FEATURE 
まえだ脳神経外科・眼科クリニック 
限られたスペースにも設置可能な1.5T MRI「ECHELON Smart」がクリニックの診療を変える 
永久磁石型オープンMRI「APERTO Inspire」からの更新で,地域医療へのさらなる貢献を期待

2017-9-25


まえだ脳神経外科・眼科クリニック

超電導MRIの新たな選択肢として登場した1.5T MRIシステム「ECHELON Smart」。静音化技術や省エネ機能に加え,オープンMRIからのリプレイスのしやすさが特長の一つとなっている。佐賀県小城市の「まえだ脳神経外科・眼科クリニック」は,より高度なMRI検査を提供するため,開院時からの永久磁石型0.4TオープンMRI「APERTO Inspire」をECHELON Smartに更新することを決め,2017年9月の稼働をめざして準備が進められている。ECHELON Smartへの更新のねらいや期待について取材した。

オープンMRIを診療に活用する脳神経外科・眼科併設クリニック

まえだ脳神経外科・眼科クリニックは,クリニックや保険薬局を集約した医療施設「メディカルモールおぎ」(佐賀県小城市)に,2008年8月に開院した。メディカルモールおぎには同クリニックのほか,小児科・アレルギー科,消化器内科・外科,耳鼻咽喉科,皮膚科のクリニックが開業しており,地域住民を支える医療サービスをワンストップで提供している。
佐賀県立病院好生館(現・佐賀県医療センター好生館)で脳神経外科医長を務めていた前田健二院長は,中核病院の外来に集中する患者を地域でふるい分けし,機能分化を進めて病院の負担を軽減する必要性を感じていた。そこで,妻で眼科医の友子副院長とともに,地域医療を担う同クリニックの開業を決めた。脳神経外科と眼科の連携について,前田院長は,「両科はオーバーラップする領域があります。例えば,眼球運動障害や視野異常など眼科の症状で来院する患者さんの中には,神経疾患に起因するケースもあります。眼科を受診して脳梗塞や脳腫瘍が疑われる場合に,そのまますぐに脳神経外科を受診して検査ができるのは,当院の強みであると考えています」と述べる。
脳神経外科には,頭痛やめまい,痺れなどを主訴とした患者を中心に,1日あたり50名ほどが来院する。前田院長は,脳神経領域の診療にMRIは必須との考えから,すぐに検査ができる環境を整えるため,開院と同時に日立製作所社製の永久磁石型0.4TオープンMRI「APERTO Inspire」を導入した。
「自院でスクリーニング検査を行うことを目的に,ランニングコストが安価なオープンMRIを導入しました。永久磁石型の中でもAPERTO Inspireは画質が良く,治療が必要な症例をピックアップし,病院につなげるための診療はできると考えました」(前田院長)

前田健二 院長

前田健二 院長

 

 

アップグレードで画質が向上し,患者の負担も軽減

MRI検査は,診療では当日検査を基本とし, 1日あたり5〜10件ほどの検査を行っている。メディカルモール内の他院を中心とした紹介検査にも,可能なかぎり当日対応できる体制を整えた。頭痛の患者で頭蓋内病変を疑う場合には必ず施行するほか,眼科を受診した患者で,視野障害,眼球運動障害,眼瞼下垂などで頭蓋内病変の鑑別を要する場合や,一過性黒内障で脳虚血を評価したい場合などで施行している。
また,認知症疑いでMRI検査を施行することも多い。物忘れで来院する患者はあまり想定していなかったが,ニーズが高いことに気づいた前田院長は,開院後に認知症を学び,認知症専門医を取得した。脳神経外科専門医には少ない認知症専門医として,適切な診療の提供に努めている。
同クリニックのAPERTO Inspireは,2015年2月にコンソールとMRIユニット,システムソフトウエアを更新し,最新のオープンMRIと同等のシステムへとアップグレードした。その効果について前田院長は,「拡散強調画像(DWI)の画質が向上したほか,T1強調画像の画質も良くなっており,皮髄境界が見やすくなっています。また,撮像スピードが上がったため患者さんの負担が軽減し,体動も少なくなることで診断しやすい画像を得られるようになりました」と評価する。
検査を担当する谷水久夫技師は,アップグレードによる変化を次のように話す。
「傾斜磁場のスルーレートが非常に向上したことで,画質や空間分解能が上がり,撮像時間も各シーケンスで1〜2分短縮しています。実用的な検査時間でマルチフェーズ撮像が可能になったこともあり,DWIの画質はかなり良くなったと思います。また,コンソールがWindowsベースになったため,操作性も良くなりましたし,処理速度も向上してストレスがなくなりました」
同クリニックでは眼科や紹介による他院の検査も行うため,脂肪抑制を必要とする症例も多い。谷水技師は,アップグレードによりCHESS法やDIXON法の処理が高速化し,積極的に撮像できるようになったと述べている。

