セミナーレポート(日立製作所)

第41回日本超音波検査学会学術集会が6月10日(金)〜12日(日)の3日間,仙台国際センター(宮城県仙台市)にて開催された。12日に行われた株式会社日立製作所共催のランチョンセミナー10では,宮城県立がんセンター病院長の小野寺博義氏が座長を務め,仙台医療センター仙台オープン病院消化器病センター センター長の伊藤 啓氏と静岡県立静岡がんセンター生理検査科技師長の南里和秀氏が,「膵がん早期発見のための超音波検査の重要性」をテーマに講演を行った。

2016年9月号

第41回日本超音波検査学会学術集会ランチョンセミナー10 膵がん早期発見のための超音波検査の重要性

膵癌早期発見のための戦略

伊藤  啓(仙台医療センター仙台オープン病院 消化器内科)

伊藤  啓(仙台医療センター仙台オープン病院 消化器内科)

膵癌は膵原発の悪性腫瘍と定義され,ほかの癌種に比べて5年生存率がきわめて低い。罹患数は増加傾向にあり,2015年は約3万9000人(第7位)となり,死亡数はほぼ同数の約3万3000人(第4位)に上る。膵腫瘍は数多くに分類されているが,日常臨床で遭遇する多くは浸潤性膵管癌である。病期別に見るとステージ0からⅣまであり,ステージが上がるほど予後不良となる。しばしば経験するのは肝多発転移を伴う切除不能の膵癌などで,ステージⅣ(5年生存率:2.7%)であり,きわめて予後不良である。
膵癌の早期発見には早期膵癌を理解する必要があるが,早期膵癌の定義は定まっていない。早期の段階の膵癌の特徴や膵癌の高リスク群や危険因子,精査法の特徴について理解することが重要である。本講演ではこれらの点を踏まえ,超音波を用いた膵癌診断の有用性を述べる。

膵癌の進展の機序と早期の膵癌発見の重要性

膵癌の症状には,腹痛(心窩部痛や左季肋部痛),腰背部痛,黄疸,体重減少,全身倦怠感などがある。黄疸で発症し,CTにて膵頭部に腫瘤があり,胆管および胃・十二指腸への浸潤など膵臓外に進展しているような症例は,T分類で言うとT3とかなり進行した段階で予後不良なことが多い。ステージⅡAもしくはⅡBでも,5年生存率はそれぞれ30.2%,13.3%である。症状が出現してから診断した場合には,病期が進行していることが多い。
ステージ0は上皮内癌であり,5年生存率は85.8%と良好な予後が期待できる。現在,浸潤性膵管癌の前癌病変としてPanINが注目されている。膵癌の発生は,癌遺伝子の活性化や癌抑制遺伝子の不活性化などが多段階に起こることで,正常上皮からPanIN1,PanIN2となるとされている。PanIN2になると浸潤性膵管癌に進むと考えられ,PanIN3は上皮内癌で,その後進行すると膵実質への浸潤が見られ浸潤性膵管癌となる。報告によるとPanIN3までは12年未満程度,浸潤性膵管癌から遠隔転移までは7年未満程度,遠隔転移から死亡までは3年未満程度と,比較的長い時間を要するとされている。上皮内癌は報告数も少なく,現状のモダリティでは発見困難な場合が多い。そのため比較的良好な予後を見込めるT1(膵臓内に限局する2cm以下の腫瘍)での発見を目標にするのが現実的と思われる。
症例1は,80歳代,女性。心窩部痛を主訴に当院を受診し,超音波にて主膵管の拡張と蛇行,および低エコーの腫瘤が認められ(図1↓),膵癌を強く疑い精査となった。CTにて膵体部に造影不良域を認め(図2→),MRCPでは体部主膵管の狭窄と尾側膵管の拡張があり(図3 a←),拡散強調画像(DWI)にて陽性信号(図3 b↓)が認められたことから膵癌と診断し,外科的切除を行った。腫瘍最大径9mm,TMN分類ではT1N0M0,ステージⅠAの比較的早期の膵癌であった。

図1 症例1:早期膵癌の超音波画像

図1 症例1:早期膵癌の超音波画像

 

図2 症例1:早期膵癌の造影CT画像

図2 症例1:早期膵癌の造影CT画像

 

図3 症例1:早期膵癌のMR画像

図3 症例1:早期膵癌のMR画像

 

