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日本医科大学 武蔵小杉病院 ECHELON OVAL
地域の大学付属病院としての高度な医療を支えるECHELON OVAL 〜BeamSat,MRSなどで診療科からの依頼に対応〜

2014-4-25


(左から)安藤 順医師,藺牟田治技師長,秋本 浩係長,黒瀬厚成TS,船橋孝斉ASS,木梨玲奈ASS,(後列)市川太郎部長,高橋 徹係長,清水康弘医師

(左から)安藤 順医師,藺牟田治技師長,秋本 浩係長,
黒瀬厚成TS,船橋孝斉ASS,木梨玲奈ASS,
(後列)市川太郎部長,高橋 徹係長,清水康弘医師

日本医科大学武蔵小杉病院では,2013年6月から日立メディコの1.5T MRI「ECHELON OVAL」が稼働した。同院では,地域の中で高度な検査や治療を提供するため,専門外来化やセンター化を進めている。ECHELON OVALの導入は,同院がめざす高度な診療を支えるモダリティとして期待が大きい。このような大学病院でのECHELON OVALの運用について,放射線科の市川太郎部長,藺牟田(いむた)治技師長を中心にお話をうかがった。

市川太郎 部長

市川太郎 部長

 

高橋 徹 係長

高橋 徹 係長

藺牟田 治 技師長

藺牟田 治 技師長

 

黒瀬厚成 TS

黒瀬厚成 TS

 

川崎市中部地域の中核病院として高度で専門的な医療を提供

日本医科大学武蔵小杉病院(病床数372)は,日本医科大学の2番目の付属病院として1937年に開設された。長く“第二病院”の名称で知られてきたが,2007年に改称し現在に至っている。開設以来,大学病院であると同時に,地域の基幹病院としての機能を果たしてきたが,近年は病院の機能分化の流れの中で,より専門性の高い医療の提供に力を入れており,領域や疾患に分けた内科,外科の細分化,救命救急センター,周産期・小児医療センターの開設などを進め,医療連携を進めながら高度な医療の提供を図っている。
放射線科の体制は,医師が市川部長以下放射線科専門医6名,診療放射線技師は藺牟田技師長のもと21名,モダリティは,MRI 2台のほか,64列と16列のCT2台,血管撮影装置1台,X線透視装置2台,マンモグラフィ,ガンマカメラなどが導入されている。IVRに関しては,2010年に開設された血管内・低侵襲治療センターで,動脈塞栓術,ステントグラフト留置術,肝腫瘍や腎腫瘍のラジオ波焼灼術(RFA)などを行っており,放射線科では画像診断を中心に対応する。放射線科の診療について市川部長は,「専門化した診療科が多く,スタッフには自分の専門領域だけなく,幅広い領域に対応できる読影能力が求められます。当院では,単純X線画像の読影も依頼があれば行っており,画像診断について広く経験を積むには絶好の環境と言えるでしょう」と述べる。

大学病院の専門化した診療科の依頼に対応するECHELON OVALを選定

日本語対応で操作性の良いコンソール

日本語対応で操作性の良いコンソール

同院のMRIは,他社製の1.5T 装置が2台導入されていたが,1台は旧型のためほとんど稼働しておらず,実質1台での運用が続いていた。同院には,以前から病院の新築計画があるが,近隣の武蔵小杉駅周辺の再開発との関係から大幅に遅れており,放射線科の機器やシステムの更新計画にも影響しているという事情があった。藺牟田技師長は今回のECHELON OVALの導入について,「MRIについても,1台での運用で検査予約待ち期間が長くなっている状況や,バックアップ体制の必要性を感じていました。また,院内からも診療の専門化に伴って高いレベルの検査への要望も高まっていました。更新に当たっては,現在の最新の撮像法が利用できることを条件に各社のMRIを選定して,放射線科としての要望を出し,総合的に検討の上,ECHELON OVALの導入が決定しました」と経緯を説明する。

