New 3D Mapping of Sentinel Lymph Node in Oral Cancer 
岩井俊憲(横浜市立大学附属病院歯科・口腔外科・矯正歯科)
Session Ⅱ Maximize the Synergy of CT-related Systems

2018-11-22


岩井俊憲(横浜市立大学附属病院歯科・口腔外科・矯正歯科)

口腔がんの後発頸部リンパ節転移は重要な予後因子となる。そのため,原発腫瘍の手術と同時に予防的頸部郭清術が行われることもあるが,合併症が問題となる。近年,低侵襲手術をめざして,センチネルリンパ節生検(sentinel lymph node biopsy:SLNB)が口腔がんにも導入されるようになってきたが,通常radioisotope(RI)法が用いられる。RI法は被ばくと管理区域の問題でどの施設でも実施できるわけではないため,ほかの新しい低侵襲なSLNBの開発が求められている。本講演では,口腔がん治療の概要とSLNの新しい同定法として当院で研究中のCT lymphography(CTL)によるSLNマッピングについて報告する。

口腔がん治療の概要

口腔がんの割合はがん全体の約1%と非常にまれであるが,全頭頸部がんでは約40%を占める。口腔がんの中では舌がんが半数以上と最も多く,人口の高齢化に伴い罹患数も増加しつつある。
治療法には手術,放射線治療,化学療法があるが,第一選択は手術である。サイズの小さい早期口腔がんは,切除後の機能障害が少なく経過は良好であるが,約20〜30%は後発頸部リンパ節転移を来す。頸部リンパ節にはレベルⅠ〜Ⅴまで5つの領域があり,多くはレベルⅠ,Ⅱ(オトガイ下部・顎下部・上内頸静脈部)に転移する。転移が認められれば,頸部郭清術にて頸部のリンパ節と脂肪組織を切除することとなる。
所属リンパ節転移なし(N0)の口腔がん症例の治療法は,腫瘍切除後に経過観察を行い,後発頸部リンパ節転移を認めた場合のみ頸部郭清を行う方法と,腫瘍切除と同時に予防的頸部郭清術を行う方法の2つに大別される。どちらの治療成績がより良好かについては,いまだ統一した見解は得られていない。しかしながら,頸部郭清術には上肢の運動制限や顔面神経麻痺などの合併症が起こる可能性があるため,最近では治療の低侵襲化をめざしてSLNBが導入されるようになった。
SLNとは,腫瘍細胞がリンパ管を通り最初に流れ込むリンパ節を指し,SLNに転移がなければほかのリンパ節にも転移がないと判断できる(SLN理論:図1)。SLNBには,色素法とRI法の2種類がある。色素法は目視可能であるものの,体表からの同定が困難であり,また,RI法はマッピング可能でSLNの同定は容易であるが,患者の被ばくや管理区域の問題により実施できる施設が限られる。現在は,この2種類の方法を併用するのが主流であるが,口腔がんにおけるSLNBを普及させるためには,どの施設でも容易に実施可能な新しい低侵襲な方法の開発が求められる。

図1 SLN理論

図1 SLN理論

 

CT lymphographyを用いた新しいSLNB法の開発

われわれは現在,CTLによるSLNマッピングとインドシアニングリーン(ICG)蛍光法を併用したSLNBを行っている1),2)
CTLは,腫瘍周囲4か所にヨード造影剤を注入してからCTの撮影を行い,2D画像で濃染部を確認し,さらに3D画像再構成を行う(図2)。従来のソフトウエアで作成した3D画像では解剖学的な位置関係の把握がやや難しいが,“Cinematic VRT”(シーメンスヘルスケア)を用いることで視覚的に良好な3D画像の構築が可能となる。治療に当たっては,ICGを腫瘍周囲の4か所に注入し,近赤外光カメラで励起光を照射すると,ICGが蛍光発色してSLNを同定可能となる。同定したSLN内の転移の有無を調べることで,頸部郭清術を実施するかどうかを判断している。
当院の早期舌がんの治療成績について,部分切除群(後発頸部リンパ節転移が生じた時点で頸部郭清術を施行)41例と部分切除+SLNB群(SLNBで転移を認めた場合に頸部郭清術を施行)28例で比較したところ,5年生存率は部分切除群85.4%に対し,部分切除+SLNB群では100%と良好であった。

図2 CT lymphographyによるSLNの描出

図2 CT lymphographyによるSLNの描出

 

新しいSLN同定法の確立に向けた検討

当院では,治療成績の向上が期待できる部分切除+SLNBをより推進するために,新しいSLN同定法の確立に向けた検討を行っている。特に,CTLは撮影タイミングや撮影法が十分に確立していないため,その最適な撮影タイミングについて検討した。

1.対象
対象はN0早期口腔がんの19症例(舌がん:17症例,口底がん:2症例)である。頸部リンパ節転移はCT,超音波検査,PET/CTで診断し,ヨード造影剤を使用できない患者は除外した。

