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名古屋市立大学病院 
認知症診断におけるMRIの役割と今後の可能性
3T MRI TRILLIUM OVALの脳神経領域での有用性と認知症診断への期待

2016-4-25


名古屋市立大学病院スタッフ

高齢化に伴う認知症患者の急増により,認知症診断における画像診断の役割が大きくなっている。なかでもMRIは,すでに臨床で広く使われるだけでなく,新しいイメージング手法の研究が進められ,認知症診断への応用が期待されている。今回,名古屋市立大学病院で認知症など脳神経領域の画像診断を担当し,研究にも取り組む放射線科の櫻井圭太講師に,MRIによる認知症診断の現況をうかがうとともに,共同研究を行っている日立メディコの3T MRI「TRILLIUM OVAL」について,芝本雄太主任教授と中央放射線部に取材した。

認知症診断におけるMRIの役割

高齢化が急速に進むわが国では,認知症を患う高齢者が増え続けており,厚生労働省研究班の調査によると2012年時点で462万人と推計されている。2015年に策定された「認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)」では,2025年には約700万人(高齢者の約5人に1人)にまで増加すると見込まれている。
認知症の原因疾患はアルツハイマー病が半数以上を占めるが,そのほかにも,神経変性疾患としてレビー小体型認知症やパーキンソン病,前頭側頭葉変性症,進行性核上性麻痺など,非変性疾患として多発性脳梗塞や慢性硬膜下血腫などの血管性認知症,正常圧水頭症,脳腫瘍などがあり,さまざまな疾患が認知症を来す。診断においては,病歴,現症,身体所見,神経心理検査,血液検査,画像診断などが行われることが一般的であり,画像診断では単純CTまたはMRIによる形態画像検査が推奨されている。
名古屋市立大学病院放射線科で,脳神経領域の読影を担う櫻井講師は,認知症の診断における画像検査について,「現在では,認知症の診断において画像診断を外すことはできません。同じような症状であっても,背景に存在する病態や病理が同一とは限らず,画像検査によって診療マネジメントが変わることもあり得ます」と,その重要性を語る。
患者は,物忘れや性格変化といった症状をきっかけに外来受診することが多い。同院では,神経内科に設けられた「物忘れ外来」や総合内科・総合診療科を受診する認知症疑いの患者に対して,各種検査と併せて画像検査を実施している。検査はモダリティや検査内容を主治医が決定してオーダするが,櫻井講師は普段から他科のカンファレンスに参加して画像診断に関して情報提供しつつ,難しい症例は個別に相談するなどして,適切な検査がオーダされるようにしている。
中央放射線部は,MRI装置5台(3T:3台,1.5T:2台),診断用CT装置3台,SPECT,SPECT/CTなどを保有している。認知症診断の検査では,検査費用や得られる情報量から,MRI検査が優先される傾向にある。認知症の診断におけるMRIの役割について,櫻井講師は次のように述べる。
「MRIは,アルツハイマー病などの神経変性疾患の画像所見をとらえるだけでなく,認知機能障害の原因となりうる多発性脳梗塞や脳出血といった血管障害,正常圧水頭症や脳腫瘍などの病態をとらえることにも非常に役立っています。質的診断だけでなく,除外診断も同時に行えることがMRIの強みだと言えます」

芝本雄太 主任教授

芝本雄太 主任教授

櫻井圭太 講師

櫻井圭太 講師

 

 

患者のQOL維持のため的確な検査,診断が重要

認知症診断では,疾患を鑑別するために詳細な形態評価が行われる。3方向からの視覚評価だけでなく,MRI診断ではVSRADによる神経変性疾患の画像統計解析が広く行われている。神経変性疾患は,疾患ごとに画像所見に特徴があることが知られているが,病理学的診断例に基づいた検討から,画像所見は特異的ではないことがわかっている。
「異なる背景病理を持った病態が,似たようなマクロの形態変化を来すことも多くあります。アルツハイマー病で強く見られる海馬や海馬傍回の萎縮は,レビー小体型認知症では弱いと言われますが,実際には萎縮が強く出る症例もあります。また,嗜銀顆粒性認知症や神経原線維変化型認知症でも,アルツハイマー病とよく似た萎縮を呈することもあります。これらを鑑別するには機能画像検査も必要で,レビー小体型認知症では,黒質変性や交感神経の脱落を見るためにドパミントランスポーターシンチグラフィやMIBG心筋シンチグラフィを行います。また,アルツハイマー病とほかの老年期認知症の鑑別にはアミロイドPETが有用となるなど,形態と機能の画像診断を組み合わせて評価することが大切です」と,櫻井講師は説明する。
同院では,形態評価で特異的な所見が得られなかった場合には,患者との話し合いの上で,必要に応じてSPECTによる機能画像検査を追加している。
認知症の治療は,治療可能な非変性疾患を除くと,アルツハイマー病へのドネペルジ(コリンエステラーゼ阻害薬)による対症療法などは行われているものの,いまだ治療できない病態の方が多い。現在,アルツハイマー病の根治をめざしたアミロイド免疫療法など,新しい治療法の研究が進められており,診断においても軽度認知障害(MCI)やより早期での発見・診断が期待されている。
臨床では,ある程度病期が進行した段階で受診する患者が多いのが実情である。現時点でのMRIの役割は,除外診断やある程度病期が進んだ病態の診断を行うことも多く,櫻井講師は,「的確に診断を行い,できるだけ早い段階で投薬を開始して進行を遅らせることや,病気に伴う症状で転倒して外傷を負うといったリスクがないように周囲に対応を促すことが,患者のQOL維持のために大切です」と,その役割の重要性を強調する。また,疾患によっては短期間で繰り返し検査を行うこともあるため,被ばくがなく,比較的安価で実施できることとも大きいと言える。

