技術解説(日立製作所)

2017年9月号

Step up MRI 2017 MRI技術開発の最前線

日立1.5T MRI「ECHELON Smart」に搭載された静音化技術と応用

八杉 幸浩((株)日立製作所ヘルスケアビジネスユニット)

日立が新たに投入した超電導MRI装置「ECHELON Smart」(図1)の特徴的技術として,独自に開発した静音化技術を搭載した。これは,撮像における騒音を,従来と比べ最大で1/10以下に低減しつつ,画像コントラストや撮像時間に与える影響を抑えたものである。本稿では,この技術手法と,その発展としてモーションアーチファクトを低減するラジアルスキャン法との併用について述べる。

図1 1.5T 超電導MRI ECHELON Smart

図1 1.5T 超電導MRI ECHELON Smart

 

■静音化手法の概要

一般的に,超電導MRI装置での撮像における騒音は,100dB(A)〔dB(A)は聴感補正をした騒音の絶対レベル〕を超える大きなものであり,検査の際には耳栓などの聴覚保護具の装着が必須の状況となっている。検査環境を改善するために,この騒音レベルを低減する手法が各種試みられているが,画像コントラストに与える影響,撮像時間が延長するなどの問題点があった。今回新たに開発した騒音低減手法は,これらの問題点を改善していることがポイントである。また,適用できるパルスシーケンスも,通常の脳ドック検査などで用いるルーチン検査に対応する自由度を備え,さらに,ソフトウエアによる制御であるため,特別にハードウエアを必要としないコスト的なメリットもある。
MRIの撮像音は,1.5Tなどの強力な静磁場環境に,数百Aにも達する傾斜磁場制御のパルス電流が印加されることによる電磁振動に起因している。特に,昨今のハイスリューレートを誇る高磁場MRIでは,騒音が増大する傾向にある。
ところが,せっかくのスリューレートを抑えて騒音を低減する従来の手法では,TEが延長するなどの弊害があり,画質への影響は避けられない。つまり,傾斜磁場印加のエネルギーを維持した状態での静音化手法が要求される。
図2に,A特性と呼ばれるヒトの聴覚の周波数特性を示す。図のように1kHz付近を最大感度として,100Hz付近では−20dBとなり,同じ音圧でもヒトには1/10に聞こえることがわかる。したがって,傾斜磁場振動に伴う騒音の音響周波数を,1kHz程度の高い周波数帯から100Hz程度の低い周波数帯にシフトすることで,聴感上の不快感を改善することが可能となる。
この騒音の低音シフト手段は,傾斜磁場波形を変更することで行われる。もちろん,この時,印加傾斜磁場のエネルギーである強度と時間の積が同一であることが重要である。

図2 騒音レベル:A特性

図2 騒音レベル:A特性

 

パルスシーケンスにおける傾斜磁場印加パターンの最適化の一例を図3に示す。これは,以下のような最適化が行われていることがわかる。
● 印加波形のエッジ調整
● リフェーズパルスの合成化
● エンコードパルスの形状変形
しかし,現実のMRI装置でパルスシーケンス波形を調整しながら騒音レベルを計測する作業は容易ではなく,これまで傾斜磁場印加波形の最適化を行うことはきわめて困難であった。そこで,この作業に高度なシミュレーション技術を導入した。

図3 傾斜磁場パルスの最適化

図3 傾斜磁場パルスの最適化

 

図4は,日立の研究部門が開発したMRIパルスシーケンスシミュレータ“シーケンスエディタ”による最適化手順を示している。傾斜磁場コイルの構造共振,超電導磁石ボビンの固有振動など,多くの音響共振点を有するMRI装置のガントリは,特定の周波数で共振作用が生じ,装置固有の独特の撮像音を発生する。そこでまず,実際のMRI装置でサイン波スイープ信号を傾斜磁場コイルに印加し,装置固有の振動音の周波数特性H(f)を計測する。これに,シーケンスエディタで合成した発生音G(f)をコンボリューションすることで,撮像音圧P(f)を求めることができる。この撮像音圧に,図2のA特性を補正した聴感音圧(騒音)ができるだけ少なくなるように,パルスシーケンスg(t)の印加パターンを繰り返し調整する。最後に,実際のMRI装置で微調整を行うことにより,最適解を得ることができる。
ECHELON Smartに,この手法による静音化技術が搭載されたことは,シーケンスエディタが完成し,撮像音の正確な合成が可能になったという点が大きい。

図4 シーケンスシミュレータの手順

図4 シーケンスシミュレータの手順

 

■騒音低減効果と画像例

図5に,通常撮像と静音化シーケンスによる頭部画像例を示す。画像コントラスト,撮像時間にほぼ影響のないことがわかる。また,各種撮像シーケンスにおける騒音低減率を表1に示す。装置設定用のプリスキャンを含め,各種ルーチン検査のシーケンスにおいて,最大で1/10以下の撮像音に低減することができた。

図5 頭部画像例

図5 頭部画像例

 

表1 各種シーケンスによる撮像音低減率

表1 各種シーケンスによる撮像音低減率

 

■ラジアルスキャン“RADAR”の併用

本静音化手法は,傾斜磁場波形の変形による手法であるため,多くのパルスシーケンスに展開できる可能性がある。
ラジアルスキャン技術を用いてモーションアーチファクトを低減する手法は一般的であり,日立ではRADARとして装置に搭載している。RADARは,k空間を回転状にデータ採取することで,位相エンコード方向に収束するモーションアーチファクトを分散し,さらに,k空間中央部の加算効果により,動きの影響を低減した撮像を行うものである。
RADARに静音化技術を適用した肩関節の画像例を図6に示す。この撮像で撮像音を88%抑制(−19dB)し,モーションアーチファクトの低減と静音化を両立した画像が得られている。

図6 肩関節画像例(RADAR併用)

図6 肩関節画像例(RADAR併用)

 

シミュレータによる机上最適化手法を導入した静音化技術の開発により,MRIの撮像音を最大で1/10以下に抑制し,画像コントラストや撮像時間などへの影響をほとんどなくすことで,実用的な静音化撮像を実現した。ルーチン検査に用いる多くのパルスシーケンスに適用でき,さらにラジアルスキャンRADARを併用することで,モーションアーチファクトによる再撮像のリスクも低減した,快適な撮像環境の提供に寄与するものと期待している。

 

●問い合わせ先
株式会社日立製作所
ヘルスケアビジネスユニット
〒110-0015
東京都台東区東上野2-16-1
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http://www.hitachi.co.jp/healthcare

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