2.撮影方法
CT装置はシーメンスヘルスケアの「SOMATOM Definition AS+」を使用した。造影剤(イオパミロン300)を0.5mLずつ4か所に局注し,注入2分後,5分後,10分後にCTを撮影した。

3.結果
CTLによるSLNの描出率は94.7%で,造影されたSLNは計36個,中央値2個(0〜4個)であった。SLNが同定された位置は,舌リンパ節が5.9%,レベルⅠとⅡが合わせて94.1%と非常に多く,今回はレベルⅢ以降は同定できなかった(図3)。

図3 CT lymphographyで同定されたSLNの位置

図3 CT lymphographyで同定されたSLNの位置

 

4.症例提示
本症例は舌がん患者であり,造影剤は腫瘍からリンパ管を流れ,レベルⅡのSLNに流入していた。シーメンスヘルスケアの“syngo.via”で再構成したCinematic VRTの画像(図4)は,図2で示した3D画像と比べてSLNはもとより,血管や骨,筋肉などが明瞭で,きわめてリアリティが高い。本症例におけるSLNは胸鎖乳突筋の深部に存在していたため,胸鎖乳突筋を画像処理することで,SLNを描出している。syngo.viaではこのような処理が,ほかのソフトウエアで行うよりも容易なことが利点と言える。

図4 症例提示:Cinematic VRTによる3D-CT画像 a:胸鎖乳突筋より深部に存在するSLNは描出されない。 b:胸鎖乳突筋を透過させてSLNを描出させた。 c:胸鎖乳突筋を削除してSLNとリンパ管を鮮明に描出させた。

図4 症例提示:Cinematic VRTによる3D-CT画像
a:胸鎖乳突筋より深部に存在するSLNは描出されない。
b:胸鎖乳突筋を透過させてSLNを描出させた。
c:胸鎖乳突筋を削除してSLNとリンパ管を鮮明に描出させた。

 

5.撮影タイミングと描出率
今回の検討におけるCTLの撮影タイミング(造影剤注入2分後,5分後,10分後)とSLN(36個)の描出率を確認したところ,80.6%が2分後,19.4%が5分後に描出され,10分後に描出されたSLNは認めなかった。なお,19症例のうち2症例では,2分後と5分後の両方でSLNが描出されていた。

6.考察
CTLは,乳がんでは以前から研究されており,SLNの描出率は96〜100%とする複数の報告があるが,口腔がんでの報告は2本しか確認できなかった3),4)。Saitoら3)は,通常描出困難とされる舌リンパ節が,CTLではSLNとして同定可能であったと報告している。また,Hondaら4)の31症例を対象とした検討では,舌リンパ節は同定されなかったが,われわれの検討では19症例中2症例(10.5%)で描出できた。解剖学的には約30%の人で舌リンパ節が認められるとされているが,論文の報告では舌リンパ節転移は1〜2%程度と非常に少ない。その理由としては,口腔がんと頸部の間の組織で起こる再発は実は原発腫瘍の再発ではなく,舌リンパ節に転移していた腫瘍が増大しているものが多いと考えられる。そのため,舌リンパ節転移をきわめて早期の段階でとらえることで,予後が良好となる症例が増えてくると考えられる。
Hondaら4)とわれわれの研究を比較したところ,描出能は90%と95%で,われわれの方がやや高いものの大きな差はなく,SLNの描出数ではいずれも1個もしくは2個が約70%を占めていた。SLNの位置は,いずれの研究もレベルⅠとⅡが大半を占め,さらに,われわれの研究では舌リンパ節も約6%確認できた。撮影タイミングについては,Hondaら4)はSLNを確実に同定するためには1分,3分,5分,10分の4回のスキャンが必要と結論づけているが,われわれは2分と5分の2回で100%描出できているため,被ばく線量を半分に低減可能なプロトコールであると言える。

まとめ

早期口腔がん患者のSLNを同定するためのCTLの最適な撮影タイミングは,造影剤局注後2分と5分であることが明らかとなった。

●参考文献
1)Iwai, T., et al. : Sentinel lymph node biopsy using a new indocyanine green fluorescence imaging system with a colour charged couple device camera for oral cancer. Br. J. Oral Maxillofac. Surg., 51・2, e26〜e28, 2013.
2)岩井俊憲・他:口腔癌N0症例に対するインドシアニングリーン(ICG)蛍光法を用いたセンチネルリンパ節生検. 日本口腔腫瘍学会誌, 28・3, 65〜70, 2016.
3)Saito, M., et al. : The lingual lymph node identified as a sentinel node on CT lymphography in a patient with cN0 squamous cell carcinoma of the tongue. Dentomaxillofac. Radiol., 40・3, 254〜258, 2012.
4)Honda, K., et al. : Sentinel lymph node biopsy using computed tomographic lymphography in patients with early tongue cancer. Acta. Otolaryngol., 135・5, 507〜512, 2015.

 

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