セミナーレポート(富士フイルムヘルスケア)

第38回日本超音波検査学会学術集会が2013年6月14日(金)〜16日(日)の3日間,愛媛県県民文化会館(ひめぎんホール:松山市)にて開催された。2日目の15日(土)に行われた日立アロカメディカル株式会社共催のランチョンセミナーⅠでは,住友病院診療技術部超音波技術科の尾羽根範員氏を座長に,筑波メディカルセンター診療部門乳腺科の梅本 剛氏が,乳腺Real-time Tissue Elastographyの基本と検査のノウハウについて講演した。

2013年8月号

第38回日本超音波検査学会学術集会ランチョンセミナーⅠ

乳腺Real-time Tissue Elastographyのあてかた,撮りかた,読みかた ~今,ここで基本を知ろう~

梅本  剛(公益財団法人筑波メディカルセンター診療部門乳腺科)

2013年は,日立アロカメディカル社が超音波エラストグラフィ(Real-time Tissue Elastography:RTE)を開発・製品化してから10年の節目となる。いまやエラストグラフィは,乳腺領域以外にも,甲状腺,肝臓,前立腺などの領域で幅広く応用されている。形態情報(Bモード)と機能情報(エラストグラフィ)は相補的であり,上手に利用すれば,検者のストレスが少ない,短時間で正確な診断に寄与する。
本講演では,乳腺RTEの基礎に始まり,手技と読影の原点や手がかりについて具体的に解説する。

■エラストグラフィ(RTE)の特長を知ろう

エラストグラフィの臨床的な特長は,(1)信号処理が速い(高精度,リアルタイム性),(2)フリーハンド手技が可能(手振れに対して頑強),(3)得られる情報が直感的〔ひずみの情報は組織弾性(硬さや軟らかさ)を直接反映〕,(4)ニーズに応じた豊富なアプリケーション(StrainGraph, Strain Ratio/Fat-lesion ratio, 4Dエラストグラフィ)などが挙げられる。

■エラストグラフィ検査のコツをつかもう

●「あてかた」のコツの前に

エラストグラフィの手技ではまず,探触子のケーブルのとりまわしに注意する。ケーブルは首にかけて,上腕〜前腕の上を這わせるようにすると,探触子に余計な牽引がかかりにくく,安定した手技が行える(図1)。あわせて,検査台の高さや被検者の体位も,適宜調整しておくとよい。

図1 探触子ケーブルのとりまわし

図1 探触子ケーブルのとりまわし

 

●探触子の「あてかた」のコツ

乳房に探触子をあてるときには,初期圧がきわめて重要となる。エラストグラフィでは,Bモード検査時のように探触子をしっかりと接触させるのではなく,乳房が変形しない程度に軽くあてる,あるいは置く,触れるだけが推奨される(図2)。

図2 探触子の「あてかた」のコツ

図2 探触子の「あてかた」のコツ

 

組織弾性には,圧(応力)条件の変化により対象の硬さが変化する「非線形性」という特性がある。より軽い圧の条件で各組織の硬さの差を検出することがポイントであり,このため初期圧が非常に重要となる。
初期圧が適切であれば,エラストグラフィ像で皮下の脂肪層に,左右ほぼ均等に緑と赤の横縞が描出される(図3)。リアルタイムで見ると,緑を背景に,赤のひずみがさざ波のようにゆらゆらと動いて見える(図3左)。過剰な初期圧の場合は,赤,緑,青がモザイク調に乱れた画像になる(図3右)。

図3 適切な初期圧の見分け方

図3 適切な初期圧の見分け方

 

●探触子の「角度」のコツ

探触子の角度は,体表面に対して垂直にあてるよう意識する(図4上)。このとき,検者の肘から前腕,あるいは手関節までを被検者の体表につけた状態にすると,細かな手技も安定しやすい。

図4 探触子の「あてかた」のコツ:角度,「撮りかた」のコツ:描出断面をずらさない

図4 探触子の「あてかた」のコツ:角度,
「撮りかた」のコツ:描出断面をずらさない

 

●「撮りかた」のコツ

1)ROIの設定

ROIは,軟部組織をできるだけ広くとるようにする。深さ方向は皮下から肋骨を含めない大胸筋まで,幅方向は画面の幅いっぱいまで,病変の大きさはROIの(1/3~)1/4以下になるよう設定する(図5)。
エラストグラフィは,(ROIの中での)相対的なひずみ分布を表すので, ROIの大きさを変えると,エラストグラフィ像が変化することになる。大きな病変は,ROIの中央ではなくやや端に寄せ,ROIに占める病変の面積を少なくした状態で見ると,病変のひずみを適切に評価できる。

図5 「撮りかた」のコツ:ROIの設定

図5 「撮りかた」のコツ:ROIの設定

 

2)描出断面をずらさない

描出断面のずれは,前後フレームの画像の違いを生じる。このため,装置内ではひずみがあると演算され,実際の組織弾性とは異なるエラストグラフィ像が表示される可能性がある。右手の第(4)5指を,被検者の体表につけて固定し,描出断面のずれを防ぐとよい(図4下)。

3)探触子の振幅

振幅は,1~2mmまでを推奨する(図6)。探触子の上下は,手首全体ではなく指のみで行うが,実際には動かしているようには見えない程度である。これにより,フレーム全体を通してエラストグラフィ像は安定して描出され,均質な画像が得られる(図7)。

図6 ‌‌‌「撮りかた」のコツ:振幅1〜2mmで探触子を上下させる

図6 ‌‌‌「撮りかた」のコツ:振幅1〜2mmで探触子を上下させる

 