共同研究を通して国産MRIを育成

名古屋市立大学病院は,高度な医療を提供する大学病院と,市立の施設として市民が受診しやすい病院という2つの性格を併せ持つ。病床数808床,1日平均約1800人の外来患者を受け入れつつ,研究や教育にも力をいれている。
放射線科医局には33名(助教以上が17名)が在籍し,スタッフの1/3は芝本主任教授が専門とする治療を,2/3が診断・IVRを専門としている。芝本主任教授は,「画像診断,放射線治療,IVR,核医学のすべての分野で最高レベルの診療を提供することを方針としています。教育を重視していることも特徴で,2015年度の入局者数は放射線科の中では日本一でした」と述べる。
年間の読影件数は,CTが3万5000件,MRIが1万7000件,IVRは570件に上る(2014年度実績)。また,放射線治療では,リニアック,トモセラピー,小線源治療装置を備え,年間700人ほどの新患を受け入れており,その半数以上に根治照射を行っている。中央放射線部は廣瀬保次郎技師長はじめ45名のスタッフを有し,画像診断・放射線治療両部門ともに診療・研究に取り組んでいる。
MRI装置は,旧来の装置の更新を検討した際に,日立メディコから新しい装置を開発中との話があり,同院3台目の3T装置として,2014年3月に「TRILLIUM OVAL」を導入した。導入の理由を,芝本主任教授は次のように話す。
「当院には海外メーカーのトップ機種が入っていましたが,国内メーカーにもっとがんばってほしいと思っていました。“国産のMRIを育てる”という思いもあり,複数メーカー装置のブラインドによる画質評価を行った上で,TRILLIUM OVALの導入を決めました」
同院では,TRILLIUM OVALを日常診療で活用しながら,2015年度からは共同研究としてルーチン検査のブラッシュアップに取り組んでいる。廣瀬技師長は,「ブラッシュアップは頭部領域から始めました。柏工場の開発スタッフとともにハードウエア・ソフトウエアの改良に取り組み,質の高い画像の提供が可能となりました」と話す。現在,TRILLIUM OVALを用いた検査は,1日あたり15件ほど行われている。撮影検査業務を統括する國友博史撮影技術係長は,「検査の内訳は,半数以上が頭部領域で,関節,脊椎領域,腹部,骨盤部などが続きます。特に頭部の検査では共同研究の成果もあり,良好な画像提供ができるようになりました。そのため各診療科医から高い評価をいただいています」と説明する。

國友博史 撮影技術係長

國友博史 撮影技術係長

森 清孝 撮影技術係副係長

森 清孝 撮影技術係副係長

原田尚久 技師

原田尚久 技師

 

頭部領域の血管評価で高い有用性を発揮

櫻井講師は,椎骨動脈解離など脳動脈解離の画像診断も専門としており,頭部領域におけるTRILLIUM OVALの有用性を述べる。
「TOF-MRAとisoFSEの画質が非常に優れており,DWIも良好です。特にisoFSEは,脳脊髄液のアーチファクトが出にくく,血管壁そのものを観察しやすいため,ほかの装置では評価が困難であった椎骨動脈解離の出血がTRILLIUM OVALでとらえられた症例も経験しています。脳梗塞,脳出血,脳動脈解離など血管評価において,TRILLIUM OVALはなくてはならないものとなっています。また,BeamSatについては,レジストレーションの向上など課題はありますが,選択的に血管を描出することができるため,もやもや病や動脈硬化に対するバイパス術後の評価に有用です。Balanced SARGEシーケンスはアーチファクトも少なく,聴神経腫瘍や神経血管圧迫症候群といった病態の評価において,今後活用できると期待しています」
また,森 清孝撮影技術係副係長は,「RADARは,体の動きを抑制できない患者さんや,緊急性のある検査で非常に有用です。頭部は緊急性が高いので,動きがある場合でも撮りたい領域ですが,RADARを使えばT2WIやFLAIRは体動がない場合と変わらない画質が得られますし,T1WIも補正されて臨床に役立つ画像を得ることができます」と話す。

