セミナーレポート(日立製作所)

日本超音波医学会第87回学術集会など超音波関連の学会が集まった超音波Week 2014が,2014年5月9日(金)〜11日(日)の3日間,パシフィコ横浜で開催された。初日に行われた日立アロカメディカル株式会社共催のランチョンセミナー3では,京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻教授の椎名 毅氏を座長に近畿大学医学部消化器内科学教授の工藤正俊氏が,肝線維化診断におけるReal-time Tissue Elastography(RTE)の有用性をテーマに講演した。

2014年8月号

超音波Week 2014 ランチョンセミナー3

肝線維化診断におけるReal-time Tissue Elastographyの有用性

工藤 正俊(近畿大学医学部消化器内科学)

工藤 正俊(近畿大学医学部消化器内科学)

われわれは,厚生労働科学研究費補助金“健康長寿のためのライフ・イノベーションプロジェクト”の“難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(肝炎関係研究分野)”において,2011年度から3年間,「慢性ウイルス性肝疾患の非侵襲的線維化評価法の開発と臨床的有用性の確立」(主任研究者:工藤正俊)の共同研究を行った。23施設が参加し,Real-time Tissue Elastography(RTE)を中心に,超音波エラストグラフィによる肝線維化の非侵襲的な診断の可能性について評価を行った。本講演では,これまでの研究結果と,2014年度からスタートする次の3年間の研究の方向性について概説する。

慢性肝疾患の病態把握の重要性

慢性ウイルス性肝疾患において,肝線維化の進展度を把握することは病態把握のために重要である。肝線維化が進むほど,発癌,胃食道静脈瘤などの門脈圧亢進症状,肝不全のリスクが高まることが知られており,予後や治療方針決定のために正確な評価が必要となる。これまでの肝線維化診断のゴールドスタンダードである肝生検は,疼痛や出血のリスク,サンプリングエラーや診断医による評価のバラツキなどの課題がある。したがって,肝生検に代わる非侵襲的肝病態診断法の確立が望まれる。

エラストグラフィの分類

超音波エラストグラフィは,圧迫による変形を測定する“Strain imaging”と,剪断弾性波の伝播速度を測定する“Shear wave imaging”に分類され,励起法としてそれぞれ用手的加圧,音響的加圧,機械的加圧の方法があり,各社から対応装置が発売されている1),2)
なかでも,用手的加圧によるStrain imagingであるRTEは,日立アロカメディカル社によって開発され,2003年に世界で初めて実用化されたエラストグラフィである。RTEでは,ROI内の相対的にひずみの小さい(硬い)部分を青,大きい(軟らかい)部分を赤,その間を256階調で色づけしてBモード画像に重ねて表示される。そのほか,Shear wave imagingには音響的加圧のVirtual Touch Quantification(VTQ),ShearWave Elastgraphy(SWE),機械的加圧のFibroScanなどがある。

RTEによる定量的評価の検証

ウイルス性肝疾患に対するRTEでは,肝線維化の進行とともに相対的に低ひずみ(青)の領域が増え斑な画像となるが,藤本らはこの青い領域をスコア化したものと線維化(F)ステージに高い相関があることを報告した3)
そこで,われわれは,慢性肝炎の進行に伴う線維化と結節の形成過程を表す構造モデルを作成し,線維化が肝組織にもたらす影響と,組織弾性像への反映をシミュレーションした。その結果,正常肝モデルから6.25%のひずみ画像まで,RTE画像の変化は肝線維化による変化そのものをとらえていることが確認できた(図1)。
さらに,線維化の程度を定量化し,客観的評価を行うため画像解析方法の検討を行った。RTE画像から得られるグレースケール画像,二値化画像,ヒストグラムから,Mean(ひずみ平均値)やSD(標準偏差)など9項目の特徴量を抽出して重回帰式を求め,肝線維化ステージの推定値であるLiver Fibrosis Index(LFI)を算出した4)

図1 肝線維化構造モデルによるRTE画像との相関の検証

図1 肝線維化構造モデルによるRTE画像との相関の検証

 

多施設共同研究によるRTEの評価

これらの成果を基に,上記の科研費補助金による多施設共同研究を行った。RTE画像解析結果と肝組織病理診断結果を比較し,LFIを用いたRTEの定量評価の正確性を評価することを目的とし,HBV149例,HCV516例の計665例を対象とした。RTEのほかFibroScan,VTQについても可能なかぎり検討し,肝生検については肝臓専門病理医3名によるblind readingを行い,RTEは動画によるセントラルレビューで検討した。
なお,肝線維化評価において,肝生検標本による診断では,手術組織標本診断をスタンダードとした場合に比べて,30%前後の誤診が生じることが知られているが,今回の解析における日本を代表する3名の肝臓専門病理医によるblind readingでは,肝生検標本での正診率は90%であり,手術組織標本を用いた解析と遜色ない結果が得られると判断した。
臨床例での検討の結果,肝線維化のFステージとLFIには高い相関が認められた5)図2)。さらに,RTEに血小板やPTなどの血清マーカーを加えることで,特にF3,F4ではFibroScanやVTQに優る結果が得られた(図3)。