図7 ‌‌‌「撮りかた」のコツ:振幅1〜2mmまでと大きな振幅の比較

図7 ‌‌‌「撮りかた」のコツ:振幅1〜2mmまでと大きな振幅の比較

 

4)探触子の周期

周期は毎秒数回程度を目安にする。周期はスコア判定に直接影響しないが,速すぎる周期は,病変の前方・後方にひずみが滲み込むように見える原因となる。

5)‌‌検査手技の修正・フィードバック

手技は,エラストグラフィ像からのフィードバックによって,修正しながら行う。1つめの方法として,2画面表示の活用が挙げられる(図8)。左のエラストグラフィ像では,適切な初期圧であることを確認して弾性スコアを判定する。同時に,並列表示される右のBモード像では,病変の存在や描出断面にずれがないことを確認するのみであり,あくまでエラストグラフィのナビゲーションとして利用する。

図8 「撮りかた」のコツ:手技の修正・フィードバック

図8 「撮りかた」のコツ:手技の修正・フィードバック
2画面表示の活用

 

2つめの方法として,Strain Graph(ストレイングラフ)機能がある(図9)。ストレイングラフは,探触子の動きや速さ,方向,周期などを観測できるツールである。表示されるグラフの幅はおよそ3秒程度なので,周期が毎秒数回程度で適正に行えているかどうかの目安となる。また,振幅が1~2mmまでの適正な範囲で行えているかどうかは,グラフ上下の破線を越えていないかどうかで確認できる。

図9 「撮りかた」のコツ:手技の修正・フィードバック

図9 「撮りかた」のコツ:手技の修正・フィードバック
Strain Graph(ストレイングラフ)機能の活用

 

6)フレームの選択

動画で判定し,フリーズをかけた後は,「自分の評価に最も合う」「説得力がある」と思われるフレームのエラストグラフィ像を選択し,記録する(図10)。多くの場合,判定に適切な画像は,フリーズ時点からシネ選択で少し前に戻したところにある。
ストレイングラフ機能を用いる場合は,グラフの下(または上)に凸となるフレームを選ぶ。また,最近の装置では,フレーム選択機能も搭載されている。

図10 「撮りかた」のコツ:フレームの選択

図10 「撮りかた」のコツ:フレームの選択

 

●エラストグラフィの読み方のコツ

1)‌‌‌つくば弾性スコア(Tsukuba Elasticity Score)による定性的評価

エラストグラフィの評価方法は2つある。その1つが,つくば弾性スコア(Tsukuba Elasticity Score)で,カラーマップによる定性的な診断である(図11)。乳腺腫瘤の良悪性鑑別における感度,特異度,正診率がともに80%台後半と,非常に高い成績が報告されている〔Itoh A.,Ueno E., et al. Radiology, 239(2),341〜350, 2006.〕。また,前向き臨床試験においても,良好な成績が得られている〔Reza S.,et al. J.Ultrasound Med., 29(4), 551〜563, 2010.〕。
つくば弾性スコアは,病変と周囲正常組織に応じて5段階に分類され,スコア3とスコア4の間が,良悪性の境界とされている。また,BGRと呼ばれる,嚢胞に特徴的なアーチファクトの分類項目も含まれている。
弾性スコアの判定は病変の外側(側方)で行う。判定が困難な場合は無理をせず,高めのスコア判定か,あるいは判定不能と記載する。このような場合,エラストグラフィ所見を優位に判定すると,偽陰性判定のリスクがあり,被検者の不利益となりうるためである。
硬い病変の辺縁,特に前方や後方では,周囲の軟らかい脂肪や正常乳腺のひずみが滲み込んで見える場合がある。特に,探触子を速く大きく動かした場合に起こりやすい。被検者の呼吸性運動により病変自体が動くような場合も同様に,病変のひずみとして認識され,偏って描出される。この滲み込みの所見は,病変の局在などによっても起こりうることが知られている。

図11 ‌‌‌「読みかた」のコツ:つくば弾性スコア(Tsukuba Elasticity Score)

図11 ‌‌‌「読みかた」のコツ:つくば弾性スコア(Tsukuba Elasticity Score)

 

2)‌‌‌Strain Ratio(SR)による半定量的評価:FLR

エラストグラフィの2つめの評価方法は,SRによる組織弾性の半定量的評価であり,乳腺領域では病変部と皮下脂肪のひずみの比をとる,FLR(Fat-lesion ratio)と呼ばれる方法である。良悪性のカットオフ値は,おおよそ5前後と報告されている〔Ueno E., et.al. New Quantitative Method in Breast Elastography; Fat- lesion ratio(FLR)[abstract]. RSNA 2007.〕。
FLRの計測では,計測ROIの設定は必ずBモード画像上で行うようにする(図12)。病変の計測ROIはできるだけ大きく,内接させるように設定する。そして,対照となる正常組織のひずみを十分に検出するため,脂肪の計測ROIもできるだけ広くとる。

図12 「読みかた」のコツ:FLR計測

図12 「読みかた」のコツ:FLR計測

 

●まとめ

本講演では,超音波エラストグラフィ(RTE)の10年の歴史を振り返りつつ,あてかた,撮り方,読み方のコツについて具体的に解説した。

(注)‌‌‌講演後半の多数の臨床例の供覧につきましては,誌幅の制限があるため,誌面では割愛させていただきました。

 

梅本  剛

梅本  剛(Umemoto Takeshi)
1999年筑波大学医学専門学群卒業。日本外科学会外科専門医,日本乳癌学会乳腺専門医,日本超音波医学会超音波専門医。2006年より筑波メディカルセンター病院勤務。

 

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