セミナーレポート(日立製作所)

第50回日本周産期・新生児医学会学術集会が2014年7月13日(日)〜15日(火)の3日間,シェラトン・グランデ・トーキョーベイ・ホテル(東京都)にて開催された。15日に行われた日立アロカメディカル株式会社共催の教育セミナー12では,初めに座長である順天堂大学医学部附属浦安病院院長/産婦人科教授の吉田幸洋氏がReal-time Virtual Sonography(RVS)の有用性と今後の活用について述べ,続いて,独立行政法人国立病院機構 長良医療センター産科医長の高橋雄一郎氏と川崎医科大学附属川崎病院産婦人科教授の中田雅彦氏が,「出生前診断における超音波検査の役割」をテーマに講演した。

2014年10月号

第50回日本周産期・新生児医学会学術集会 教育セミナー12 出生前診断における超音波検査の役割〜技術進歩に伴う現状と展望

超音波新技術のハイリスク胎児への臨床応用~Preliminary trial of Elastography, 2DTT, Dual Gate Doppler~

高橋雄一郎(独立行政法人国立病院機構 長良医療センター産科)

高橋雄一郎(Takahashi Yuichiro)

超音波診断では近年,多くの優れたアプリケーションが登場している。そこで今回,日立アロカメディカル社製の最新超音波診断装置「ARIETTA 70」に搭載されている“Real-time Tissue Elastography(以下,RTE)”“2D Tissue Tracking(以下,2DTT)”“Dual Gate Doppler”の3つのアプリを対象とし,胎児診断および胎児生理学の追究における有用性についてpreliminaryな検討を行った。

新しい超音波技術の胎児への臨床応用

本検討の目的は,(1) RTEによる胎児肺および腎臓の硬さ測定,(2) 2DTTによる胎児大動脈縮窄症(coarctation of the aorta:CoA)の予知への精度向上,(3) Dual Gate Dopplerによる臍帯動脈血流の左右差および経時的位相差の計測の3点である。方法は,2014年6月1日〜7月10日にかけて,当センターに入院中の胎児症例に対し,ARIETTA 70を用いて測定・計測を行った。

RTEによる胎児肺,腎臓の硬さ測定

RTEでは,硬い組織は青く,軟らかい組織は赤く表示され,硬さの分類は,Tsukuba Elasticity Scoreが定性的な診断基準として知られている1),2)。また,脂肪と腫瘤のひずみの比(FLR)を自動計測する“Assist Strain Ratio”により,簡便な操作でFLR値の評価が可能である。
本検討の結論として,エラストグラフィを胎児診療に応用可能と考えている。胎児のエラストグラフィには,子宮全体を揺らす方法と,胎児心拍動の揺れを利用する方法がある。また,strain ratioは,肺と腎臓については肝臓が,胎盤については母体の皮下脂肪がコントロールとして適していると考え,解析を行った。 図1は,膀胱羊水腔シャント術後に羊水腔が回復した例である。RTEにて肺のカラーマップが得られ,肝臓をコントロールとしたstrain ratioは0.05であった。

図1 膀胱羊水腔シャント術後

図1 膀胱羊水腔シャント術後

 

津田らは,羊水のラメラ体をマーカーとして肺の成熟を評価する検討を行っており3),当センターでは本手法を採用しているが,これにRTEを加えることで,より詳細な胎児肺の評価が可能になると考えている。
図2は妊娠19週,ポッター症候群であるが,Bモードにて腎臓がきわめて高輝度に描出されている。RTEでも青く描出され,非常に硬いことがわかる。
また,胎盤をRTEにて撮像したところ,部位によって硬さが異なっていた。さらに,皮下脂肪をコントロールとして子宮筋層のstrain ratioを計測したところ,やはり部位によって異なる数値が得られ,実際の状態を反映しているものと思われる。
本検討における胎児の肺や腎臓,胎盤のstrain ratioをプロット図で表したところ,ほとんどの症例が1.2以下であった。なかでも胎盤は,胸水症例やミラー症候群,胎児発育不全(FGR)で正常例よりも低値であった。

図2 ポッター症候群

図2 ポッター症候群

 

