History of Cardiac CT 
心臓CTの日本史 
内藤博昭(公益財団法人 日本生命済生会付属日生病院特任顧問)
<Session Ⅱ Special Lecture>

2017-11-24


内藤博昭(公益財団法人 日本生命済生会付属日生病院特任顧問)

本講演では,わが国における心臓CTの歴史について,当初からかかわってきた私の経験を基に紹介し解説する。

国立循環器病研究センターにおけるCTの変遷

私が2016年春まで所属していた国立循環器病研究センターは,2017年で創立40周年を迎えた,本邦の循環器疾患制圧のための研究と診療を担う施設である。1980年,同センターに全身用CTが初めて導入された当時から心臓CTを施行しており,おそらくわが国で最も長い心臓CTの歴史を有する。以降,1988年には電子ビームCT,2000年代にはマルチスライスCTを導入。近年では,2009年にシーメンスのDual Source CT,2010年にはArea Detector CTをラインアップに加え,心臓CTを施行している。

電子ビームCTによる心筋の評価

1980年に導入した最初のCTは,往復回転方式による4.8秒/9.6秒スキャンの装置で,心臓CTの場合,通常のスキャン法,ダイナミックスキャン法のほかに,心電図同期法を使用できた。心電図同期法では,まず心電図情報とともに約30秒のスキャンデータ収集を行い,そのデータをマルチセクタ再構成法のように心周期内の時相に合わせ,集め直して画像を再構成していく。しかし,1断面を撮影するのに長い息止めと数十mLの造影剤を必要とすることから,汎用的な検査とは言えなかった。また,通常のスキャン法では動きのブレが強く,人工弁等の金属物からは強烈なアーチファクトが発生するという問題もあった。
これらの問題は,1988年導入の電子ビームCTにより一気に解消された。電子ビームCTのスキャン時間は50ミリ秒/100ミリ秒で,従来のCTより二桁も高速化されたためである。
動物を用いたCT実験では,梗塞心筋は早期相での造影不良または欠損,後期相での過剰濃染を示す現象が報告されていた1)。そこで,われわれは,この2所見の正体を探るべく,電子ビームCTによる100ミリ秒のダイナミックスキャンで造影直後から6分後まで撮影し,正常心筋と梗塞心筋におけるCT値の変化を検討した(図1)。その結果,正常心筋では造影開始直後のファーストパス時にCT値がピークとなって,その後,左室内腔と平行に緩やかに濃染が低下していった。一方,梗塞心筋では,ファーストパス時のCT値のピークがなく,数分後に左室内腔と同程度にまでCT値が上昇していく。このファーストパスの染まらない状態が早期の造影不良で,その後のCT値の上昇が後期の過剰濃染に対応すると考えられた。

図1 電子ビームCTによる心筋の造影効果の検討

図1 電子ビームCTによる心筋の造影効果の検討

 

さらに,時間経過とともに血管内のヨード造影剤が組織間質に漏出して分布スペースが広がる性質を利用し,心筋(M)増加CT値と左室内腔(L)増加CT値の比率(ML比)を算出して,分布スペースを指標化した。このML比は,最近「造影剤分布液量」として用いられる式のヘマトクリットによる補正を除いたものに当たる。その結果,正常心筋では,造影剤注入直後のファーストパスのML比が低く,造影剤の分布スペースも小さいが,注入後2分以降はML比が上昇し平衡状態となった。対して,梗塞巣では,ファーストパスのML比はより低く,2分以降は正常心筋よりも高くなり,その後も上昇を続けるという結果となった。このことから,早期相の造影不良は,血管(床)容積減少を反映しており,間接的に心筋の低灌流あるいは虚血を示すと考えられた。一方で,後期相の過剰濃染は,細胞外スペースの異常拡大を反映するほか,間質への造影剤の蓄積による修飾といった組織構築の改変を基に,梗塞や線維化の病巣を示している(図2)。さらに,心筋梗塞の時期によって,心筋の造影効果が異なるという結果も得られた。これらの研究成果は,1992年に発表している2)
また,早期相の造影不良と心筋虚血の関係について,川崎病症例を対象に電子ビームCTによるジビリダモール負荷造影CTで検討を行い,1995年に発表した3)。本検討では,安静時の虚血検出感度が27%であったのに対し,ジビリダモール負荷造影CTの感度は89%となり,ファーストパスで虚血病巣を十分検出可能であった。

図2 心筋組織構築と造影効果の関連

図2 心筋組織構築と造影効果の関連

 

「NCVCシステム」と冠動脈壁の性状評価

その後,ヘリカルスキャンの開発やマルチスライスCTの登場などCT技術が大きく発展し,いまや心臓CTは日常の検査として広く普及している。しかし,中心となる冠動脈CTAでは狭窄の評価を含む定量的な取り扱いができていない,冠動脈壁の情報を利用し切れていない,冠動脈硬化症の診断とステージングへの応用ができていない,といった課題が残る。そこで,これらの問題解決に向けて,国立循環器病研究センターではNCVCシステムを開発し,さらに日生病院では冠動脈壁の性状評価に取り組んでいる。
NCVCシステムは,2010年頃開発を始めた冠動脈内腔と壁の定量的評価システムで,冠動脈と周辺脂肪組織の境界CT値,内腔と壁の境界CT値を設定して冠動脈外縁と内腔を抽出する。加えて,CT値に基づいて脂質と石灰化を抽出し,三次元画像表示を行う(図3)。さらに,内腔の仮想径,壁の厚み,壁と脂質や石灰化の断面積を計測して,狭窄と壁の状態を定量評価できる(図4)。