永久磁石型オープンMRI「APERTO Inspire」

永久磁石型オープンMRI「APERTO Inspire」

2014年に更新した16列マルチスライスCT「Supria」

2014年に更新した16列マルチスライスCT「Supria」

   
MRI・CTの操作室兼機械室

MRI・CTの操作室兼機械室

谷水久夫 技師

谷水久夫 技師

   
アップグレードにより操作性が向上したAPERTO Inspireのコンソール

アップグレードにより操作性が向上した
APERTO Inspireのコンソール

 

 

MRI検査室の広さを変えずに1.5T MRIへのリプレイスを実現

開院から10年近くが経過しても,APERTO Inspireは安定稼働を続けてきた。前田院長はAPERTO Inspireについて,信頼性の高さに加え,ランニングコストが安く経営的にもプラスになっていることや,オープン型のため閉所恐怖症の患者や子どもでも検査しやすいことも高く評価している。前田院長は,いずれは高磁場MRIを導入したいと考えていたが,ある出来事がその思いを行動へと変えるきっかけになった。道路交通法の改正だ。
「2017年3月から,75歳以上の高齢者が運転免許を更新,あるいは違反行為があった場合などに,認知機能検査を受け,認知症の恐れがあれば医師による診断が必要になりました。運転の可否にかかわることなので,しっかりと診断しなければなりません。VSRADを使えればより確実な診断が可能になりますし,画像診断の根拠を数値で明示した方が,患者さんにも納得してもらえると考えました」(前田院長)
また,高磁場MRIへの更新の背景には,早期アルツハイマー型認知症診断支援システム“VSRAD”の導入に加え,画質への要望もあった。前田院長は,「MRAは磁場中心ではよく見えるのですが,動脈瘤の好発部位である後下小脳動脈起始部から前大脳動脈の上の方まで,一度に広く見ることは難しく,TOFのスラブの角度を変えるなど工夫が必要でした」と説明する。
2016年秋頃より,高磁場MRI更新に向けて情報収集を開始したが,APERTO Inspireから1.5T MRIへのリプレイスに当たっては課題もあった。
「1.5T MRIを導入するには今のスペースでは無理で,別棟を建てなければならないと考えていましたが,ECHELON Smartは現在のMRI検査室に設置可能だとわかりました」と前田院長。ECHELON Smartは省スペースとフレキシブルな配置が特長の一つとなっている。MRI本体と電源ユニット間のケーブルを延長したことで,機械室を自由にレイアウトでき,オープンMRIを設置できるスペースがあれば導入可能である。同クリニックの場合,APERTO Inspireの検査室の広さを変えることなく,ECHELON Smartの設置が可能であった。
装置選定時,ECHELON Smartは発売前だったため,実機を見る機会はなかったが,前田院長は開院時からのAPERTO Inspireの高い安定性に信頼を寄せ,ECHELON Smart導入を決定した。