2DTTによるCoA発症予知

2DTTは,超音波断層上の画像情報を基に組織を追跡する機能で,心筋の動きや内腔,時相の変化を評価することができる。複数の血管のそれぞれ2か所をプロットすると,2点間の距離(血管径)がリアルタイムに同時に計測されるほか,左室駆出率の計測も可能である(図3)。
胎児期の大動脈縮窄から新生児期のCoA発症を予知するために,血管径や左室の流出路,左室(LV)/右室(RV)比,大動脈(Ao)/肺動脈(PA)比が非常に重要であり,LV/RV比やAo/PA比が0.7以下の場合はCoA発症の可能性が高まることを当科(当時)の津田により報告した4)。また,例えば妊娠37週,左室狭小症例ではAo/PA比が1以下ときわめて小さかったことから,同様の症例の平均値を得ることでCoAが評価できると考えている。さらに,AoやPAの径の心周期による変動や誤差を3 vessel viewにて計測したところ,Aoで最大16%,PAで最大14%であった。こうした点を念頭に置くことで,より精密なCoAのスクリーニングが可能になると考えている。

図3 2DTTによる血管径の計測

図3 2DTTによる血管径の計測

 

Dual Gate Dopplerの可能性

Dual Gate Dopplerは,異なる2か所のドプラ波形(パルスドプラ)をFFT解析し,同一心拍でリアルタイムに観察可能な技術であり,究極のINTRA-VARIABILITY“零”を実現できると考えている。従来,血流計測は,検者間,時相,部位による誤差が生じる可能性がある。その解消をめざし,Dual Gate Dopplerを用いて(1) 胎児の静脈管と下大静脈におけるpreload index(以下,PLI)の位相差の有無,(2) 一絨毛膜二羊膜(MD)双胎における臍帯動脈血流の確認,(3) 臍帯部位による位相差と臍帯因子の関係について検討を行った。
PLIについては,2002年に行った検討5)において,右心房が収縮すると下大静脈への逆流が増大するというデータを得ているが,Dual Gate Dopplerを加えることで,さらに考察を深めていきたいと考えている。
図4は,双胎間輸血症候群(TTTS)レーザー治療後の症例であるが,静脈管のA波と下大静脈のA波の深さが一致しており,A波の深さが下大静脈への逆流の程度を表していることがわかる。

図4 TTTSレーザー治療後

図4 TTTSレーザー治療後

 

図5はMD双胎で,両児間の臍帯付着部の距離が非常に近く,付着部の間にAA吻合があるため,両児の臍帯を計測している。図は一方の胎児の位相差やINTERMITTENT UAREDVであるが,拡張期や逆流が認められており,もう一方の胎児の状態もDual Gate Dopplerで評価できると考えている。

図5 MD双胎

図5 MD双胎

 

また現在,当センターでは,FGR症例において臍帯に過捻転や血流障害があると,心臓-臍帯付着部間の臍帯動脈収縮期血流の位相差が増えるのではないかと考え,研究が行われている。実際に当センターの症例を見ると,重症FGRで臍帯過捻転のある症例では,正常例と比較し3〜4倍の位相差が認められることから,今後,こうしたデータを十分に集めて解析することで,胎児の生理学を解き明かすヒントにつながるのではないかと期待している。

まとめ

胎児ハイリスク症例におけるRTE,2DTT,Dual Gate Dopplerの臨床応用の可能性について検討し,いずれも十分に臨床応用可能と考えられた。今後は,より測定誤差をなくすための検討や,正常所見におけるnormogramの作成が必要と思われる。

●参考文献
1)伊藤吾子, 植野映, 東野英利子・他:乳腺疾患におけるElastographyの臨床応用. New Wave of Breast and Thyroid Sonology, 6, 50〜51, 2003.
2)中島一毅・他:乳腺超音波エラストグラフィ診療ガイドライン. 2013.
http://www.jsum.or.jp/committee/diagnostic/pdf/elast_nyusen_ja.pdf
3)Tsuda, H., et al. : Amniotic lamellar body counts can predict the occurrence of respiratory distress syndrome as well as transient tachypnea of the newborn(TTN). J. Perinat. Med., 39・3, 245〜250, 2011.
4)津田弘之・他:大動脈縮窄症に対する出生前診断の現況. 日本周産期・新生児医学会雑誌,46・1,22〜26, 2010.
5)Takahashi, Y., et al. : Uterine contractions increase fetal heart preload. Ultrasound Obstet. Gynecol., 22, 53〜56, 2003.

 

高橋雄一郎(Takahashi Yuichiro)
1994年,岐阜大学医学部卒業。1998年,同大学大学院医学系研究科にて博士号取得後,フランスV大学に臨床留学し,Y.Villに師事。胎児鏡レーザー手術を含めた胎児治療を習得。2005年〜現・長良医療センター産科。現在は産科医長として,ハイリスク周産期診療全般に従事。胎児治療,骨系統疾患の厚生労働省班会議に参加。

 

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