技術解説(富士フイルム)

2018年5月号

FUJIFILM TECH FILE 2018

デジタルX線画像技術をX線動画へ応用したCOREVISION シリーズ

高見  実(富士フイルム株式会社メディカルシステム事業部)

はじめに

X線透視撮影は,手術中にX線を連続的に照射して,体内の様子を観察する手法である。整形外科や脳神経外科領域などの手術では,患者の身体的負担を軽減するため,血管内のカテーテル治療など低侵襲な手技が広く用いられている。低侵襲手術は患者QOL(Quality of Life)向上に寄与することから,今後,さらに増加が見込まれる。低侵襲手術では,患者の治療部位を大きく切開しないため,X線透視のモバイルCアームが必須であり,外科治療領域ではモバイルCアームへの関心が高まっている。
X線透視撮影はX線量が少ないため,透視動画像にはノイズが多く画像の観察がしにくい。また,X線吸収差の大きい部位では,透視動画像の全体コントラストが安定せず,観察したい領域の視認性が低下する。低侵襲手術の増加に伴い,透視動画像に対する高画質のニーズも高まり,患者体内にある治療具や被写体構造が高鮮鋭に描出されることが求められている。また,特に脊椎外科手術では,X線透視撮影をしながら治療行為を行うため,術者のX線被ばくへの関心も併せて高まっている。
当社は,デジタル画像診断領域で培ったフラットパネルディテクタ(以下,FPD)技術と動画に応用した画像処理技術を新開発することにより,潜在していた問題を解決し,X線被ばく低減にも貢献する外科用モバイルCアーム(図1)を開発した。

図1 X線透視診断装置「COREVISION 3D」

図1 X線透視診断装置「COREVISION 3D」

 

ISS方式を採用した動画用フラットパネルディテクタを新開発

当社カセッテDRシリーズ「CALNEOシリーズ」(図2)のデジタルX線画像診断システムでは,ISS(Irradiate Side Sampling)方式のFPDを採用している。一般的なFPDは,X線の入射面(被写体側)にシンチレータ層,出射側にTFTパネル(検出器)を配置する方式が取られるのに対し,CALNEOシリーズは入射面にTFTパネル,出射面にシンチレータを配置するISS方式を採用している。ISS方式の特長は,X線入射面側で発光した最も強い光をTFTパネルの最も近い部分で検出でき,シンチレータ層の光の拡散の影響を受けにくいため,光の強度が強くボケの少ない画像を得られることである(図3)。これにより,高感度化が可能となり,かつ鮮明な画像を得ることができる。
今回,デジタルX線画像診断システムで培ったFPD技術を応用し,外科用モバイルCアームでは最大級の31cm×31cmで150μmの高精細な画素サイズの動画用FPDを新開発した。

図2 デジタルX線画像診断システム「CALNEO Smart」(認証番号:第226ABBZX00085000号)

図2 デジタルX線画像診断システム「CALNEO Smart」
(認証番号:第226ABBZX00085000号)

 

図3 ISS方式と従来方式の違い ISS方式は従来方式に比べて感度向上と解像度維持を両立する。

図3 ISS方式と従来方式の違い
ISS方式は従来方式に比べて感度向上と解像度維持を両立する。

 

新動画処理エンジン「ダイナミックコアエンジン」の開発

当社は,長年のX線静止画像で培ってきた画像技術をX線動画領域へ応用し,ノイズを抑えた高鮮鋭なX線動画像を表示することができるX線動画処理エンジン「ダイナミックコアエンジン」を開発した。
一般的なX線動画のノイズ除去の方法は,透視動画を構成する連続的な静止画(フレーム)をただ単純に重ね合わせ,その平均値を基に画像処理を行う方法が用いられている。この従来の方法では,フレーム間で観察部位が局所的に動いた場合,残像の発生や鮮鋭性の低下につながる(図4 b)。
当社のダイナミックコアエンジンは,動画を構成する1枚1枚の静止画(フレーム)にノイズ低減処理を施し,さらに患者の体の動いた領域を高精度に検出して,前後のフレームを重ね合わせることで鮮鋭度の低下を抑制することができる(図4 c)。また,最大25fpsの高フレームレートでも,処置具や患部などの対象物を鮮明に描出する高鮮鋭なX線動画を得ることができる。さらに,静止画ですでに実用化されている「ダイナミック処理」を適用することで,ハレーションを抑制し被写体全体を可視化しながらも高コントラストな透視画像を得ることができる(図5)。
このダイナミックコアエンジンにより,少ないX線量でもクリアな画像を実現し,部位など条件にもよるが,最大で約50%までX線量を低減してもほぼ同等の画像を提供する。

図4 「ダイナミックコアエンジン」による画像処理

図4 「ダイナミックコアエンジン」による画像処理

 

図5 透視画像への「ダイナミック処理」

図5 透視画像への「ダイナミック処理」

 

高画質な3D再構成画像を術中に確認

COREVISION 3Dは,手術中に対象部位を180°相当のスキャンが可能で,これにより3D再構成画像が描出できる(図6)。術中3D撮影によって,脊椎の圧迫骨折による椎体間固定術や膝などの人工関節置換術で,体内に挿入したインプラントやスクリュー,固定プレートの位置など,手術室を移動することなくさまざまな角度から,その場で観察が可能になる。これにより治療精度の向上と,手術時間の短縮化や患者の負荷軽減につながることが期待される。

図6 術中3D撮影

図6 術中3D撮影

 

おわりに

富士フイルムは,ハードウエアから画像処理ソフトウエアに至るすべての領域に対して先進の技術をもって,X線画像診断領域の高画質化,低被ばく化をめざしてきた。今後,さらに患者のQOLの向上や医師,診療放射線技師の方々の高効率化に貢献するべく,動画像分野へも当社の技術を注ぎ込み,医療の質向上に貢献していく。

製品名 COREVISION 3D
販売名 X線透視診断装置 CoreVision 3D
認証番号 第230ABBZX00033000号

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