図3 NCVCシステムでの冠動脈の三次元表示

図3 NCVCシステムでの冠動脈の三次元表示

 

図4 NCVCシステムでの内腔仮想径と壁厚,壁と壁内脂質および石灰化の断面積の表示

図4 NCVCシステムでの内腔仮想径と壁厚,壁と壁内脂質および石灰化の断面積の表示

 

また,現在取り組んでいる壁の性状評価では,冠動脈CTAでの造影後期に壁の外縁が描出される特性を生かし,造影後期相(2分後)のスキャンを追加した。図5 aの正常例に対し,図5 bの例では,早期相に比べ後期相で冠動脈全体が太く描出されて強い壁肥厚を示すが,図5 cでは,早期相と後期相共に冠動脈が細く瘢痕化している。これを踏まえ,壁の性状について,正常を含め8タイプに分類した。さらに本法では,壁性状と内腔狭窄の程度を組み合わせた冠動脈硬化症の重症度ステージ分類が可能と考えている。

図5 日生病院方式での冠動脈壁の性状評価

図5 日生病院方式での冠動脈壁の性状評価

 

FFR-CTの意義と可能性

最近,心臓CTでトピックとなっているのがFFR-CTである(図6)。冠血流予備量比(FFR)の測定は従来,心臓カテーテル検査で行われていたが,CTで血流シミュレーションにより同様の値が算出できる。冠動脈に狭窄があると,狭窄部で灌流圧が低下して血流量が減少するが,心臓カテーテル検査のFFRは,末梢血管を最大に拡張した時の灌流圧の低下を測定することで,狭窄の重症度を診断する方法である。一般的に,心臓カテーテル検査で冠動脈の狭窄度を測定する場合,内径で50%程度の狭窄から最大血流量が低下し始めることから,50%を超えるものが有意狭窄とされている。しかし,このデータを示したGouldの論文等では,断面積狭窄75%が問題とされていた。心臓カテーテル検査では断面積での評価ができないため,これが径50%に置き換えられた経緯があり,カテーテル検査時の狭窄の重症度評価にFFRを利用せざるを得ない根本的な原因が潜んでいるのではないかと感じる。
一方でCTは,断面積での狭窄度評価も可能な点がカテーテル冠動脈造影よりも優れている。コンピュータシミュレーション技術の目覚ましい進歩から,今後は,冠動脈CTAとFFR-CTの組み合わせが,狭窄度の評価として最も有用となる可能性がある。

図6 FFR-CT(画像提供:シーメンスヘルスケア株式会社)

図6 FFR-CT
(画像提供:シーメンスヘルスケア株式会社)

 

まとめ

上述の心臓CTの歴史を踏まえ,未来に向けた今後の展開を考えると,次の3つのことが言える。まず1つは,冠動脈CTAにはさらなる発展の余地が十分あることである。そして,その基本となるのは,動きのブレがない精密な形態評価である。2つ目として,造影心筋イメージングで定量的な組織構築評価を行う時代になっていくことが挙げられる。それを可能にするためには,造影効果の定量化が大事であり,造影剤量を測定する技術が重要となる。
3つ目は,単純CTによる心筋評価として,心筋CT値に改めて注目すべきである。これは,例えば単純CTの心筋CT値がグリコーゲン蓄積で上昇し,脂肪の蓄積で低下することから,心筋の成分分析的性状評価に有用と考えられるからである。
また,今後の装置開発の方向性としては,時間分解能の向上,空間分解能の向上,coverageの向上に加えて,マルチエナジー応用が挙げられる。これらのうち心臓CTで重要なのは,やはり時間分解能の向上と考える。シーメンスのCTは,スキャンスピードが圧倒的に速く時間分解能が優れており,さらにマルチエナジー応用についても技術が進んでいることから,心臓CTに最も適した装置だと言えよう。

●参考文献
1)CT of the Heart and the Great Vessels ; Experimental Evaluation and Clinical Application. Higgins, C.B., Carlsson, E., Lipton, M.J. ed., New York, Futura Pub. Co., 153〜237, 1983.
2)Naito, H., Saito, H., Takamiya, M., et al. :
Quantitative assessment of myocardial enhancement with iodinated contrast medium in patients with ischemic heart disease by using ultrafast x-ray computed tomography. Invest. Radiol., 27, 436〜442, 1992.
3)Naito, H., Hamada, S., Takamiya, M., et al. : Significance of dipyridamole loading in ultrafast x-ray computed tomography for detection of myocardial ischemia. A study in patients with Kawasaki disease. Invest. Radiol., 30, 389〜395, 1995.

 

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