経営者のための医療ITセミナー(東京)/ 医療現場のワークフロー変革セミナー(大阪)

2018年12月号

経営者のための医療ITセミナー(東京)/ 医療現場のワークフロー変革セミナー(大阪)

次世代医療基盤法について

田中 謙一(内閣官房健康・医療戦略室参事官) / 山田 協(内閣官房健康・医療戦略室企画官)

田中 謙一(内閣官房健康・医療戦略室参事官) / 山田 協(内閣官房健康・医療戦略室企画官)

本講演では,2018年5月11日に施行された「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律(次世代医療基盤法)」について,目的や医療関係者が理解しておくべきポイントについて解説する。

医療分野における情報の利活用の課題

次世代医療基盤法の最大の要点は,2017年5月30日に改正された「個人情報の保護に関する法律(改正個人情報保護法)」に対する特例を設けたことである。
国民皆保険制度のわが国では,診療行為の実施情報(インプット)として診療報酬明細書(レセプト)があり,その利活用のためのデータベースを厚生労働省が構築しているが,診療行為の実施結果(アウトカム)に関する情報の利活用は進んでおらず,課題となっていた。また,わが国の場合,民間病院が多く,保険者も分立しているため,情報が分散してしまっており,質の高い大規模なデータを収集する必要がある。
さらに,改正個人情報保護法では,病歴などが「要配慮個人情報」に位置づけられ,オプトアウトによる第三者への情報の提供が禁止された。そこで,改正個人情報保護法では,個人を特定できない匿名加工した情報を利活用できるようにした。
この仕組みの下では,個々の患者から同意を得た上で企業や研究機関などの第三者へ情報を提供するか,あるいは医療機関の責任において,自らあるいは外部に委託して匿名加工を行い情報を提供することになる。しかし,現実的には,医療機関が匿名加工を行うのは困難である。加えて,一人の患者が複数の医療機関を受診していると,匿名加工した情報では名寄せができなくなり,情報としての価値が低下してしまうという課題がある。

次世代医療基盤法の目的と情報の利活用

次世代医療基盤法では,このような課題を解決するための新たな選択肢が設けられた。これは,国が匿名加工を行う事業者を認定し,医療機関はオプトアウトのルールに基づいて,その認定事業者へ匿名加工せずに情報を提供するというものである(図1)。医療機関は患者の初診時に書面での通知を行うことで,患者が拒否しないかぎり,匿名加工の責任を負うことなく,認定事業者へ情報を提供できる。さらに,認定事業者は,匿名加工した情報を企業・研究機関などの第三者との間で利用目的に応じて契約して,個別に匿名加工医療情報を提供することが可能になる。これにより,多数の医療機関から情報収集を行い,分散していた情報を名寄せして統合し,利活用の価値の高いデータにすることができる。
情報の利活用に当たっては,目的・形態を決める必要があるものの,その主体に制限はない。医療分野の研究開発に資するものであれば,行政,研究者,国民・患者,企業など幅広く利活用できる。次世代医療情報基盤は,研究開発のための手段・ツールであり,利活用の可能性は無限大である。利活用する側から,新たなアイデアが創出されることが期待される。

図1 次世代医療基盤法の全体像(匿名加工医療情報の円滑かつ公正な利活用の仕組みの整備)

図1 次世代医療基盤法の全体像
(匿名加工医療情報の円滑かつ公正な利活用の仕組みの整備)

 

次世代医療基盤法のポイント

次世代医療基盤法の下で次世代医療基盤を構築し,情報を利活用していくためには,それによって最適な医療を提供できるようになることを,国民・患者に理解してもらうことが重要である(図2)。そして,国の認定を受けた事業者が高いセキュリティを確保した上で,個人が特定されないよう匿名加工を行っていることを周知する必要がある。
また,医療機関からの情報提供への協力も欠かせない。協力を得るためにも,医療機関の方には,オプトアウトでの提供は施設内の倫理審査委員会の承認などが不要であること,初診時に患者に対して情報提供の通知を書面で行うことを理解してもらうことが大切である。
さらに,情報の利活用者には,医療分野の研究開発であれば主体を問わず利活用可能であること,アウトカムや複数の医療機関にまたがる利用価値の高い情報を利活用できること,匿名加工は一般人や一般的な医療従事者を基準に判断し,情報の共有範囲を契約で明確化して,特定の個人と識別できないようにすること,利活用に際して倫理審査委員会の承認などは不要であることを認識してもらうことも重要である。

図2 次世代医療基盤法のポイント

図2 次世代医療基盤法のポイント

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