技術解説(富士フイルムヘルスケア)

2016年4月号

Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

信頼性表示機能を有する肝臓エラストグラフィ“Shear Wave Measurement”

園山 輝幸(第一技術開発部)

超音波を用いて組織の硬さを計測するエラストグラフィ機能が普及しつつある。肝臓領域においては,剪断波の伝播速度を定量的に検出するshear wave elastographyが近年盛んに用いられるようになった。このたび日立では,信頼性表示機能を有するshear wave elastographyとして“Shear Wave Measurement(SWM)”*1を開発した。SWMでは,計測ごとに信頼性指標を算出するため,硬さの定量評価だけではなく計測結果の妥当性も定量的に判断することが可能となった。本稿では,日立の最新機能であるSWMの紹介と信頼性指標について解説する。

■肝臓エラストグラフィ

慢性肝炎では線維化の進展に伴って肝臓が硬くなり,発がんのリスクが高くなることが知られている。超音波で組織の硬さを測ることができるエラストグラフィは,簡便で非侵襲的に測定できるため,肝硬度の判断や投薬効果の判定でも頻回に使用することができ,臨床での普及が期待されている。特に剪断波伝播速度(shear wave velocity:Vs)を検出するshear wave elastographyでは定量値を算出でき,検査者依存の少ない測定法として期待されている。一方で,被検者の息止めや体動,検査者の手振れなどによる外乱の影響で,Vsだけでは計測結果が妥当であったかどうかを判断することが困難な場合がある。そこで,日立の超音波診断装置「ARIETTA S70」*2図1)と「HI VISION Ascendus」*3に搭載したSWMでは,計測の妥当性を定量的に評価できる新指標VsNを搭載した1)

図1 ARIETTA S70

図1 ARIETTA S70

 

■信頼性指標VsN

SWMの基本原理を説明する。SWMでは1回のボタン操作で複数回の剪断波検出シーケンスを繰り返している。このシーケンスでは,剪断波発生用のプッシュパルス送信の後で,プッシュパルスから間隔を少しずつ離した2方向に剪断波ピーク検出用のトラックパルスを送受信している。この2方向でのトラックパルスの距離差と剪断波到達時間差からVsを求め,さらにROI内深度方向の複数点のVsから得られるVs集合を統計的に利用している。Vs集合に対して後述する3つの条件で棄却処理を行い,棄却後のVs集合の割合(棄却後のVs数/棄却前の全Vs数で定義)を,Vs有効率としてパーセント表示している。このVs有効率のことを,正味の数量を意味する英単語「Net」の頭文字を用いてVsNと呼称している。また,棄却後Vs集合のヒストグラムから,統計値としてVsの中央値と四分位範囲(inter quartile range:IQR)を算出して表示している。以下に3つの棄却条件について説明する(図2の(1)〜(3))。

図2 VsNの棄却条件模式図

図2 VsNの棄却条件模式図

 

1.Vsがマイナスのとき
剪断波の乱れなどでプッシュパルスから距離が近い側のトラックパルスよりも遠い側のトラックパルスの方が時間的に手前でピーク検出された場合に,Vsがマイナスになる。このときは,剪断波を正しく検出できていないため棄却する。

2.Vsが特定の範囲以外のとき
Vsが取りうる値は,診断の対象となる臓器や組織の違いによって,臨床的にある程度の範囲に収まることが期待される。これを逸脱した場合は,剪断波の誤検出と見なして棄却する。この範囲は診断対象ごとに異なり,現在のSWMは肝臓を対象としているため,この範囲を0.7〜4.0m/sとしている。さらに,肝臓では3.0m/s以下での精度を確保することが重要と考えて,この値を基にプッシュ-トラック間隔の調整を行っている。北米放射線学会(RSNA)のQuantitative Imaging Biomarkers Alliance(QIBA)の報告2)によると,肝生検F4でのVs分布の第3四分位点が3.0m/s程度となっていることから4.0m/sで上限を設けることは妥当と考えている。

3.特定の深度で位相ゆらぎが観測されたとき
肝臓実質部では,心拍による微小血管の動きや脈管血流によってエコー信号が時間的にゆらいでしまい,このゆらぎと剪断波とが重なることで剪断波検出の妨げになることがある。この位相ゆらぎを検出し棄却している。
図2の棄却条件(1)〜(3)によって,剪断波伝播を正しく検出できたかということと,ROI内に剪断波以外の不要成分がなかったかということを判定しており,その結果としてVsNを表示している。図3では,肝実質部が明瞭にとらえられており,VsNも100%と高い信頼度を示している(図3)。一方,図4では血管がROIに入っているためVsNが27%と低値になっており(図4),計測の信頼度が劣ることが定量的に認識できる。

図3 SWM計測後の画面:高VsNの結果例

図3 SWM計測後の画面:高VsNの結果例

 

図4 SWM計測後の画面:低VsNの結果例

図4 SWM計測後の画面:低VsNの結果例

 

■SWM操作方法

SWMの操作手順を図5に示す。SWMモードに入ると,計測ROIが表示される。ROIを動かして計測位置を決めてから操作パネルの測定ボタンを押下することでSWM計測が開始され,自動フリーズ後に計測結果がモニタに表示される。この時,同時にフリーズ時の画像が自動保存されるようになっている。そして,クーリング時間の約2秒経過後にフリーズが解除できるようになる。このように,SWMではワンボタンでVs計測と画像自動保存が可能であるため,簡便に短時間で繰り返して計測することが可能である。また,ARIETTA S70の計測レポート画面では,10回までの計測結果を一覧表示でき,10回計測の中央値(Median)と平均値(Mean)などの統計量も表示できるようになっているため,患者ごとの計測結果の確認が容易に可能である(図6)。

図5 SWM操作手順

図5 SWM操作手順

 

図6 ARIETTA S70のSWM計測レポート画面

図6 ARIETTA S70のSWM計測レポート画面

 

日立のshear wave imagingであるSWMの原理や特長的な機能である信頼性指標VsNについて解説した。SWMとVsNの臨床的有用性についての評価も進んでおり3),今後strain imagingである“Real-time Tissue Elastography(RTE)”4)と併用し,SWMとRTEのそれぞれのメリットを生かした機能を開発することで,日立はエラストグラフィのさらなる発展に貢献していきたい。

*1 本稿にはオプション機能が含まれています。
*2 ARIETTAは日立アロカメディカル株式会社の登録商標です。
*3 HI VISION Ascendusは株式会社日立メディコの登録商標です。

●参考文献
1)園山輝幸・他 : 信頼性表示機能を有するShear Wave Measurementの開発. MEDIX, 63, 40~44, 2015.
2)Cohen-Bacrie, C., et al. : QIBA Technical Committee for Shear Wave Speed Measurement. RSNA 98th Scientific Assembly and Annu. Meeting(Poster), 2012.
3)Yada, N., et al. : A newly developed shear wave elastography modality ; With a unique reliability index. Oncology, 89(Suppl. 2), 53~59, 2015.
4)外村明子・他 : Strain Histogram計測機能の開発と肝臓領域への臨床応用. MEDIX, 54,
37~41, 2011.

 

●問い合わせ先
株式会社日立製作所
ヘルスケアビジネスユニット マーケティング本部
〒110-0015
東京都台東区東上野2-16-1 上野イーストタワー
TEL:03-6284-3100
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