図2 肝線維化ステージとLFI (参考文献5)より引用転載)

図2 肝線維化ステージとLFI
(参考文献5)より引用転載)

 

図3 LFI+血清マーカーによる診断能の向上

図3 LFI+血清マーカーによる診断能の向上

 

データマイニング法を用いた診断

超音波エラストグラフィでは,どの手法を用いてもFステージ間の重なりが存在し,示された数値だけではステージを明確に決定できない。症例数を増やすことで統計学的有意差を出すことはできるが,それだけでは臨床医にとっては蓋然性が判断できず,肝線維化診断において肝生検を代替することは難しい。そこで,この問題を解決するために,データマイニング法を用いた新しい個別診断法を開発した(図4)。
C型肝炎のLFIと血清マーカーによる判定に加えて,ALT,AST,PLTなどの検査結果を用いて統計学的にデータマイニングを行うことで,Fステージの診断能が向上する。これにより,臨床に応用可能なデータとして提供できる可能性が示された。

図4 データマイニング法を用いた診断(RTE)

図4 データマイニング法を用いた診断(RTE)

 

RTEの優位性

RTEでは,慢性B型肝炎の急性増悪でビリルビン値が上昇している場合でもLFIは一定している。一方,FibroScanやVTQなどShear wave imagingでは,炎症,うっ血,黄疸などの影響を受けて値が変動することがわかっており,線維化を正しく測定できないことがある。また,自己免疫性肝炎や胆汁うっ滞型薬物性肝障害などでも,Shear wave imagingはALTの変化やうっ滞の改善に伴って数値の変化が見られるが,RTEではその影響を受けずに非侵襲的に肝線維化を評価できる。

肝線維化診断の今後の課題

われわれは,引き続き2014年度から3年間で厚生労働科学研究委託費「慢性ウイルス性肝炎の病態把握(重症度・治療介入時期・治療効果判定・予後予測)のための非侵襲的病態診断アルゴリズムの確立」の研究に取り組む。
これまで報告された超音波エラストグラフィによる肝硬度診断法では,ほぼすべてで肝生検病理組織を用いた診断をゴールドスタンダードとしているが,肝組織診断基準(犬山分類)のステージング(F)は連続性変化である線維化を5段階に分類するため,病理医間の不一致が起こる。また,サンプリングの問題点として,生検組織は肝臓全体の5万分の1であること,同一肝であっても線維化は不均一に起こることなどがあり,肝生検をゴールドスタンダードとするのは適切ではないと考えられる。
そこで,次の研究目的としては,切除標本をゴールドスタンダードとし,RTEおよびその他の超音波エラストグラフィの結果と対比することで,肝生検診断よりも正確な肝線維化や病態把握の手法を開発することである。さらに,最終目標としては,データマイニング解析によって,異なる装置を使っていても,そのまま適用可能なデシジョンツリー(肝病態診断指標)を確立することである。これによって,肝生検標本よりも正しい病態診断法の開発が可能になると考えている。

●参考文献
1)Shiina, T. : JSUM Ultrasound Elastography Practice Guidelines. ; Basics and Terminology. J. Med. Ultrasonics, 40, 309〜323, 2013.
2)Shiina, T., et al. : WFUMB Practice Guideline on Ultrasound Elastography. UMB, 2014(in press).
3)Fujimoto, K., et al. : Non-invasive evaluation of hepatic fibrosis in patients with choronic hepatitis C using elastgraphy. MEDIX(suppl.), 24〜27, 2007.
4)Kudo, M., et al.: JSUM ultrasound elastography practice guidelines ; Liver. J. Med. Ultrasonics., 40, 325 〜357, 2013.
5)Yada, N., et al. Assessment of liver fibrosis with real-time tissue elastography in chronic viral hepatitis. Oncology, S. Karger AG. Basel, 84(Suppl.),13〜20, 2013.

 

工藤 正俊(Kudo Masatoshi)
1978年京都大学医学部卒業。神戸市立中央市民病院内科勤務などの後,87年からカリフォルニア大学デービスメディカルセンター留学。92年,神戸市立中央市民病院消化器内科医長を経て,97年から近畿大学医学部第2内科学助教授となり,99年より消化器内科教授。2014年から一般社団法人日本超音波医学会理事長。

 

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