セミナーレポート(富士フイルムヘルスケア)

第102回日本泌尿器科学会総会が2014年4月24日(木)〜27日(日)にわたって,神戸国際展示場・神戸ポートピアホテル(神戸市)にて開催された。初日に行われた日立アロカメディカル株式会社共催のランチョンセミナー4では,日立総合病院泌尿器科主任医長の宮川友明氏を座長に,医療法人豊田会刈谷豊田総合病院泌尿器科部長の田中國晃氏と東京医科歯科大学附属病院泌尿器科講師の齋藤一隆氏が,前立腺診断におけるRVS(Real-time Virtual Sonography)の活用をテーマに講演した。

2014年7月号

第102回日本泌尿器科学会総会ランチョンセミナー4 RVSを活用した前立腺診断と治療の最前線

イメージガイド下における前立腺癌治療 ~Focal therapyへの展開~

齋藤 一隆(東京医科歯科大学医学部附属病院泌尿器科)

齋藤一隆 氏

齋藤一隆 氏

超高齢社会を迎えたわが国では,前立腺癌が急増することが予想されている。本講演では,RVSガイド下前立腺生検の位置づけ,評価とともに,新しい治療であるFocal therapyへの応用について述べる。

RVSガイド下狙撃生検による質的診断の向上

経過観察と前立腺全摘除術を比較した前向き試験であるSPCG-4(Scandinavian Prostate Cancer Group Study 4)や,PIVOT(the Prostate Cancer Intervention Versus Observation Trial)などの結果から,根治療法による生存率の改善は一部の症例にとどまり,治療関連合併症のリスクを考慮すると,全例への根治療法は過剰治療の可能性があることが示された。これからの前立腺癌の診断においては,治療の必要性がある癌を効率良く見つける生検法が求められる。癌の存在診断はもちろん,グレーディングやボリュームなどの質的診断の向上がより重要となる。質的診断の向上に向けて,当科で実施してきた26箇所生検のようなコア数を増やすSuper Extended biopsyや,画像情報を効率良く生かす生検が模索され,Image Fusion Biopsyにより診断能の向上が図られている(図1)。

図1 生検による質的診断の向上

図1 生検による質的診断の向上

 

当科が2013年にJ. Urologyで報告したデータでは,生検前MRIは従来の経直腸12箇所生検では診断が難しいような病変を検出するのに有用であったことが示されている。また,超音波画像とMR画像のフュージョンガイド下狙撃生検と12箇所経直腸生検を比較したEur.Urologyの論文では,フュージョンガイド下の方がよりグレードの高い癌を効率良く検出できると報告されている。
当科における前立腺生検の変遷と前立腺部分治療の導入について図2に示す。2002年より標準生検法として3Dの経会陰+経直腸26箇所生検を始め,2005年頃からは14箇所生検に移行している。生検前MRIは2008年頃から全例に施行し,2010年頃より狙撃生検を開始。2012年にReal-time Virtual Sonography(RVS)システムを導入し,MRIと超音波画像のフュージョンガイド下狙撃生検を実施している(図3)。
当科でのRVSガイド下狙撃生検の診断能を前向き解析し,経会陰,または経会陰と経直腸を組み合わせた14箇所生検と,経会陰4本のMRガイド下狙撃生検(MRBX)について,significant cancerとinsignificant cancerの検出率,および陽性コアの同定率を比較した。その結果,全216例でのsignificant cancerの陽性率は62%で,両者の検出率に差は認められなかった。insignificant cancerの検出率については,MRガイド下狙撃生検の方がやや検出率が低く,治療が必要な癌を効率良く検出する可能性が認められた。

図2 当科の前立腺生検法の変遷とFocal therapyの導入

図2 当科の前立腺生検法の変遷とFocal therapyの導入

 

図3 RVSガイド下狙撃生検

図3 RVSガイド下狙撃生検

 

Focal therapyへのアプローチ

近年,早期泌尿器癌の治療法は変わりつつあり,前立腺癌にも低侵襲手術,ロボット支援手術,高精度放射線治療などが適用されているが,いずれもいわゆる全体治療の域を出ない。一方,非観血的な部分治療であるFocal therapyは,すでに海外では積極的に行われている。
Focal therapyを進めるに当たっては,患者の選択が最も難しい問題となる。Focal therapyを実現するには,前立腺内の病巣あるいは領域ごとにsignificant cancerの有無を正確に評価することが必要である。画像診断を活用した狙撃生検がindex lesionの正確な評価には有用と言える。

