技術解説(富士フイルム)

2016年4月号

Abdominal Imagingにおけるモダリティ別技術の到達点

腹部領域における解析アプリケーションの紹介

大島 俊介(ITソリューション事業本部事業推進部3D営業技術グループ)

従来,CT,MRIなどの断層撮影画像は平面情報をフィルムに印刷,また,医療用モニタ上に表示し患者への説明や手術支援に用いられていた。同時に断層撮影画像を用いた画像処理,三次元可視化技術は,医学系・医用工学系学会などで発表・論文投稿されていたが,近年,臨床現場で求められている処理速度,解析精度に画像処理,可視化技術が追いついてきたことにより,従来と比較しインフォームド・コンセントや手術前のシミュレーションなどに用いられる機会が急増している。
本稿では,富士フイルムメディカルが2008年に販売を開始した三次元画像解析システムボリュームアナライザー「SYNAPSE VINCENT(VINCENT)」に搭載している腹部領域におけるアプリケーション,および解析結果画像の出力機能について紹介する。

■肝臓解析(CT):肝受容体シンチグラフィの非剛体位置合わせ

従来のバージョンから,肝臓切除術の術前評価で利用されている肝臓解析のシミュレーション結果に肝受容体シンチグラフィを合成して表示し,切除領域,残肝領域の体積における容量評価に加え機能評価を行える。しかし,シミュレーションで利用するCT画像は呼気および吸気,1呼吸相で撮影するのに対し,肝受容体シンチグラフィにおいては自由呼吸下でプロジェクションデータを収集しているため,撮影時の呼吸相の違いが肝臓領域の形状の違いを発生させ,正確な肝機能評価を行うことができなかった。
最新の“肝臓解析(CT)”では,CT画像に対しSPECT画像を変形させて位置合わせを行う非剛体位置合わせを搭載しており,従来と比較し,より正確な機能評価を実現できると考えている(図1)。

図1 非剛体位置合わせを用いた肝臓解析シミュレーション画像

図1 非剛体位置合わせを用いた肝臓解析シミュレーション画像
CT画像の肝臓領域に対してSPECT画像を非剛体位置合わせした後の肝切除シミュレーション画像(a)。SPECT画像を変形させた後の残肝領域,切除予定領域ごとのカウント率を算出できるため,呼吸相による形状の位置ズレを補正した肝機能評価を行える。また,SPECT画像を切り替えることで肝容量評価(b)と比較して観察できる。

 

■腎臓解析(Ver4.0〜)

『腎癌診療ガイドライン2011年版』に,「腫瘍径4cm以下(TNM分類におけるT1a)の腎癌患者において腎部分切除は推奨されるか?」に対し,推奨グレードB,つまりエビデンスがあり,推奨内容を日常診療で実践するように推奨する,と記載されている。また,近年盛んなロボット支援による腎臓手術において,術野の狭視野による影響を補うため術前に腎臓,動脈,尿管など脈管系や,腎腫瘍の各位置の把握,腎部分切除における切除箇所と周囲の脈管系との関係性は大変重要となる。
“腎臓解析”では,シミュレーション用画像の作成に要する処理時間の短縮,異なるユーザー間のシミュレーション結果に誤差を発生させないように,富士フイルムのデジタルカメラの顔認識技術に利用されている“Image Intelligence”技術を用いた高速・高精度な画像処理アルゴリズムを,手術シミュレーションに必要な臓器の自動抽出に利用している(図2)。
また,腎部分切除時の阻血領域をシミュレーションする脈管の支配領域抽出,腎腫瘍の核出術をシミュレーションする“くりぬき領域”抽出といった手術シミュレーション用の各種機能は,肝臓解析で搭載ずみの機能を踏襲している。
本アプリケーションで手術の根治性と安定性の実現に寄与できればと考えている。

図2 CT画像から腎臓,動脈を自動抽出したシミュレーション画像

図2 CT画像から腎臓,動脈を自動抽出した
シミュレーション画像

 

■囊胞腎解析(Ver4.4〜)

常染色体優性多発性囊胞腎疾患用の内服薬として,大塚製薬創製の「サムスカ」が挙げられるが,サムスカの添付文章に効能・効果に関連する使用上の注意として,両側総腎容積が750mL以上,腎容積増大速度がおおむね5%/年以上といった,腎臓の容量に関する注意事項が記載されている。
従来は,単純CT画像を用いて腎臓領域を手動で抽出し体積値を算出していたが,VINCENT Ver4.4から単純CT画像の囊胞を含む腎臓の半自動抽出,また,抽出結果の経時観察を行える“囊胞腎解析”を開発,販売している。
囊胞を含む腎臓の長径をユーザーが設定することで,複雑な形状をした囊胞腎領域を抽出する。今まで手動で行っていた抽出作業時間の短縮,および経時観察機能により,腎臓体積の増加・減少率の管理を行うことができる(図3)。

図3 囊胞腎解析画面

図3 囊胞腎解析画面
腎臓の半自動抽出,各腎臓の全体容量の算出などを行える。

 

■解析結果の出力

VINCENTをサーバー・クライアント型として導入している場合,VINCENTを利用できるクライアントでは原画像から作成した各種3D表示を任意に観察したい方向へ操作できるが,外勤先,また,学会発表などオフライン環境では,観察対象を静止画や動画で出力し,オペレーションシステムに標準搭載されているペイント・動画再生アプリケーションや各種プレゼンテーションソフト上で観察していた。
VINCENT Ver.4.0から“オフラインVR”(図4),Ver4.4から“3D PDF”(図5)を搭載している。オフラインVRはInternet ExplorerなどのWebビューア上,3D PDFはAdobe Reader上で3Dコンテンツを任意方向で観察できる,VINCENTから出力できるファイルである。

図4 オフラインVR表示例

図4 オフラインVR表示例
Internet ExplorerなどのWebビューア上で
任意の3D表示を行える。

 

図5 3D PDF表示例

図5 3D PDF表示例
Adobe Reader上で任意の3D表示を行える。

 

近年,3Dワークステーションは,解析するための画像が発生する放射線科に加え,各診療科の医師などが利用する機会が増加している。今後も放射線科,各診療科の医療従事者に積極的に利用いただけるような機能,システムを提供していきたいと考えている。

 

●問い合わせ先
富士フイルムメディカル株式会社
マーケティング部
〒106-0031
東京都港区西麻布2-26-30
TEL:03-6419-8033
http://fms.fujifilm.co.jp

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