LEDでガントリ内を明るく開放的に演出

LEDでガントリ内を明るく開放的に演出

整位が容易な足部専用コイル

整位が容易な足部専用コイル

   
高い操作性を追究したコンソール

高い操作性を追究したコンソール

 

 

専用コイルや高い操作性で快適な検査を実感

TRILLIUM OVALは,4ch-4portの独立制御可能なRF照射コイル「OVAL Drive RF」により,1.5T MRI「ECHELON OVAL」で高い評価を受ける楕円形状ガントリボアの搭載を実現した。ワークフローを向上させるWIT(Workflow Integrated Technology)技術も実装し,患者とスタッフの双方にとって快適な検査を可能にしている。MRI検査を担当する原田尚久技師は,検査におけるWIT技術の有用性を話す。
「足部専用コイルは,巻き付けるタイプと違って患者さんの足をそのまま入れるだけなので,整位がとても楽です。患者さんも検査中に足を動かさないように努める必要がなく,特に骨軟部領域の検査が多い当院では,有用です。また,X線撮影画像と同じ整位で撮像できるので,解剖学的にわかりやすい画像を得られていると思います」
検査中に操作室で画像を確認することもある櫻井講師は,「画像のページングがマウスホイールでできるなど,他社のキーボード操作と比べて,わかりやすく操作しやすいです。日常的にコンソールを触ることのない医師にとっては操作性が非常に大事で,日本のメーカーらしく細かな配慮がされていると感じます」と述べている。
共同研究では,画質だけでなく操作性についても改良が図られている。同じ画像ナンバーの異なるシーケンスの画像をボタン1つで連続的にページングできるようになるなど,ソフトウエアのバージョンアップにより使い勝手の良さが向上していると,國友撮影技術係長は評価する。
「画像の見やすさや位置決めのしやすさなど,検査での操作性が非常によくなりました。国内メーカーは開発側と密に話をすることができるため,改善のスピードが格段に違います」
サポートのスピード感や態勢については,芝本主任教授も評価しており,「国内に本社があるということは大きな強みです」と述べている。

症例 40歳代,男性,右椎骨動脈解離

症例 40歳代,男性,右椎骨動脈解離
MRA(a)にて右椎骨動脈V4に狭窄および限局性の拡張()が描出されている。T1 isoFSE(b)では右椎骨動脈にintramural hematomaを示唆する高信号域()が認められ,T2 isoFSE(c)では紡錘状拡張が描出されている()。この拡張は,CPR像(d)にてより明瞭に 確認できる()。TRILLIUM OVALは,TOF-MRAとisoFSEの画質に優れている。血管壁を評価しやすいため脳動脈解離の診断に有効である。

 

認知症診断におけるTRILLIUM OVALの可能性

同院では現在,他社製の3T MRI装置にて認知症検査を行っているが,櫻井講師は,「TRILLIUM OVALはSNRが高く,RADARにより体動があっても撮像しやすいなど,認知症の検査・診断に有用な条件がそろっています。プロトコールをきちんと組めば,症状が出て受診されるような進行した認知症の診断に十分に対応できます」と話す。そして,日立メディコが各大学と研究を進めている新しいイメージング技術への期待を,次のように述べている。
「現在研究されている,定量的磁化率マッピング(QSM)や拡散尖度画像(DKI)の実用化に期待しています。鉄沈着の定量化や微細構造の変化を評価できれば,認知症や変性疾患の早期診断や鑑別診断に応用でき,診療そのものが変わってくる可能性もあります。ただし,このような技術は日常診療で使えることが重要です。VSRADが広く使われるようになったのは,誰にでも簡単に使えることがポイントでした。日立メディコは日常診療で使えるソフトウエアを目標に研究開発を行っており,早期の実用化が待たれます」
TRILLIUM OVALにはLCModelを採用したMRSの計測・解析機能も搭載されており,QSMやDKIが可能になれば,血管評価から微細な構造変化,さらに代謝変化まで,総合的に認知症診断を行える装置となりうる。同院との共同研究を通して改良が進むTRILLIUM OVALが,認知症診断に活用される日も近いだろう。

(2016年2月22日取材)

 

名古屋市立大学病院

名古屋市立大学病院
〒467-8602
愛知県名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1
TEL 052-851-5511
URL http://w3hosp.med.nagoya-cu.ac.jp

 

●そのほかの施設取材報告はこちら(インナビ・アーカイブへ)


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