早期の膵癌発見のための腹部超音波検査の重要性

『科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン 2013年版』の「膵癌診断のアルゴリズム」にも記載されているが,腹部超音波検査は膵癌疑診例に対して早期に行うことが重要である。
早期の段階の膵癌発見のための超音波所見は,主膵管の拡張,膵内低エコー腫瘤,囊胞である。腫瘤による分枝膵管閉塞で貯留囊胞が見られることがあることから,囊胞を契機に膵癌が発見されることもある。膵癌の危険因子として,家族歴,糖尿病,肥満,喫煙,大量飲酒などがあり,これらを複数有する患者はより危険度が高くなるとされている。さらに,近年トピックスとなっている膵癌の危険因子となる膵疾患として,膵囊胞,膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN),慢性膵炎があるが,このうちIPMNはそれ自体が膵癌に進展することがあるほか,別の部位に浸潤性膵管癌が発生することがあるため注意を要する。

膵の画像診断と超音波内視鏡の特長

膵の画像診断には超音波検査,MDCT,MRI(MRCP,DWI),PET,超音波内視鏡(EUS),内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)などがある。超音波検査は低侵襲で被ばくもなく,患者の容認性も高いなどスクリーニングに適しているが,膵臓全体を描出できない場合もあるほか,術者依存など限界もある。MDCT,MRI,EUSは膵の精密検査に広く用いられている。最近では,膵臓全体の評価にはMRIの有用性が大きく期待されており,特にMRCPでは胆管・膵管の非侵襲的な評価が可能で,DWIで癌の拾い上げに期待が持たれる。
EUSは内視鏡の先端に超音波振動子が取り付けられており,360°の観察が可能なラジアル走査型と,穿刺吸引術(FNA)などのinterventional EUSが施行可能なコンベックス走査型の2種類に大別される。胃や十二指腸の中から膵臓を間近に観察でき,2〜3mmの小さな囊胞や腫瘤も描出可能である。EUSには盲点がなく,門脈や上腸間静脈と脾静脈の合流部近くに膵臓も明瞭に描出できる。また,膵頭下部や胆管と膵管の合流部も観察可能である。
症例2は,80歳代,男性。黄疸を主訴に来院し,EUSを施行したところ膵頭部に腫瘤が認められ,門脈への浸潤と多数のリンパ節腫大があり,転移が疑われた(図4 a←)。EUSは腫瘍の存在診断,質的診断や進展度診断が可能な有用な検査である。
上述したようにEUSの利点として,膵臓全体を評価できること,小病変の拾い上げが可能なこと,膵管の描出や膵実質の評価が可能なことが挙げられる。一方,欠点として習得に時間がかかる(術者依存)こと,内視鏡を挿入する侵襲性があること,膵外発育型の膵癌は観察困難なことなどがあり,必要に応じてほかの検査の併用が必要となる。
ERCPは内視鏡的に胆管や膵管を造影する検査法である。膵頭部に腫瘤があり胆管が狭窄しているような症例では,胆管内に自己拡張型の金属ステントなどを留置して黄疸を取り,その後切除,もしくは非切除であれば化学療法を行う。同時に胆管を生検することで胆管への浸潤を病理学的に評価することも可能である。
症例3は,62歳,男性。2年前の検診では異常なしであったが(図5 a),検診の超音波検査で膵体部主膵管の拡張と腫瘤を認めた(図5 b↓)。CTでは同部位は造影不良の低吸収域を認め(図6 a↑),MRCPにて体部膵管の狭窄と尾側膵管の拡張を認めたため(図6 b),外科的切除を行った。病理学的には浸潤性膵癌で,T1N1M0,ステージⅡBであった。

図4 症例2:多発転移を伴う膵癌

図4 症例2:多発転移を伴う膵癌

 

図5 症例3:検診発見膵癌の超音波画像

図5 症例3:検診発見膵癌の超音波画像

 

図6 症例3:検診発見膵癌の造影CTおよびMRCP画像

図6 症例3:検診発見膵癌の造影CTおよびMRCP画像

 

まとめ

膵癌の診断は,上皮内癌もしくは浸潤性膵管癌の早期の段階で確実に診断できる手法の開発が望まれている。現時点では最も有用な超音波検査も含めたスクリーニング法を用い,危険因子を有する患者の囲い込み,さらには膵に所見が見られたときには適切な精密検査を行い,できるだけ早期の段階で発見できるよう診断体系を構築する必要がある。

 

伊藤  啓(Ito Kei)
1996年 東北大学医学部卒業。2010年 同大学医学博士取得。1996年 岩手県立北上病院(現・岩手県立中部病院)研修医。1998年 仙台市医療センター・仙台オープン病院消化器内科。同医長,副部長,部長を経て,2016年~同院消化器病センター長兼消化器内科主任部長。

 

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