ワイドボアの広い検査空間や専用コイルの使い勝手を評価

WIT RF Coil Systemの足首用(左)と手首用(右)のコイル

WIT RF Coil Systemの足首用(左)と
手首用(右)のコイル

ECHELON OVALは,2013年4月に設置が終了し,操作研修や撮像プロトコールの検討,テスト運用などの期間を経て,6月から本格的な検査がスタートした。
2台のMRIで検査枠は分けていないが,ECHELON OVALでしかできない乳房,MRS,手足関節撮像などについては,優先的に対応する運用体制をとっている。検査件数は,2台で月間400件,ECHELON OVALは1日10件前後となっている。MRI検査は,高橋 徹係長,黒瀬厚成テクニカルスタッフ(TS)の2名を中心に,4名のスタッフでローテーションしている。
ECHELON OVALでは,“WIT RF Coil System”として,高感度受信とワークフローの短縮が可能なさまざまなコイルが利用できる。同院では,頭頸部用のNVコイル,足首や膝などの四肢関節撮像用のコイルを使用しているが,黒瀬TSは,「頭頸部用のNVコイルは,頭部と頸部を1回で撮像でき,広範囲の情報が必要な脳神経外科の術前検査などで連続撮像できるメリットは大きいです。コイル自体が軽く着脱も簡単で,撮像部位により近いセッティングができるので画質の向上も期待できます」と評価する。
ECHELON OVALは,横74cm×縦65cmの楕円形の開口径が特長だが,高橋係長はワイドボアが有効だった例について,「妊婦健診で前置胎盤や子宮筋腫合併症などの確認を行っていますが,お腹の大きい妊婦さんの検査の際に,仰臥位では胎児の重さで血管が圧迫されて貧血を起こすことがあります。ECHELON OVALでは楕円形のボアで左右に余裕があるので,横向きでも撮像が可能で患者さんにとっても安心です」と述べる。

BeamSatによる血管撮影,MRS,MRCPなどを実施

同院では,脳血管領域でBeamSatを用いた3D TOF(Time of Flight)MRAによる頭部血管の血行動態の評価を行っている。BeamSatは,円筒状のRFパルス(BeamSatパルス)によって特定の血管の信号を抑制することで,血行動態の情報を付加する撮像法である。黒瀬TSはBeamSatについて,「例えば右の内頸動脈に狭窄があり血流が低下しているにもかかわらず,右の中大脳動脈などの描出がある場合に,左内頸動脈にBeamSatパルスを印加することで血流情報を抑制し,脳血管の描出の変化を見ることで,血行動態や養生血管の特定を行うことができます」と説明する。
また,脳腫瘍の術前検査や質的診断を目的としたMRSを実施している。ECHELON OVALでは,“ワンクリック”による計測からLCModelソフトウエアによる解析まで簡単な操作でMRSが可能だが,黒瀬TSは,「実際に病変部と正常部に20mm×20mmのROIを置き,ワンクリック・8分間で計測が終わります。計測後のスペクトルグラフの作成まで,スムースな処理が可能です」と評価する。
腹部領域では,腹腔鏡手術を行う消化器外科からのオーダで,術前の胆嚢管の走行確認を目的にしたMRCPの撮像を多く行っている。高橋係長はMRCPについて,「腹腔鏡下手術の術前に胆嚢と胆管のクリッピングの際の走行を確認するため,ほぼ全例でMRCPを行っています。以前はDIC-CTで行っていましたが,より低侵襲な方法としてMRの依頼が増えています」と言う。
ECHELON OVALには,モーションアーチファクトを低減するRADARが搭載されているが,同院では頭部領域のT2とFLAIRにあらかじめ組み込んだプロトコールを作成して使用している。

■症例1:BeamSat

症例1:BeamSat

右ICAsiphonの広範な狭窄〜閉塞による右MCAの信号低下。臨床所見では外来内服治療中,左半身麻痺を生じ,TIAを繰り返していた。DWIにて高信号を認め,STA-MCAバイパス施行となった。
3D-TOF MRA,TR:37.8,TE:6.9,FA:30°,3スラブ

 

■症例2:MRS

症例2:MRS

aのグラフはbのグラフに比して,NAAの値が低下している。
悪性の脳腫瘍などが考えられる。
MRSSE,TR:2000,TE:35.0,20mm isovoxel

 

■症例3:MRCP

症例3:MRCP

胆嚢摘出術後の画像
肝内胆管もきれいに描出され,膵管も拡張がなく細い末梢まで描出されている。
3D-FSE,TR:3333,TE:530.4

 

心臓MRIなどさらなる高度な検査へ対応

今後の取り組みとしては,循環器内科を中心に要望が多い心臓MRI検査への対応を進めていく予定だ。市川部長はECHELON OVALへの期待を込めて次のように語る。「MRIはますます高度化しており,診療科からもより専門的な検査や診断が求められています。新しいMRIの導入を機に,最新の撮像法や知見を生かしていけるように,われわれもさらなる努力を重ね,今後,さらに高いレベルの診療が行えるように取り組んでいきたいですね」
病院の機能分化の中でますます高度な役割が求められる大学病院の診療において,ECHELON OVALの機能が十二分に発揮されることが期待される。

(2014年2月7日取材)

 

日本医科大学武蔵小杉病院

日本医科大学武蔵小杉病院
〒211-8533
神奈川県川崎市中原区小杉町1-396
TEL 044-733-5181
URL http://kosugi-h.nms.ac.jp/

 

 

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