●Focal therapyの種類

Focal therapyには,病巣を特定して,病巣自体を治療するLesion-specific Focalアプローチと,治療の必要性が低い領域は温存するSegmental Focalアプローチがある(図4)。前者はTrue Focalと言われるような,病変自体を見つけて治療する方法であり,後者は前立腺の半分(Hemi-gland Focal),もしくは1/4(Subtotal Focal)を温存する領域として設定し,部分的に治療する方法である。
Lesion-specific Focalな治療は,多くの非癌前立腺組織を温存できるが,病巣マージンの同定が難しく,非可視病巣が治療困難なため,過少治療となるリスクがある。
Segmental Focalな治療は,治療が比較的容易で,非可視病巣も治療対象とすることができる。過剰治療となる可能性はあるが,全体治療に比べれば良好な機能予後が期待できる。当科は現在,過少治療を避ける方法でFocal therapyを実施している。

図4 Focal therapyの標的部位設定

図4 Focal therapyの標的部位設定

 

●Focal therapyの適格症例の選択方法

患者の選別では,テンプレートマッピング生検を標準として推奨する施設が多いが,手技が煩雑で汎用性が低いという欠点がある。MRIによるindex lesionの評価が有用であり,当科では標準的な系統的生検とMRIを併用した方法によって選別を行っている。
最近,Eur.Urologyに発表されたInternational Multidisciplinary Consensusでは,Focal therapyのためにはMRIと超音波画像のフュージョンガイド下生検を加える必要があると報告している。
当科の検討では,前立腺を左右に分け,それぞれをMRIで評価した時,陰性のlobesとされた側にsignificant cancerが存在する割合は3割程度である。また,当科で標準としている経会陰8本,経直腸6本の14箇所の系統的生検で,癌が検出された側の反対側にsignificant cancerがある割合もやはり3割程度あった。しかし,生検で癌が検出されず,MRIでも陰性だったlobesにsignificant cancerがあるリスクは,5%未満であったことを報告した。

●当科におけるHemi-gland brachytherapyの成績

2013年にBrachytherapyに報告されたFocal brachytherapyのパイロットスタディの結果は,治療標的の容量が小さいことから病変を特定するTrue Focalであったと推測されるが,排尿機能,性機能が全体治療より良好に保たれ,機能予後の改善に有用だったとされている。
当科におけるHemi-gland brachytherapyは,生検とMRIで癌が片葉にとどまると評価され,T2a以下,PSA: 20ng/mL以下,Gleasonスコア7以下,最大癌長10mm未満の症例に施行している。尿道を正中線として左右に分け,治療標的側に160Gyの小線源を刺入する。実際の手技では,ライブプラン法で小線源を刺入する(図5)。

図5 RVSガイド下の小線源刺入

図5 RVSガイド下の小線源刺入

 

術後は,IPSSなどで評価しつつ,フォローアップする。これまでの症例数は20例,年齢の中央値は70歳で,リスク分類はlowが50%,intermediateが50%である。術後のPSA値は全例で改善しており,Phoenixの定義に基づく生化学的再発は認められていない(図6)。MRIによる評価でも,病変の消失が確認された。

図6 Hemi-gland brachytherapy術後のPSA値

図6 Hemi-gland brachytherapy術後のPSA値

 

IPSSによる評価では,術後早期にいったん機能の低下が認められるが,半年から1年後には治療前のスコアまで回復している。全体治療と比較すると,Hemi-glandの方が若干良好な印象であった。また,EPICでの排尿機能の評価も,同様の傾向であった。
IIEF5などでの性機能の評価においても,術前と術後に大きな差はなかった。ただし,ベースラインでのスコアが20以上の比較的アクティブな症例では,治療早期にいったんスコアが低下し,徐々に回復して,全例で射精可能であった。

まとめ

RVSによるMRIと超音波画像のフュージョンガイド下狙撃生検はsignificant cancerのより効率的な診断を可能にし,限局性前立腺癌に対する適切な診断・治療に有用である。
標準的多箇所生検にMRI狙撃生検を加えることで,Focal therapyに向けた局在診断が可能となる。
片葉小線源療法は,短期の癌制御,機能予後は良好であり,評価法,救済療法など検討すべき事項はあるが,前立腺癌に対する部分治療法の1つとなる。

 

齋藤 一隆(Saito Kazutaka)
1994年 東京医科歯科大学医学部卒業。2005年 東京医科歯科大学大学院修了。2011年〜東京医科歯科大学医学部講師。

 

●そのほかのセミナーレポートはこちら(インナビ・アーカイブへ)

【関連コンテンツ】
TOP