装置更新前後のMRI室レイアウト 検査室のスペースを変えることなく,APERTO Inspire(上)からECHELON Smart(下)への更新が可能となった。

装置更新前後のMRI室レイアウト 検査室のスペースを変えることなく,APERTO Inspire(上)からECHELON Smart(下)への更新が可能となった。

 

高機能アプリケーションで診療の幅を広げる“静かな”1.5T MRIへの期待

柔軟な設置性のほかにも,前田院長が選定において評価し,ECHELON Smartに期待しているのが静音化だ。日立独自の静音化技術“Smart Comfort”は,傾斜磁場パルスの形状を見直し,撮像パラメータを調整することで,従来装置と撮像時間や画質をほとんど変えずに,撮像音を最大94%低減する。シーケンスにもよるが,永久磁石型で静かなAPERTO Inspireと比べても,ほぼ同等,あるいは数デシベル高い程度の撮像音を実現した。撮像音のサンプルを試聴した前田院長は,「音質も変わっていて,不快感が少なくなっているように感じました。オープン型と比べてガントリは狭くなりますが,音が静かになることで患者さんのストレスを少しでも軽減できればと思います」と話す。
0.4Tから1.5Tになることで画質や撮像スピードが向上し,シーケンスの幅も広がる。ECHELON Smartが臨床にもたらすメリットとして,前田院長は超急性期虚血の検出などを可能にする高い画質に加え,特にBSI(磁化率強調画像)とプラークイメージング,冠動脈MRAに期待していると述べ,次のように説明する。
「BSIはルーチン検査に追加したいと考えています。例えば,ラクナ梗塞の患者さんでもBSIで微小脳出血が多いことがわかれば,抗血小板薬の使用を回避し,血圧コントロールのさじ加減を判断できます。脳動静脈奇形や動静脈瘻なども見えやすくなると期待しています。脳梗塞では頸動脈プラークの検査も必ず行いますが,エコー検査では質的診断が難しく,治療のため他院へ紹介すべきか,投薬治療だけですむかの判断に迷うこともありましたが,プラークの性状をカラーマップで表示するSIR mapによりその鑑別ができると思います。また,頸動脈に高度狭窄があると冠動脈にも狭窄があることが多く,これまではすべて検査紹介していました。自院で冠動脈MRAが撮像できれば,患者さんにも他院に行ってもらう負担を掛けずにすむでしょう」
このほか,“BeamSat TOF”など脳神経領域のアプリケーションだけでなく,他院の紹介検査を行っていくことを想定し,“T2 RelaxMap/R2RelaxMap”や循環器系の計測機能(VASC-ASL,VASC-FSE)など,さまざまな領域の検査に対応できるアプリケーションが搭載される。
ECHELON Smartは,検査ワークフローの改善も図られており,頭部・脊椎用コイルは据え置き型とし,検査に応じて腹部や関節のコイルを組み合わせる。谷水技師は,「これまで1回ごとに交換していたコイルを据え付けたまま検査できることや,頭頸部を一度に撮像できるなど,検査時間が短縮するので,患者さんの負担も軽減すると思います」と期待を示す。
同クリニックでは,装置更新の工事・調整を7〜8月に行い,9月からECHELON Smartを稼働させる予定だ。前田院長は,「ECHELON Smart導入により,急性期疾患のいち早い診断,認知症や脳血管障害のより詳細な診断ができるようになります。脳ドックも実施しやすくなりますし,紹介検査も即日対応しやすくなることで,地域医療にいっそう貢献できるのではないかと思います」と展望する。クリニックの診療を変えるECHELON Smartの稼働が待ち望まれる。

搬出・工事の様子

 

(2017年6月20日取材)

 

メディカルモールおぎ

メディカルモールおぎ

 

まえだ脳神経外科・眼科クリニック
〒845-0021
佐賀県小城市三日月町長神田2173-2
メディカルモールおぎ内
TEL 0952-72-6101
http://maemed.com

 

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