技術解説(シーメンスヘルスケア)

2012年9月号

Step up MRI 2012-MRI技術開発の最前線

新たな画像診断を可能とした「MAGNETOM Skyra」の次世代3Tテクノロジー─Dynamic parallel TX

打越将人(MRビジネスマネージメント部)

●パラレル受信からパラレル送信へ

シーメンスは,世界で初めて“局所励起技術”を,臨床機「MAGNETOM Skyra」に搭載することに成功した。
弊社は,2003年にマルチ受信アレイコイルシステム“Tim(Total imaging matrix)”とパラレル撮像技術“PAT(Parallel Acquisition Techniques)”を登場させ,大幅な撮像時間の短縮,時間・空間分解能の向上,ブラーリングやアーチファクトの低減など,いままでの画像診断を一新した。さらに,近年の3Tなどの高磁場装置の普及により,高いSNRを利用した高いリダクション・ファクターのパラレル撮像が期待されている。しかし,高磁場化により一部の体幹部における送信RFのB1均一性の低下が懸念され始め,マルチチャンネル送信技術,いわゆるB1シミングの重要性が取りざたされるようになった。
シーメンスは2007年に発表した「MAGNETOM Verio」(3T)に“Tim TX TrueForm”RFデザインによるB1シミング技術を他社に先駆けて開発し,部位別,解剖別B1マッピングを利用することでプレシミング時間を別途必要とせず,3Tにおける全身領域のB1均一性の向上を実現した。しかし,B1シミング技術に代表される独立したそれぞれ1個のsinc型RFパルスと1個のスライス選択勾配磁場の組み合わせによるB1マッピングは,高磁場における短波長の影響を打ち消すだけの単なるB1均一補正メカニズムに過ぎない。
今回,MAGNETOM Skyraへの搭載を可能としたパラレル送信技術に代表されるダイナミック・パラレル・トランスミッションテクノロジー“pTX(parallel transmission technology”は,B1シミングを上回る新たな可能性を発掘した。

●局所励起技術

シーメンスは新たなダイナミックpTXとして,“TimTX TrueShape”送信プラットフォームをMAGNETOM Skyraに搭載することを可能とした。もちろん,前述した患者ごとのB1シミングによる画質改善を行うこともできるが,この新しいプラットフォームの主な目的は,まったく新しいアプリケーション技術を可能にすることである。
TimTX TrueShapeは,2個のRFチャンネルで任意のRF波形を独立して自由自在に切り替えることができ,3軸の勾配磁場で任意の磁場勾配を変化させることで(励起k空間トラジェクトリーは受信k空間におけるEPIリードアウトに似ている),任意の形状のボリュームを励起すること,すなわち“局所励起”が実現できる(図1)。この局所励起を可能としたアプリケーションが“syngo ZOOMit”である。
一般的な局所選択励起は,複雑なRF制御を必要とするため,長い励起パルスの印加時間を要する点が問題であった。TimTX TrueShapeのプラットフォームにおけるsyngo ZOOMitは,トランスミットセンスによるパラレル送信を利用して印加時間の短縮と,励起パルスの長さに応じて増減するB0効果の抑制を可能にしている(図2 a,b)。

図1

図1

 

図2

図2

 

●局所励起がもたらす画像診断への効果

MRI技術は,観察するすべての位置情報を各周波数成分として認識させている。そのため,局部のみを観察したい場合においても,その部分以外の位置情報はFOV内に折り返る,すなわちエリアジングアーチファクトが現れるため(図3),通常,局部のみを観察する場合でも被写体全体を覆うようなサンプリングを必要とし,撮像時間の延長につながる問題点がある。syngo ZOOMitはこれら問題点を解決する糸口になる。

図3 Image Zooming

図3 Image Zooming

 

syngo ZOOMitは現時点で,3D TSE法に代表される“syngo SPACE”シーケンスとDWIおよびfMRI用EPIシーケンスに応用が可能である。
3Dイメージングの大きな問題点として,撮像時間の長いことと観察領域の拡大がある。syngo ZOOMitによる局所励起を用いることで,3Dの2方向の折り返しが回避できるため,オーバーサンプリング部分の撮像時間が短縮できる(図4)。また,折り返しを回避できることから,3Dイメージングにおける局所の面内分解能が向上する。加えて,FOV外からのモーションやフローアーチファクトを低減できるため,体幹部の呼吸,腸管の蠕動や頸部の嚥下による画質低下を回避することが可能である。あまり注目されていないが,実際に3Dイメージングクオリティを低下させる大きな要因の1つとして,大きなturbo factorがもたらす長いduration timeによるT2フィルタリング効果がある。syngo ZOOMitによりオーバーサンプリングレスが実現したため,これら3Dイメージングによる問題点が解消され,特に弊社3DイメージングシーケンスであるSPACE画像の画質向上により,低組織コントラスト分解能の向上による病変の検出,良悪性診断の向上が期待できる(図5)。

図4

図4

図5

図5

婦人科疾患における syngo SPACEを用いた3D画像(図4 a)。isotropicデータにより病変の広がり診断に期待が大きい。しかし,3Dシーケンスであるため,腸管や呼吸による体動の影響を受けやすく,また目的以外の信号の折り返しを低減するために各方向にオーバーサンプリングが必要であり,低組織間コントラスト分解能を維持するためには撮像時間の延長が懸念される。一方,局所選択励起を3D画像に適応することで,撮像時間の短縮,目的領域以外の信号源の混入を防ぐことができ,高い組織コントラストを短時間で提供できる(図4 b,5)。

 

DWIやEPIシーケンスの問題点は,局所の磁化率による信号低下や歪みである。局所励起により,各軸のエンコードが低減できるため,磁化率の影響を受けやすい領域で拡散の定量評価がより一層向上すると考えられており,病変の検出を目的としたT2強調像とのフュージョン精度の向上(図6)や,FOV外からの体動によるアーチファクトの減少,体幹部のADCmap,fractional anisotropy(FA)mapの信頼性の向上(図7a,b),近年期待が高まっている体幹部の非造影パーフュージョン・フラクションのためのintra-voxel incoherent motion(IVIM)の高画質化, fMRIにおけるSNRの向上が期待されている。

図6 前立腺の解剖学的画像

図6 前立腺の解剖学的画像
(a)とsyngo ZOOMitによる歪みのない画像(b)との輪郭がよく一致している。一方,従来のDWI(c)では前立腺がんの主な好発部位である辺縁域で特に歪みが見られる。

 

図7

図7

 

今後,さらなるパラレル・トランスミッション・テクノロジーの開発を進めることが装置メーカーの命題でもあり,送信チャンネル数の増加による曲線的でより複雑な局所励起や,いままで以上のマルチチャンネルB1シミングが実現できる可能性がある。また,トランスミットセンスファクターの増加による励起時間の短縮により,さまざまなシーケンスへの応用が可能となり,新たな画像診断への取り組みが行われる時代に入ったと言える。

 

【問い合わせ先】コミュニケーション部 TEL 0120-041-387

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