技術解説(シーメンスヘルスケア)

2012年12月号

核医学分野の最新技術動向

PET・CT最新技術“Quantification Redefined.” ─PET定量のさらなる向上へ

中西哲也(イメージング&セラピー事業本部分子イメージングビジネスマネージメント部)

シーメンスのPET・CTラインナップ「Biograph」シリーズは,国内外において多くの装置が稼働し,腫瘍から,脳神経,循環器領域に至る幅広い疾患のPET・CT診断に利用されている。シーメンスが特許を取得したLSOクリスタルをベースとしたPET・CT「Biograph」は,FDG-PETからサイクロトロンによる短半減期核種によるイメージングまで,優れた画像を提供し,さらなる技術開発が進められている。
現在の装置では,その性能をさらに高め,分解能性能の向上,正確なポジトロン計測,最新アプリケーションによる解析機能などにより,再現性・クオリティの高い検査が実施されている。また,最新バージョンにおいては,PET性能管理ツール“Quanti・QC”が搭載されるなど,ルーチン検査におけるPET・CTの画像基準を高め,より信頼性の高い計測結果,より明確な画像情報の提供に向けて,システム性能を高める開発が行われている(図1)。

図1 シーメンスPET・CT「Biograph mCT」(a)と「TruePoint Biograph 16」(b) SUV計測における主な変動要素に対して,新たな管理ツール,呼吸同期,解析ソフトウエアが開発されている。

図1 シーメンスPET・CT「Biograph mCT」(a)と
「TruePoint Biograph 16」(b)
 SUV計測における主な変動要素に対して,
新たな管理ツール,呼吸同期,解析ソフトウエアが開発されている。

 

■高い信頼性をベースとしたSUV計測へ─“Quanti・QC”

近年PET・CTの有用性は,診断のみならず治療のモニタリングファクターとしても利用されており,PET画像のstandardized uptake value(SUV)値の信頼性や安定性が議論されている。2012年4月には,悪性リンパ腫(Lymphoma)の治療効果判定が保険適用となり,PET画像における病変のSUV値をさらに正確に計測することが求められる。一方,治療前後で評価されるSUV値は,装置検出器の状態の経時的変化による影響を受けることも知られている1)。きわめて高度かつ膨大な情報を取り扱うPET計測においては,装置固体間の計数も異なり,安定して検出器の状態を維持するための管理をどのように行うかが課題となっている。
シーメンスが装置状態を維持する新たなdaily QCとして開発した装置管理ツール“Quanti・QC”が,これらの課題を改善する。主な追加機能として,次の機能を搭載する。

(1) PETノーマライズを毎日実施
(2) キャリブレーション値の毎日更新

従来のようにノーマライズ頻度が少ない場合には,検出システムのドリフトがSUV値の変動につながることが知られており,計測精度の低下が避けられなかった。Quanti・QCは,毎日のシステムチェックにおいて,検出器応答を等しく調整するノーマライズとキャリブレーション更新を実施することで,計測状態を一定に維持し,SUV値測定の信頼性向上に寄与する(図2)。従来,ノーマライズを実施するためには,既知の放射能濃度を持ったファントムを作成していた。また長時間のノーマライズは大きな負担であった。シーメンスのQuanti・QCでは,高精度な68Geファントムを用いてシステムチェック時にノーマライズおよびキャリブレーション更新を行うため,短時間で実施することが可能である。さらに,ファントムの濃度むらの懸念や作成の手間を省き,被ばく低減にも寄与できる。

図2 従来のQC(a)とシーメンスの新しいdaily QC“Quanti・QC”(b)の効果比較

図2 従来のQC(a)とシーメンスの新しいdaily QC“Quanti・QC”(b)の効果比較

 

■呼吸性移動によるボケを低減し,より正確なSUV評価へ

PETは,画像データを収集する時間が長いため,得られたデータの平均化が顕著となる。このため動きのある病変の場合には,その部位の画像ボケが必然的に伴う。従来から呼吸性移動の影響を低減する技術として,息止めによるデータ収集や呼吸同期収集が行われているが,被検者の負担や検査時間の長大などの課題が存在する。被検者に負担のない自由呼吸下で正確なデータを取得する技術として,呼吸同期収集が注目されるが,SNRに優れた画像を得るためには,収集時間を長くする必要性が生じる。短時間のデータ収集で呼吸性移動を抑えた画像を得る技術として期待されるのが,呼吸振幅をベースした新たな手法である(図3)。
時間をベースにトリガーポイント(例:最大吸気)の間を均等に分割する従来法に比べ,振幅変動の少ない位相(例:呼気時)のデータを取得する新手法は,より短時間で効率良く呼吸性移動の影響を抑えた画像の取得が可能となる。これは,一般的な呼吸サイクルにおいて,呼気時間が吸気時間より長く,呼気時のデータ収集をその振幅の基準に設定することに起因する。この手法では,呼吸性移動を伴う病変もフォーカルな集積として描出でき,SUV値の評価もより正確に行える。さらに,PET・CT画像の放射線治療への応用としても,治療時に必要な呼気時画像を利用できることで,正確な治療計画への貢献が期待される技術である。

図3 呼吸同期における時間分割と呼吸振幅によるデータ収集

図3 呼吸同期における時間分割と呼吸振幅によるデータ収集

 

■再現性の高いSUV解析に 寄与するSUVpeak

PET画像解析において使用されるSUV値では,設定された関心領域内の最大値を示すSUVmaxが最も使用されている。しかしながら,SUVmaxは直接的に統計量の変動によるノイズの影響を受けるため,特に治療効果判定等,SUV値の変化率の精度を考慮した場合には,SUVmaxより安定した指標が求められる。
新たなパラメータとして利用可能なSUVpeakは1cm3球体内の平均値を関心領域内で測定し,その平均値の最も高い値を示すものである。このパラメータはSUVmaxと比べ,再現性,安定性に優れた値として治療効果判定などの解析利用が期待されている(図4)。

図4 SUVmax(a)とSUVpeak(b)による治療効果判定例

図4 SUVmax(a)とSUVpeak(b)による治療効果判定例

 

PET・CTの有用性は,すでに確立されたさまざまなトレーサー集積評価による高い診断能に加えて,治療効果判定のツールとして利用が広がっている。より正確な情報を提供すべく,PET・CTの計測精度,安定性を高めることが求められている。また,呼吸性移動に対する新たなアプローチや優れた診断ツールにより,その有用性,信頼性がさらに高まることが期待される。

●参考文献
1)日本核医学会 : 院内製造されたFDGを用いたPET検査を行うためのガイドライン(第2版). 2005.

 

【問い合わせ先】ヘルスケアマーケティングコミュニケーショングループ TEL 0120-041-387

TOP