技術解説(フィリップス・ジャパン)

2013年4月号

Cardiac Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

心臓領域の検査におけるPhilips PET/MR装置の最新情報

新山 大樹(ヘルスケア事業部ISアブリケーションサポートAMI)

■PET/MR装置による心臓領域検査へのClinical Solutions

全身用の統合型PET/MR装置は,PETの持つ新たな可能性として高い注目を集める中で市場に登場した。従来のPET/CT装置においても,PET画像とCT画像による複合的な情報が多くの臨床診断に役立ってきたが,PET/MR装置では,CTでは不得意であった部分を補う要素が期待されている。例えば,X線吸収差の小さかった部分が,MRIの特徴である優れた組織コントラストにより,明瞭な解剖学的(形態)情報を取得することができる。Philipsは2008年,初の全身統合型PET/MR装置として「Ingenuity TF PET/MR」を発表した(図1)。これらは,特にOncology領域,Neurology領域,そしてCardiology領域においても,これまでのPET/CT装置にはなかったまったく新しい情報を,臨床や研究の場にもたらすことが期待されている。
図2は,Ingenuity TF PET/MRでの造影MRIとFDG-PET検査による心筋PET/MR画像である。ここでは,造影MRIだけでは得られなかった情報が,PETとの融合画像により得られている。
図3は,同じくIngenuity TF PET/MRによる血管内プラーク画像である。CT画像では血流と血管壁のコントラストが不明瞭であるが,MRIではBlack Blood Imaging(BBI)により血管内腔の信号を抑制することで,血管壁の明瞭な描出が可能となっている。

図1 Philips Ingenuity TF PET/MR

図1 Philips Ingenuity TF PET/MR

 

図2 Ingenuity TF PET/MRによる心筋画像

図2 Ingenuity TF PET/MRによる心筋画像
(Courtesy of University Hospitals of Geneva)

 

図3 Ingenuity TF PET/MRによる血管内プラーク画像

図3 Ingenuity TF PET/MRによる血管内プラーク画像
(Courtesy of Mount Sinai School of Medicine)

 

■心臓領域への検査におけるPhilips PET/MR装置の特徴

心筋検査においては,心電同期のデバイスが付属することが必須である。PET装置とMRI装置が独立した環境に比べて,統合型のPET/MR装置では被検者の近くで管理でき,操作も1つのコンソールから行えるので効率的な運用が可能となる。また,Ingenuity TF PET/MRは,PET部とMRI部が分離しており,PET検査中スタッフによる被検者へのアプローチが容易である。このことは,心筋dynamic PET検査などを行う上で,デザイン上重要なものとなる(図4)。

図4 Ingenuity TF PET/MRのデザイン

図4 Ingenuity TF PET/MRのデザイン
PET部はMRI部分と独立したデザインとなっており,スタッフは心筋PET検査時において被検者へのアクセスが容易となっている。

 

PET部分に搭載されているTime of Flight技術は,今後の臨床診断において重要なものであることが,すでに多くの文献等により明らかとなっている。Time of Flight効果は,180°方向に検出した消滅放射線の発生位置をLine of Responseとして処理するのではなく,到達時間の差を計算することで,ある程度の位置まで絞り込んで正規分布にて特定するものである(図5)。この技術により,従来のPET画像に比べ多くのバックグラウンドノイズが低減されることで,SNRおよびコントラストの向上が実現されている。MRIにおいては,すでに国内でも3T MRIが多く導入されているが,PET/MR装置におけるMRIも3Tが採用されている。3T MRIはMR信号が強いため,1.5T MRIに比べ短時間での検査が可能であり,より薄いスライスや高分解能撮像により信頼性の向上が期待できる一方,体幹部においてはSARの制限や,RFの送信ムラによる感度ムラや,脂肪抑制不良などの課題を抱えていた。PET/MR装置のMRI部には,これらを改善するためのMultiTransmit技術が搭載されており,被検者ごとにRF送信の最適化をすることによって,こういった問題を解決し,常に安定した画像を得ることができる(図6)。
また,PET/MR検査がPET/CT検査と大きく異なる部分に,MRIによる減弱補正がある。Ingenuity TF PET/MRは,MRベースの減弱マップを作成するにあたり,3セグメントのアプローチを導入しており,初期評価においてPET/MR装置により取得されたPET画像は,定性的にもPET/CT装置に匹敵する良好な画像を示していた。

図5 Time of Flight の基本概念

図5 Time of Flight の基本概念
従来のPET画像は,確率的にLine of Response上すべての位置を発生源として特定しなければならないことに対し,Time of Flightはある特定の範囲まで絞り込んで特定することができる。

 

図6 3T MRI装置におけるMultiTransmit技術

図6 3T MRI装置におけるMultiTransmit技術
MultiTransmitでは,被検者によっては人体の中でRF分布が不均一になる場合,複数のRF送信源より被検者ごとにRF調節を行い,RFパルスを細かくコントロールすることが可能である。

 

■PET/MR画像の表示・解析アプリケーションの紹介

PET/MR装置の解析ソリューションとして,本項ではPhilipsの解析装置である「IntelliSpace Portal NM」(以下,ISP-NM)を紹介する。ISP-NMは,サーバをメインとしたクライアント形のワークステーションであり,1台のサーバで複数の端末による運用が可能となり,場所を問わずワークステーション解析が可能となる。ISP-NMには,先進のアプリケーションが多く搭載されており,特にPET心筋検査においても,虚血性心疾患などの解析に重要なツールを備えている(図7)。

図7 IntelliSpace Portal NM

図7 IntelliSpace Portal NM
1台のサーバに複数のクライアントからアクセスし,利用することが可能。心筋PET/MR画像の表示・解析のみならず,マルチモダリティ画像への対応を実現している。

 

Cardiology領域においてPET/MR装置が研究される項目としては,血管の炎症性プラークイメージングや心筋viability判別への応用,心筋核医学検査としての分解能向上,PETとMRIのアライメント向上,幹細胞モニタリングの可能性などが期待されている。統合型のPET/MR装置は,まったく新しいモダリティとしてリリースされたばかりであり,今日の時点で臨床的な情報は少ないが,今後多くの研究や発表により,PET/MR装置ならではの有用性が診断の発展に利用されることを期待したい。

 

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