Low kV, Low Contrast Medium 
当院の循環器領域における低管電圧・低造影剤量撮影の取り組みとその応用について 
静 毅人(独立行政法人国立病院機構 高崎総合医療センター心臓・脳血管カテーテルセンター/循環器内科)
<Session IV Frontier of Cardiac CT>

2014-11-25


静 毅人(独立行政法人国立病院機構 高崎総合医療センター心臓・脳血管カテーテルセンター/循環器内科)

当院では2012年6月より,次世代型検出器Stellar Detectorを搭載したDual Source CT「SOMATOM Definition Flash」(以下,Definition Flash)が稼働しており,Low kVでCoronary CTAを撮影している。本講演では,当院におけるLow kV Coronary CTAの実際,また現在,積極的に行っているglobal vascular interventionに対するLow kV CT撮影のアプローチについて述べる。

当院におけるLow kV Coronary CTAについて

Definition Flash導入後,2012年6〜11月の5か月間で286例のCoronary CTAをProspective-spiral Scanningで行っている。このうちの約6割(180例)は,被ばく線量が1mSv以下で撮影可能なFlash Spiral Cardio Modeを使用し,導入当初2か月間の72例については自動管電圧最適化機構“CARE kV”を用いて100 or 120kVで,それ以降の108例は80 or 100kVで撮影している。
当院の撮影プロトコルは,pitch factor3.4,SAFIRE strength3,Kernel I36fとし,Flash Spiral Cardio Modeを用いるために,心拍数65bpm以上はβブロッカーを投与している。

画質および造影剤量に関する検討

前述のCARE kV100 or 120kV群(100kV:71例,120kV:1例)と80 or 100kV群(80kV:64例,100kV:44例)について画質評価を行った。ROIを左冠動脈(LCA)分岐の高さの上行大動脈(Ao)および冠動脈主幹部(LM)起始部と周囲の脂肪組織(BG)にできるだけ大きく設定し,LMのCT値からBGのCT値を減算し,それをAoのSDで除してCNRを求めた。視覚評価は,excellent,good,fair,poorの4段階で行った。また,BMIは有意差がないよう調整した。
その結果,CNRは100 or 120kV群の方が有意に高かったが,視覚評価では両者に差はなく,被ばく線量は100 or 120kV群の約0.8mSvに対し80 or 100kV群では約0.6mSvに,また,造影剤量も約60mLから43.7mLに低減できた。
さらに,当院ではCARE kVを使用しており,BMI:26程度の患者は100kV,22程度の患者は80kVが選択されているが,両者を比較したところ,被ばく線量は100kVでは約0.8mSv,80kVでは約0.4mSvと,ほぼ半減することがわかった。造影剤量も100kVでは約47mL,80kVでは約41mLと低減しているにもかかわらずCNRが高く,視覚評価でも優れていた。80kVの実際の画像を見ても,良好な画質が得られていることがわかる(図1)。

図1 80kVのCoronary CTAの視覚評価 CNRは違うが両方とも良好な画像が得られている。

図1 80kVのCoronary CTAの視覚評価
CNRは違うが両方とも良好な画像が得られている。

 

Global vascular interventionへのLow kV CTのアプローチ

1)実施の背景
当院は,2013年に心臓・脳血管カテーテルセンターを開設した。腎動脈なども含めた末梢動脈疾患(PAD)の約50%に冠動脈病変が存在すると報告されているほか,冠動脈病変の約10%にPADが併存し,PADの有無が冠動脈病変の治療の予後に影響すると言われている。当センターでは循環器内科,心臓血管外科,脳神経外科がチームとなって,全身の動脈硬化の治療を目的としたglobal vascular interventionを行っている。
また,Coronary CTAの施行に当たり,当院ではABI(ankle brachial pressure index)検査を行っており,ABIが1.0未満もしくは1.4以上の患者には腎動脈・下肢動脈CTAを追加し(冠動脈・腎動脈・下肢動脈CTA一括撮影:以下,一括撮影),全身の動脈硬化のスクリーニングを行っている。ABIの適応は,日本循環器学会の『血管機能の非侵襲的評価法に関するガイドライン』(2013)に示されているが,基本的にCoronary CTAは全例に適応となる。
ただし,一括撮影では,造影剤量および被ばく線量の増加,撮影時間の延長,また,下肢動脈の撮影に当たっては最適な撮影タイミングの設定が課題となる。

2)造影剤量,被ばく線量の低減
上記の課題のうち,造影剤量については前述のとおり,CARE kVを用いて80kVもしくは100kVで撮影することで約44mLに低減できる。また,Coronary CTAの被ばく線量は,Flash Spiral Cardio Modeでは0.6mSv,Normal Modeでは5.1mSvでの撮影が可能である。さらにDefinition Flash導入当初は,DS Chest Pain Modeにて冠動脈のpitch factorに合わせて一括撮影を行っていたが,被ばく線量が約40mSvだったため,現在は冠動脈と腎動脈・下肢動脈を分けて撮影することで被ばく低減を図っている。

