の再構成を,Mask runとFill runのそれぞれの撮影画像に対して行う。その後,この2つの再構成データから患者の動体補正を行い,差分画像を生成する。また,造影剤を頭蓋内全体の血液に行き渡らせるように持続注入を行い,再構成された画像からヒストグラム解析により動脈入力関数(AIF)を自動的に算出する。そして,その動脈入力関数を用いて差分処理を行った血液量データを正規化して,PBVマップを生成する。さらに,大血管と毛細血管のヘマトクリット値の相違を補正後に,PBVマップをカラーコード形式で表示する7)図2)。

図1 syngo DynaPBV Neuroの臨床使用例

図1 syngo DynaPBV Neuroの臨床使用例
a:テスト撮影。正面視野(A,B)は,48cmの縦長の広い視野に設定し,大動脈弁直上に留置してあるカテーテルの先端(A↓)から頭蓋内までを確認。側面視野(C,D)は,頭蓋内の内頸動脈と静脈洞交会(D↑)が共に確認できる位置に設定(視野はFDサイズによる)。
b:塞栓除去用システムによる血栓除去・再開通療法
c:治療前後のMRIおよびPBVマップ。A〜Cは治療前,D〜Fは治療後。
(画像ご提供:医療法人社団昌医会 葛西昌医会病院脳神経外科・脳血管内治療科様)

 

図2 syngo DynaPBV Neuroにおける回転撮影を用いたPBVマップの再構成法

図2 syngo DynaPBV Neuroにおける回転撮影を用いたPBVマップの再構成法
(画像提供:Siemens AG)

 

syngo DynaPBV Neuroというアプリケーションは,脳血管造影検査や脳血管内治療時に行う補助的な検査という位置づけであることを最初にご理解いただきたい。現在,一般的に脳循環情報を診断するためには,SPECTやPETやCT Perfusionなどの装置を用いることで,脳血流量(cerebral blood flow:CBF)といったさまざまな定量情報を得ることが可能となっている。CT Perfusion検査であれば,CBVやCBFのほかに平均通過時間(mean transit time:MTT)も計測可能となる。このアプリケーションでは,PBVという単独の脳循環情報しか解析できないが,脳血管造影検査や脳血管内治療時に血管撮影装置でPBV解析を遂行できるため,患者の移動も検査装置の切り替えも必要とせずに,急性期脳梗塞疾患の治療適応の検討や,脳血管内治療時の虚血性合併症の検出,頸動脈ステント留置術前後での脳循環動態の変化という緊急対応が必要とされる状況下に加え,今後,脳腫瘍やBOT(balloon occlusion test)など多くの疾患に関しても,その臨床価値が評価されることを期待している。

 

●参考文献
1)Zellerhoff, M., et al. : Measurement of cerebral blood volume using angiographic C-arm systems. Medical Imaging 2009 ; Biomedical Applications in Molecular, Structural, and Functional Imaging, Proc. SPIE., 7262, 72620H-1, 2009.
2)Hamberg, L.M., et al. : Measurement of cerebral blood volume with subtraction three-dimensional functional CT. Am. J. Neuroradiol., 17, 1861〜1869, 1996.
3)Hunter, G.J., et al. : Whole-brain CT perfusion measurement of perfused cerebral blood volume in acute ischemic stroke ; Probability curve for regional infarction. Radiology, 227, 725〜730, 2003.
4)Struffert, T., et al. : Flat detector CT in the evaluation of brain parenchyma, intracranial vasculature, and cerebral blood volume ; A pilot study in patients with acute symptoms of cerebral ischemia. Am. J. Neuroradiol., 31, 1462〜1469, 2010.
5)Struffert, T., et al. : Cerebral blood volume imaging by flat detector computed tomography in comparison to conventional multislice perfusion CT. Eur. Radiol., 21, 882〜889, 2010.
6)Itokawa, H., et al. : Technical evaluation of the measurement of cerebral blood volume by intra-arterial injection of contrast medium and visualization of color-coded digital subtraction angiography images using an angiographic C-arm system. JNET, 5・2, 134〜141, 2011.
7)Zellerhoffa, M., et al. : Measurement of Cerebral Blood Volume using Angiographic C-Arm Systems. Proc. SPIE., 7262, 72620H-2, 2009.

 

●問い合わせ先
シーメンス・ジャパン株式会社 コミュニケーション部
〒141-8644
東京都品川区大崎1-11-1 ゲートシティ大崎ウエストタワー
TEL:03-3493-7630
http://www.healthcare.siemens.co.jp/medical-imaging

TOP