3)ワークフローの改善
当院では現在,Test Bolus Tracking(TBT)法を使用して一括撮影を行っている。TBT法では,Time Density Curve(TDC)を確認して撮影タイミングを決定する。利点としては,(1) 造影剤の投与を2回に分けないので心拍数の変動に強く失敗が少ない,(2) 穿刺の失敗が少ない,(3) 真のピークをとらえやすいので造影剤量が低減できる,などが挙げられる。
図2に,一括撮影における造影剤注入法の変遷を示す。当初は造影剤1回注入法(図2 (1))で行っていたが,Flash Spiral Cardio Modeでは途中で造影剤を追い抜いてしまうため,腎動脈・下肢動脈は染まっていないタイミングとなる。そこで,造影剤分割注入法(図2 (2))に切り替えたが,撮影時間が延長するため,現在は造影剤分割一連注入法(図2 (3))にて撮影を行っている(図3)。

図2 冠動脈・腎動脈・下肢動脈CTA一括撮影における造影剤注入法の変遷

図2 冠動脈・腎動脈・下肢動脈CTA一括撮影における造影剤注入法の変遷

 

図3 TBT法を応用した造影剤分割一連注入のワークフロー

図3 TBT法を応用した造影剤分割一連注入のワークフロー
冠動脈の造影剤注入後30秒あけて下肢分の造影剤を連続注入。
横隔膜レベルにてテストスキャンを行い下肢CTA撮影開始。

 

4)撮影管電圧による造影効果の比較
撮影管電圧はCARE kVを用いて決定しているが,腎動脈・下肢動脈CTAは当初は冠動脈撮影時と同じ管電圧としていた。造影剤分割一連注入を行った59例のうち,BMI:22程度の28例は80kV,BMI:25程度の31例は100kVが選択されたが,造影効果を比較したところ,どちらもほぼ同等の画像が得られたため,現在はいずれの症例も80kVで撮影している。
2013年9月〜2014年6月までにCoronary CTAを施行した763例のうち,腎動脈・下肢動脈CTAを追加した連続97例について,80 or 100kVで撮影した群と80kVで統一した群の2群に分けて,被ばく線量や造影剤量について検討した。その結果,被ばく線量は,80 or 100kV群のCoronary CTAが4.3mSv,腎動脈・下肢動脈CTAが5.6mSv,計約10mSvであったのに対し,80kV群のCoronary CTAは4.8mSv,腎動脈・下肢動脈CTAは2.1mSvとなり,計約7mSvに低減できた。造影剤量も57.6mLから51.3mLに低減された(図4)。また,CT値では両群の造影効果に差はなく,SDについては80kVの方が腹部で若干高かったものの,CNRおよび視覚による画質評価で有意差は認められなかった。

図4 80/100kV群と80kV群の被ばく線量および造影剤量の比較

図4 80/100kV群と80kV群の被ばく線量および造影剤量の比較

 

症例提示

症例は75歳,男性。2012年から右目が全体的に霞む症状が出現し,2013年3月に当院脳神経外科を紹介受診した。右内頸動脈狭窄を認め,内頸動脈ステント留置術の適応であった。糖尿病の加療中であり,心電図変化を認めたため,無症状ではあるが動脈硬化スクリーニング精査目的にて循環器内科を受診した。ABIは右が0.89で異常値,左も境界値であった。そこで一括撮影を行ったところ,左前下行枝(LAD)の狭窄,浅大腿動脈(SFA)の完全閉塞,右腎動脈起始部に75%狭窄が認められた(図5)。さらに,冠血流予備量比を測定したところLADは0.71,右腎動脈は0.70であり,超音波検査でも腎動脈の高速血流が認められた。
このため,本症例はまず頸動脈の治療を行い,続いてLMからLADの経皮的冠動脈形成術と,腎動脈およびSFAの末梢血管インターベンションが施行された。

図5 症例:冠動脈・腎動脈・下肢動脈CTA一括撮影

図5 症例:冠動脈・腎動脈・下肢動脈CTA一括撮影

 

まとめ

日常診療においても冠動脈疾患はもとより,潜在的に合併する頸動脈病変を含めた末梢動脈疾患にも注意を向ける必要があり,広範囲の情報を収集しやすいCTは,global vascular interventionにおいて非常に有効であると考える。一方,CTA撮影においては画質を低下させずに被ばく線量と造影剤量の低減が求められるが,画質改善・低被ばく技術の上に成り立っているLow kV領域の撮影は,その適用をより促すためのCARE kVなど実践的なツールを搭載したシーメンス社がリードしており,さらに最新の「SOMATOM Force」に代表される技術革新により,ますます発展していくと考えている。

 

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